預金に利子をつけるどころか、金利をとる。

 そんな「奇策」に欧州中央銀行(ECB)が踏み込んだ。マイナス金利である。

 ECBは政策金利を年0・25%から0・15%に引き下げることを決めた。あわせて民間銀行がECBにお金を預ける際の金利を、これまでの0%からマイナス0・10%に下げる。マイナス金利はデンマークの中央銀行が実施していたが、日本を含む主要な中央銀行では初めて。

 ユーロ経済がデフレに陥るのを防ぐのが狙いだ。

 債務問題をきっかけとした欧州危機の後遺症で、多くの国では今も失業率が高く、銀行は多額の不良債権を抱える。政府も財政再建を迫られている。

 お金を積極的に使おうという人が少なく、ユーロ圏の5月の物価上昇率は0・5%。ECBが目安とする2%弱を大幅に下回っており、日本型のデフレに陥る懸念がぬぐえない。デフレになれば、お金の価値が高まって、債務問題の解決は余計に難しくなる。

 マイナス金利で期待される効果は主に二つある。一つはユーロ安になること。輸入品の価格が上がり、物価全体を押し上げる可能性がある。

 もう一つは、資金に余裕のあるドイツなどの銀行がECBにお金を預ける代わりに、資金繰りが厳しい南欧などの企業に貸すことだ。

 ただ、実現するかどうかは分からない。経済が好調なドイツは経常黒字をためこんでおり、市場ではユーロへの上昇圧力がかかりやすい。

 融資の拡大についても、多くの銀行は債務危機の痛手が大きく、貸し出しリスクをどこまで取るかは不透明だ。マイナス金利で生じる負担を預金者や借り手に転嫁すれば、かえって経済の重荷になりかねない。

 それでも導入に踏み切ったのは、ECBにできることは限られているからだ。

 ECBは18カ国をメンバーに持つ。日米英の中央銀行のように大量に国債を買って量的緩和に乗り出すにも、どこの国債をどれだけ買うのか、決めるのは容易ではない。「通貨は共通、財政は別々」というユーロの矛盾がECBを苦しませる。

 ユーロ圏内の南北格差がますます鮮明になるなか、金融政策だけで経済を回復させるのは難しい。

 南欧を中心とする問題国は古い経済構造の改革に一層、力を注ぐべきだ。ドイツも欧州経済における自らの役割の大きさを自覚してほしい。