フィリピンとの領有権問題に加えて、5月初旬に突然、ベトナム沖で石油掘削作業を始めた中国。フィリピンは国連の裁判所に訴えを起こし、ベトナムは中国に抗議するが、事態打開の糸口すら見えない。米国の介入も考えにくい中、唯一の望みは中国の自制だが、中国経済への影響もほぼないだけに望みは薄い。
中国の公式メディア「中国日報」は最近、フィリピンについて「偏執症的とも言うべき、米国の格下同盟国」と書き立てた。そんなことを言われた国の指導者だが、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領(通称「ノイノイ」)は、驚くほど寛大で、柔和な姿勢を5月下旬、マニラの大統領官邸で行われた本誌(英エコノミスト)の取材で見せた。
■「中国を刺激しないことが大事」
中国日報が激しい表現を使ったのは、南シナ海における両国間の領有権争いが原因だ。だが、アキノ大統領は、この領有権を巡る争いが中国とフィリピンの関係のすべてではないと言う。
「我々はできる限り率直に話す必要があるが、中国を刺激しすぎないように努めることも重要だ」──。こう語るアキノ大統領は、常に頭の中で両者のバランスを考えているようだが、「中国を刺激しすぎないこと」という考え方の方が優勢を占めているようだ。
というのも、両国間の貿易及びフィリピンを訪れる中国の観光客数は急拡大しており、中国もフィリピンも広範にわたる両国の関係から、この複雑な紛争を「隔離」しようとしているからだ。よって、アキノ大統領としてもいかに「挑発的な表現」をされようとも応じないよう努めてきたということだ。
それでも、こうした配慮にもかかわらず、中国側がここ数週間、南シナ海で見せてきた行動は、近隣諸国の思いを全く気にかけないものだ。
南シナ海北部にあり、中国とベトナムが領有権を争っている西沙(パラセル)諸島付近では最近、中国が大規模な艦隊の護衛をつけて巨大な油井掘削装置を設置、掘削作業を展開している。一帯はベトナムが国際海洋法に基づき排他的経済水域(EEZ)を主張しているエリアである。
この事態に憤慨したベトナムでは暴動が発生、何百という工場が略奪や放火の被害に遭い、6人の中国人が死亡した。以来、中国当局はベトナムで働く数千人の中国人を避難させ、ベトナムに対して賠償を求めている。破壊された工場のうち中国資本によるものはわずかで、大半が台湾資本のものだった。
この破壊行動は、ベトナム側に暴動を起こす倫理的正当性を失わせただけでなく、歴史的に敵対する中国にベトナムの愛国主義が向けられたというだけではなかったことをうかがわせた。
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