発売1年足らずで9兆円近い資金を集めた投資商品が中国にある。その名は「余額宝」。余ったお金を宝に変えるという意味だ。預金を一部自由金利の大口定期で運用することで、通常より高い利回りを実現。瞬く間に8千万人あまりの利用者を吸い寄せた。
しかけたのは米最大の上場を計画する中国の電子商取引(EC)最大手アリババ集団。「金融業には撹乱(かくらん)者が必要だ」。創業者で会長の馬雲(49)は刺激的な文章を中国共産党機関紙、人民日報に載せた。
1999年に事業を立ち上げたアリババ。中国のネット通販市場が30兆円規模に育ったのは、銀行が手がけない決済システムを自ら築いたからこそ。そんな馬に国も一目置く。昨秋、首相の李克強(58)は馬に「政府は民間企業家を信じ、頼りにしている」と語りかけた。中国の銀行界からは余額宝にも規制をかけるべきだとの批判もあるが、馬の野心は尽きない。
自動車生産のヘンリー・フォード、格安販売のサム・ウォルトン、モバイル革命のスティーブ・ジョブズ。新市場を切り開いてきたのは常に異端者たちだ。権威や既得権のガードが堅い領域ほど革新の衝撃は大きい。
「独占的な取引が米国の納税者にむだな負担を強いる」。米ロッキード・マーチン、ボーイングの共同出資会社と米空軍がロケット打ち上げの長期契約を結んだのは非競争的だとする訴訟が4月に起こされた。訴えたのは米ベンチャーのスペースX。「1回4億ドルの打ち上げコストを75%節約できる」とぶち上げた。
スペースXを率いるイーロン・マスク(42)。創業したネット決済会社を15億ドルで売り、トップをつとめる電気自動車会社テスラ・モーターズは時価総額が250億ドルに達する。そして宇宙。「自分で自分の発想を制限しないことが重要だ」。国や巨大な古参企業が仕切って当然と思われがちな分野に切り込む。
ネットや車の事業で磨いた設計、製造のノウハウが自信を支える。提訴の10日前、スペースXは打ち上げ後のロケットを回収し再利用する実験に成功した。「打ち上げ費用は100分の1になる」とマスク。宇宙産業ビッグバンの先頭に立つ。
資金がかさむ基礎研究などイノベーションを起こすために国が担うべき役割はある。だが革新を阻む過度の規制やムラの論理が残っていないか。
3年半にわたる訴訟の末、昨年1月に一般用医薬品(大衆薬)の通販規制の無効を勝ち取った医薬品通販大手のケンコーコム。今年1月、再び国を相手取り提訴した。6月施行予定の改正薬事法で、処方薬から大衆薬に転換して間もない医薬品のネット販売規制に異を唱えるためだ。
「ネットを使えばより良い生活を実現できる」。社長の後藤玄利(47)は、電子処方箋のようなIT(情報技術)を活用した新サービスの妨げにもなりかねないと危惧する。
振り返れば、宅配便トップのヤマト運輸は顧客視点でサービスを編みだし、障害があれば国との対決も辞さなかった。民の発想を生かし、官民の役割を再定義する。旧来の秩序やしがらみを乗り越えた先に巨大市場が広がる。=敬称略
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