これはあまりにも乱暴ではないか。

 集団的自衛権の行使を認める閣議決定を今国会中にする。そのための公明党との協議を急ぐように――。安倍首相が自民党幹部にこう指示した。会期末は22日。首相は、延長は考えていないと言っている。

 政府の憲法解釈の変更によって集団的自衛権を認めることはそもそも、法治国家が当然踏むべき憲法上の手続きをないがしろにするものだ。

 それを、たった2週間のうちに行うのだという。認めるわけにはいかない。

 首相の指示を受けて自民党は、行使容認に難色を示す公明党との協議を強引に押し切ろうとしている。

 おとといの協議では、自民党側が終了間際になって、それまで議論されていなかった集団的自衛権にからむ「事例」をいきなり持ち出した。さらに、閣議決定の文案を用意するよう政府側に求めた。

 政府が示した15事例に、どれほどの必然性があるのか、判然としない。公明党を容認論議に誘い込むための「呼び水」という意味合いが強いのに、その検討ですら駆け足ですませようとしている。

 自民党と公明党は、党としての成り立ちも、支持基盤も、重視する政策も異なる。そこから生じる意見の違いを埋めてきたものは何か。

 選挙協力や政策決定への関与といった打算も互いにあるだろう。ただ、少なくとも表向きはていねいな政策協議があってこそだったのではないか。

 自民党は、10年以上にわたって培われてきた公党間の信義をかなぐり捨ててでも、強行するというのだろうか。

 公明党は、それでも与党であり続けることを優先し、渋面を浮かべながらも受け入れるのだろうか。

 安倍首相は、集団的自衛権容認に向けての検討を表明した先月の記者会見で語った。

 「私たちの命を守り、私たちの平和な暮らしを守るため、私たちは何をなすべきか」

 「今後のスケジュールは、期限ありきではない」

 その後、与党協議や首相の国会答弁で、ペルシャ湾での機雷掃海や、国連決議に基づく多国籍軍への後方支援の大幅拡大などが次々と示された。

 あげくの果てが、いまの国会中に閣議決定するという自民党への指示である。

 与党間の信義という内輪の問題にとどまらない。国民に対してもまた不誠実な態度だ。