裁判員裁判:死刑 市民感覚か判例か 2審で無期相次ぐ
毎日新聞 2014年05月15日 01時46分(最終更新 05月15日 01時46分)
◇遺族「バランス重視、おかしい」
裁判員裁判で出された死刑判決を、裁判官だけの2審判決で無期懲役に減刑する。そんなケースが、昨年から今年にかけて3件相次いだ。被害者遺族からは「市民の判断を尊重すべきだ」との声が上がり、検察もうち2件について死刑を求めて上告した。悩み抜いた末に市民が下した極刑の判断を、どこまで尊重すべきか。司法に根源的な問いが突き付けられている。
「本当に日本の司法はこれでいいのか、一緒に考えてほしい」。3月29日夜、兵庫県明石市で開かれた講演会。約120人の参加者を前に、荻野美奈子さん(61)が悲痛な声で訴えた。千葉大4年生だった長女の友花里さん(当時21歳)は、2009年10月、千葉県松戸市のマンションの部屋に侵入した男に刺されて命を奪われた。
事件は裁判員裁判で審理された。強盗殺人罪などに問われた竪山辰美(たてやまたつみ)被告(53)に対し、千葉地裁は11年6月の判決で「犯行は執拗(しつよう)で冷酷非情。殺害被害者が1人でも死刑が相当」と極刑を選択した。だが、2審・東京高裁は昨年10月、判断を覆し「殺害被害者は1人で、計画性もなかった」と減刑した。
死刑か無期かの判断は「究極の選択」と言われる。裁判員制度導入に際しても「市民に極限の判断をさせていいのか」との議論があったが、「市民が加わった判断だからこそ説得力がある」との意見が勝った。
最高裁は1983年に「永山基準」と呼ばれる死刑の判断基準を示している。被害者の数を重視し、殺害された被害者が1人の場合は死刑が回避される傾向にあった。だが、竪山被告の裁判を担当した裁判員は判決後の記者会見で「永山基準にはこだわらなかった」と明かした。「これで良かったのか」と男性が自問する一方で、女性は「悔いはない」と言い切った。