この経験を自分は知っている
リいるはずのヒトがいなくて、いないと思っているヒトがいる。リアリティがぐらぐらとゆらぐ……SR恐るべし……まったく奇妙なシステムです。
一体これはなんなのか……混乱しているぼくに追い打ちをかけるように、次に藤井さんは、デモンストレーションとして「線画モード」というのを見せくれました。
黒板にチョークで書かれた絵のように、視界が白黒の線画になり、風景や白い人の輪郭がうねうねとうごいています。
静止画像で見るとリアリティなど感じないはずなのに、人の動きが加わると非常に自然で、たしかにそこに生きている人がいるという「リアリティ」が感じられる。
しかし、そのなかに混じるかすかな違和感。
ぼくはやはり、この感覚を「知っている……」。ある経験とこのSRが、よく似ているのです。
7分ほどさまざまな視覚体験をして実験が終了しました。
SRシステムで「さとり」が実現できる?
リアリティとは一体なんだろう。
実験室を出てミーティングルームに入ったぼくは、椅子に座って、外の景色を見ながら思わず考え込んでしまいました。
今見えている現実は、ただ解像度が高いだけで、さっきSRの空間で見たものと「リアリティ」自体は変わらない。
SRで騙されているのは単に視覚だけだった。なのになぜ、あんな妙なことが起きるのでしょうか。
部屋に入ってきた藤井さんに、早速そのことを聞いてみました。
海猫沢めろん(以下、めろん) SRシステムで人が騙されるというのは、つまり人間は視覚メインで現実を認識しているということなんでしょうか?
藤井直敬(以下、藤井) そう言ってしまってOKじゃないんですかね。アンドロイドを作っている石黒浩さんとも話しているんですが、視覚を騙すだけでかなりのことができる、というのが私たちの共通理解です。
めろん なるほど……。ところで、さきほどSRシステムを体験して、ぼくがまず感じたのは、「あ、これ知っている」という既視感だったんです。一体なにと似ているのか考えていたんですが、思い出しました。実は、瞑想、明晰夢、さとり、ある種のドラッグ体験などに関係する——いわゆる変性意識状態の感覚とSRシステムで得られる感覚が、すこし似ているんです。
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