メディアに聞く
大阪と東京の報道の違い
佐藤 泰博(さとう やすひろ)産経新聞大阪本社 編集局経済部長

- 大阪と東京の報道の違いは
佐藤 産経新聞の部数は160万部で、大阪本社管内で90万部、東京本社管内で70万部発行している。全国紙であるが、読者の多くは関東、関西に集中している。他紙と大きく違うのは、東京は10年前に夕刊を廃止して朝刊単独紙となっているが、読者ニーズが異なる大阪では夕刊を続けていることだ。このため、夕刊は大阪中心で製作している。
大阪と東京では紙面も大きく異なる。東京の1面にある漫画や大型コラムは、大阪では社会面やオピニオン面に掲載されている。夕刊のない東京はニュースを単に知らせるのではなく、ニュースの背景や意味合いを重視した紙面にしており、一方、大阪ではニュースで他紙と勝負したいと考えている。
このため1面のニュースも異なることがしばしばある。東京は、中央のニュースが中心だが、大阪は地元重視というスタンスだからだ。経済面を見ても、東京の第3経済面は、国際経済を扱っているが、大阪は、第3経済面を「関西Biz」として地域経済に特化した、他紙にもない紙面にしている。大阪発の1面連載も多く、社会部は、今年100周年を迎えた吉本興業を取り上げて話題を呼んだし、原発比率が高い関西電力の行方が関西経済の大きなカギとなるという視点から原発問題をもう一度見つめ直してもらうため連載「原発再考」を大阪経済部が中心となって取材した。
今は「関西経済の転換点」にあると考える。「関西の浮揚」を常に念頭に置き、編集している。特にエネルギー問題では時流に迎合せず、本質を突いた、ぶれない報道を心掛けている。

- 産経新聞は、ウェブにも力を入れている。大阪でも積極的に取り組んでいるようだが。
佐藤 産経新聞では、新聞に掲載された記事をウェブに載せるのではなく、ウェブ向けに記事をつくっている。これは、記者の実力向上にも役立つ。新聞の紙面には限りがあるので、30行しか書けないことがある。これに対し、ウェブは行数に関係なく記事が書けるからだ。最近はデスクもウェブ用に、「経済裏読み」などの記事を書いており、部の活性化にも繋がっている。
産経新聞社ではまた、新聞の紙面に載る前でも記事をウェブに流すようにしている。これを「ウェブ・ファースト」と呼んで、ウェブ重視の姿勢を現場に植え付けてきた。今は、さらに進んで「ウェブ・パーフェクト」を目指しており、ウェブ媒体である「MSN産経」を見れば、一日のニュースを完璧に分かってもらえるようにしている。
昨秋からは、関西に特化したサイト「MSN産経ウエスト」を立ち上げ、大阪編集局で運用している。欧州で人気のある「タイガー」という雑貨店が大阪に日本初進出した時は、「ウエスト」が取り上げたのが発端で、人気が出過ぎて一時期、臨時休業せざるを得なくなったことがあった。ネットの影響の大きさに驚かされるとともに、大きな可能性を感じた。
「ウエスト」の昨年10月の月間ページビューは3200万だったが、今では9000万になっている。しかも、興味深いのは、アクセスしてくる3分の1は首都圏の人であることだ。大阪で発行している産経新聞は、関西圏の読者しか読めないニュースも多いが、ウェブでは全国の人に見てもらえるのも張り合いになる。

- 最後に企業広報担当者に一言。
佐藤 普段はどんなに性格が良さそうに見える記者でも、締め切り時間が迫ってくると、別人のようになることに気付いている方も多いと思う。記者は、締め切り時間が「生命線」で、それに合わせて動いている。また締め切り時間は早版、遅版などで異なり、ひとつではないため、戸惑うこともあるだろう。またテレビと新聞、さらには同じ新聞でも経済部記者と社会部記者では関心が異なるが、そうした記者の特性を理解してもらえればありがたい。ただ、どこの記者であっても、信頼を築くことと、クイックレスポンスが大事だ。
1987年産経新聞社入社。和歌山支局、大阪社会部、和歌山支局次長、神戸総局次長などを経て、2002年大阪社会部次長、2005年東京文化部次長、2007年神戸総局長、2009年大阪本社総合企画室次長、2010年10月より現職。
(聞き手:国内広報部長 佐桑 徹)