いくらおにぎりブログ

邦画中心の映画感想ブログです。ネタバレがありますのでお気をつけ下さい。

【映画】動乱

2007-07-18 | 邦画 た行

【「動乱」森谷司郎 1980】を観直しました



おはなし
きっと、どこか別のパラレルワールドで起きた2・26事件のお話です。

基本的には2・26事件に舞台を借りた健さんと吉永小百合のメロドラマです。ただ登場人物の名前や役割は、史実とまったく違いますので、これを見て2・26ってこういうもんだ、と思い込むととんでもないことに。ついでに、登場人物の名前を書くと、史実とゴチャゴチャになって、余計にワケが分からなくなりそうなので、俳優さんの名前もしくは役職名で表記します。

第一部「海峡を渡る愛」

昭和7年4月。仙台の連隊から初年兵の永島敏行が脱走しました。姉の吉永小百合から、身売りされることになったという手紙が届いたからです。

ビックリした田中邦衛小隊長や小林稔侍軍曹が驚き騒ぐなか、高倉健中隊長は「無断外出であれば罪は軽くて済む」と大隊長や連隊長に内緒で、捜索隊を編成するのでした。

永島敏行の実家に行くと、父はただ御真影に泣いてわびているだけ。しかし姉の吉永小百合は、聞かれもしないのに「今日、私買われて行くんです」と自分語りをはじめ、気丈にも「ご一緒させてください」と永島敏行の捜索に「勝手に」加わるのでした。

その頃、捜索隊は炭焼き小屋に隠れていた永島敏行を発見。面倒なことになる前に、自決させてしまおうとしています。拳銃を渡して「銃口を口にくわえろ」と命令する小林稔侍軍曹。しかし、ブルブル震えていた永島敏行は逆ギレして小林稔侍に襲い掛かり、もみ合った挙句、小林稔侍は死んでしまったのでした。
それを遠くから唖然として見つめている健さんと小百合ちゃん。とんでもないことになってしまいました。

続く、5月には「話せば分かる」「問答無用、撃てっ」の5・15事件が勃発。そんな世相の中、永島敏行の軍法会議が行われることになりました。永島敏行の弁護をしたいという健さんに、連隊長の小池朝雄は、5・15事件を引き合いに出して「君もその仲間か」とイヤミを言いますが、それでも健さんは、毅然として弁護を引き受けるのです。

しかし脱走した挙句、上官を射殺して「死刑」にならない軍隊なんてありません。当然、永島敏行の判決も死刑。健さんは、その銃殺隊の指揮を執るように命令されてしまったのです。銃殺が終わり、棺を部下に担がせて実家に向かう健さん。待っていた小百合ちゃんに棺を渡しつつ、健さんは金を小百合ちゃんに握らせます。それは父の志村喬から借りた千円。下士官の軍曹の月給が23円だった時代の千円ですから、今で言うと一千万円くらいの価値でしょうか。しかし、それをポンと貸してくれるパパがいる健さんは、間違いなくお坊ちゃんです。

健さんは責任を取らされて朝鮮駐箚の75連隊に飛ばされることになりました。国境警備を主任務とする部隊です。しかし、部隊の指揮は最低。下士官兵が懸命に匪賊討伐をしているなか、お偉方は宴会に明け暮れている始末です。
そんな宴会に呼ばれた健さんは、座敷に呼ばれた女たちの中に、小百合ちゃんを見つけました。ドギツイ化粧で「父が死んで借金だけが残ったんです」と蓮っ葉な調子で話す小百合ちゃんに、健さんはガックリです。思わず、しなだれかかる小百合ちゃんに「他に生き方があったはずだ」と声を荒げてしまうのでした。

さて、女衒の左とん平が、軍需物資の横流しをしていることを察知した健さんは、早速「軍需物資横領罪で逮捕する」ととん平を捕まえちゃいました。しかし、とっとと釈放されてしまうとん平。どうも、この不正は岸田森少佐なども絡んだ連隊ぐるみの犯罪のようです。今回のことは忘れてくれんか、という連隊長に「自分は告訴を撤回する意思はありません」と断言する健さんです。

しかしこの頃、小百合ちゃんは、健さんに会ったことで、自分の境遇が恥ずかしくなって自殺を図っていたのです。当然、借金を背負ったままの自殺はご法度。小百合ちゃんは雪原に置き去りにされ、殺される運命なのでした。そんな小百合ちゃんの命を助けたくないかね、と交換条件を持ちかけられた健さんは、結局、告訴を取り下げるのでした。

もちろん、告訴を取り下げたとは言え、連隊上層部にとって健さんは目の上のたんこぶ。匪賊討伐の激戦地に健さんの中隊は追いやられてしまうのです。しかし、中隊には満足に弾薬・食糧も無く、敵の撃ってくるのは横流しされた陸軍の弾丸です。
「中隊長どの、日本帝国陸軍の兵隊は、いったい誰のために死ぬのでありますか」という部下の悲痛な叫びは健さんの耳に突き刺さって離れないのでした。

第二部「雪降り止まず」

東京の歩兵第一連隊に転属になった健さんは、小百合ちゃんを連れて東京に戻っています。映画では特に描かれませんでしたが、きっとパパに頼んで小百合ちゃんの借金を払ったのでしょう。

健さんの家を見張っている男がいます。憲兵曹長の米倉斎加年です。どうやら、健さんの家は体制に不満を持つ青年将校たちのたまり場になっているようで、監視の対象になっているようです。今日も、にしきのあきらがフィアンセの桜田淳子を連れてきて、熱く語ったりしていて、どうも健さんは若手将校たちの兄貴格のようですね。

健さんは小百合ちゃんを連れて鳥取に旅行に出かけることにしました。旅の目的は健さんの兄貴分で、皇道派の闘士、田村高廣中佐に会いに行くこと。もちろん、そこにも憲兵の米倉斎加年が見え隠れに尾行しているのは言うまでもありません。

健さんは田村高廣のところに行って、統制派の軍務局長を斬る決意を語るつもりでした。しかし田村高廣は「宮城(健さん)、水沼(永田鉄山のこと)は私が斬る」と自らが暴発する決意を固めたのです。もちろん兄貴にそう言われれば、何も言えない健さんです。
「やる時はとどめを忘れるな」と言って、去っていく田村高廣。鳥取砂丘を馬に乗ってパカラパカラと去っていくのは、ちょっと狙いすぎな気もしますが。

さて、旅に同行していた小百合ちゃんを忘れてはいけません。
日本海の荒波を見つめながら泣いている小百合ちゃんは、「なぜ旅に連れてきてくれたんですか。私は他人の目をごまかす道具だけなんですか」と訴えます。そして「長い間、お世話になりました」と去っていくのです。途端に高まるBGM。追う健さん。小百合ちゃんの肩を後ろからそっと抱いて言います、「東京に帰りましょう」。「東京に帰って何があるんですか」と答えた小百合ちゃんの気分が高まってきました。「私の体は汚れているから。だから、抱けないんですか」と言うが早いか、財布からお金を出して「このお金で私を買ってよ」と小百合ちゃん大爆発です。

シーン変わると、宴会場と思しき場所です。真っ白なテーブルクロスに、キレイに並ぶコーヒーカップ。しかし、そこにいるのは青年将校たち。口角泡を飛ばして激論の真っ最中です。「やるべき時が来たように思う」と重々しく発言する健さん。どうやら2・26の実行が決定されたようです。しかし、仮にもクーデターの打ち合わせなら、もっとこっそりとやってもらいたいんですが。こんなに堂々とやってどうするんだか。

案の定と言うか、田村高廣が軍務局長を斬るという事件が発生したあと、健さんは憲兵隊に呼び出しを喰らってしまいました。しかし、彼らの目的は尋問ではなかったのです。佐藤慶の差し金で、こっそり毒を飲まされる健さん。憲兵隊を出てきたときには、もうフラフラです。「あなた」と小百合ちゃんが駆け寄り介抱しようとしますが、健さんは「大丈夫です」と言って、口に指を突っ込みゲロゲロするのでした。このシーンは何か覚えがありますよ。そう「君よ憤怒の河を渉れ」と同じですね。

しかし、いくら健さんでも、毒を吐いただけで元気になれるわけも無く、そのまま寝込んでしまいました。半狂乱になった小百合ちゃんは憲兵の米倉斎加年に「あの人が死にそうなんです、助けてください」と頼み込みました。まあ憲兵隊で盛られた毒なんだから、憲兵に頼めば解毒薬もあるかもしれませんしね。

「俺が憲兵じゃなかったら、宮城大尉の仲間になってたかもしれんな」と男気に感じた米倉斎加年は、そっと玄関に薬を置き、健さんは、どうにか生き延びたのです。

この後、北一輝っぽい人がチラっと出てきたり、まあいろいろありまして、いよいよ決起の日が近づいてきました。そんなことも知らずに、健さんの着物を縫っている小百合ちゃんは、「裄(ゆき)が心配になって」と健さんに、そっと着物を着せ掛けます。思わずグッと小百合ちゃんを抱きしめる健さん。でも、健さんの顔は怖すぎます。殴りこみするんじゃないんだから。

いよいよ、2月26日がやってきました。午前4時ごろ、歩兵第一連隊、第三連隊、それに近衛歩兵第三連隊で、非常呼集のラッパが鳴り響きます。続々と出動していった兵士たちは、折からの大雪の中に眠っている東京を、純白から血の色に染めていったのです。

陸軍大臣告示が出ました。「一、蹶起ノ趣旨ニ就テハ天聴ニ達セラレアリ」で始まる、あたかも昭和天皇が反乱を認めたかのような告示です。大喜びする青年将校たち。しかし、その喜びも長くは続きませんでした。

昭和天皇が激怒して、自ら近衛師団を率いて鎮圧にあたると言い出してからは、風向きは完全に変わってしまったのです。原隊復帰を促すアドバルーンが上がり、放送が流れ、そして飛行機からビラが撒かれる。こんな四面楚歌の状態の中で、青年将校たちは兵を解散・帰順するしかない状況に追い込まれたのです。

陸軍衛戍刑務所に入れられた青年将校たちに死刑判決が下りました。健さんに面会に来た小百合ちゃんは、籍が入っていないため会わせて貰えません。ガックリです。しかし、健さんのパパは親切そうな志村喬ですから、小百合ちゃんをほっとくわけもありません。

ようやく健さんに面会できた小百合ちゃんは「昨日籍を入れてきました。お父様が入れてくださったんです」と報告します。相変わらず、表情に乏しい健さんなので、感情の動きは読み取れませんけど、喜んでいるんでしょうか。ようやく仕立てあがった着物を、着てみてくださいと言う小百合ちゃん。もう、健さんが外の世界で、この着物を着ることはありえないのですが、それでも愛おしそうに仕付け糸を外していきます。狭い面会室に小百合ちゃんの嗚咽が響きます。
「私を許してくれ」という健さんに、「私は幸せです。あなたの妻になって」と答える小百合ちゃんでした。

健さんは銃殺されました。そして、海岸を歩く小百合ちゃんの姿でエンディングです。なんだか良く分からない終わり方です。

何を隠そう、ぼくは2・26映画が大好きなので、この映画も3〜4回観たのですが、数ある2・26映画の中でこれのデキが一番悪い感じがします。なにしろ、健さん演ずる宮城大尉(おそらく安藤大尉のこと)が毒殺されかかったり、史実関係はメチャクチャですし、ほとんど全篇が健さんと小百合ちゃんの恋愛話ですから。

2・26の描き方としては、疲弊した農村部や、売られていく娘たちの姿を捉えて、当時の閉塞した状況を観客に理解させ、その上で、青年将校たちのプロフィールを丹念に追いかけていくのが一般的です。その上で、暴発シーンに尺をたっぷり割いて、青年将校の成功の絶頂から挫折までを見せていくのが、黄金のパターンでしょう。

しかし、この映画は青年将校たちなんかどうでも良かったようです。健さんと、あとほんの少し"にしきのあきら"が出てくるくらいで、あとの青年将校にはまったくスポットライトが当たりません。事件の理論的指導者と言われた北一輝(と思われる人物)も、ほんの一カット出るだけ。そのくせ、「勅命下る 軍旗に手向かふな」のアドバルーンや、「下士官兵に告ぐ」という伝単(ビラ)などの"オイシイ"部分は、臆面も無く使っているのが、また情けない感じです。

そもそもこの映画では、青年将校はもとより永田軍務局長など軍関係者の名前はすべて仮名。で、仮名なら何をやっても良いとでも思ったのか、佐藤慶演ずる梅津美治郎(と思われる人物)など、そこにいるはずも無い人物を適当に出し入れして、黒幕にしてみるなど、もうやりたい放題です。いくら健さんと小百合ちゃんのメロドラマだとしても、最低限、守るべきものがあるんじゃないかと思うんですが。

2・26事件を描いた映画には、岩下志麻が出ている「宴」という大メロドラマがあって、ぶっ飛び度では明らかに、こちらが上です。また、役名を史実のままに、非常にマジメかつドラマチックに作った映画には、佐分利信が新東宝で監督した「叛乱」があり、これは非常にオススメ。
巷ではあまり評判の良くない五社英雄監督の226ですが、それだってこの映画に比べれば、はるかにマシでしょう。







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吉永小百合 梅津美治郎 君よ憤怒の河を渉れ コーヒーカップ パラレルワールド
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