社説:小泉氏と細川氏 教訓踏まえた再挑戦を

毎日新聞 2014年05月24日 02時30分

 さきの東京都知事選で連携した細川護熙、小泉純一郎両元首相を中心に脱原発を目指す組織「自然エネルギー推進会議」が発足した。国民運動に軸足を置いて再挑戦しようとする試みだ。

 両元首相の意気込みは評価するが、2人の発信力頼みの戦略では、やはり限界がある。政策提言、民間組織との連携など、在野のけん引役としての実質を備え得るかどうかが問われよう。

 推進会議は一般社団法人として発足、発起人には両元首相のほか哲学者の梅原猛氏、作家の瀬戸内寂聴さんらが参加した。賛同人にも俳優の吉永小百合さん、歌舞伎俳優の市川猿之助さんら多彩なメンバーが名を連ねている。政治活動と一線を画し、視察や対話集会などの啓発活動を行うという。

 福井地裁による関西電力大飯原発運転差し止め判決は原発の安全性をめぐる問題の重大さを改めて突きつけた。にもかかわらず国会で脱原発を掲げる勢力の存在感は低下し、政府が決めたエネルギー基本計画は細川氏が批判するように「反省も教訓もなしに(原発を)再稼働していく」内容に等しい。惨敗した都知事選の挑戦を一過性に終わらせずに活動を継続した判断はうなずける。

 細川氏は7日の設立総会以来体調に不安があったが、23日の会合には出席した。小泉氏は設立総会で「『過去の人』と言われようが、原発のない国づくりへ頑張る」「死ぬまで頑張らなければ」と述べ、原発ゼロ実現へ執念をみせた。小泉氏は先月末、財界主導の民間研究機関の顧問も辞任したという。より、活動の前面に出ていく腹をくくる時だ。

 一方で、注文もある。都知事選で細川氏が追い風を呼べなかった要因には発信力の強い両元首相でも「原発ゼロ」のスローガン頼みでは有権者の共感を呼べないという厳しい現実があったはずだ。自治体、NPOなどとの連携網構築や自然エネルギーを活用した具体的で説得力ある脱原発のアピールなど組織、政策両面の活動が欠かせない。

 政治活動との境界も現実には微妙だ。政界には「秋の福島県知事選などに何らかの形で関与しようとしているのではないか」との臆測も根強いが小泉氏は「選挙応援は今後しない」と断言している。確かに政局の思惑が先走る形で地方選に参入したところで、住民の共感を呼べるかどうかは都知事選以上に疑問である。

 政党側の両元首相の活動への反応はおおむね冷ややかだ。とはいえ、各界の識者がエールを送り、出直した意味は決して小さくあるまい。若い世代も意識した運動で、うねりを起こしてほしい。

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