きっかけはおへそが見えたことだった。
彼はいすに浅く腰掛けて、足を前方へ投げ出していた。少しずつ姿勢がずれ下がっていって、ぴったりしたTシャツのすそとローライズのズボンのすき間から、おへそが顔を出したのだった(ちなみに、ボクサーパンツのゴムも見えた)。たいらなお腹に小さく窪んだおへそと、それを囲むうっすらとしたギャランドゥ。息を飲んだ。目が離せなかった。その瞬間から、私のお脳の性欲だとか邪念だとか、そういうものを司るところに彼が居座ることになった。
それからというもの、彼としゃべっていても内容が頭に入らない。おへそを、おへそをまた見せてほしい。適当に相槌を打っていても、きっと私の目は笑っていない。向かいの席じゃお腹が見えない、立っていたら見えない、さあ、そっちの、このまえ座ったいすに座ってくれ! 違う、背もたれに背中をくっつけるんじゃない!! もっとだらしなく座れよ!!!
衝撃の出会いからこっち、彼のおへそとはまだ再会できていない。ひょっとして私の目がマジすぎるのがばれていて、彼を怖がらせているのかもしれない。ああ、また彼のおへそを見たい。骨ばった腰回りを見たい。腰をとり囲む「body wild」の文字が見たい。これは恋なのか、性欲なのか、何なのか。とりあえず、死んだら閻魔様に何らかの地獄に落とされそうである。