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ベストセラーズチャンネル:不格好経営―チームDeNAの挑戦 南場智子(後編)

南場智子氏「社内では私も挑戦者」 曲がり角を迎えたDeNAの”イズム”とは?

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南場智子氏「社内では私も挑戦者」 曲がり角を迎えたDeNAの”イズム”とは?
夫の看病から2013年に現場復帰を果たしたDeNAの創業者 兼 取締役の南場智子氏は、どのようにして日本を代表する女性経営者となったのか。失敗から学ぶことの重要性と、「最も重要」と語る人材採用においての”殺し文句”を明かしました。(ベストセラーズチャンネルより/この動画は2013年9月に公開されたものです)

※前編はこちら
「○○と言ったほうが、優秀な人間は動く」 DeNAを育てた南場智子氏の”殺し文句”はコレだ!

【この記事のヘッドライン】
・「出品者募集!」の広告をヤフオクに
・僅かな可能性でも否定しない
・その年代向けのサービスは、その年代の人が一番よく考えられる
・南場氏「サービス面に関して、私は単なるいちプレイヤー」
・人材引き抜きで疎遠になった元リクルートの故・信國氏へ

「出品者募集!」の広告をヤフオクに

須藤:私が営業、マーケティング面で勉強になった、と同時にすごくびっくりした場面があるんですけど。

オークションをするビッダーズの会員を増やさなくてはいけないという時に、どこに広告を出そうかと。当然いろいろ出しますよね。オークションをやろうとする人が確実に見るところに広告を出せばいい、という発想。そりゃそうですね(笑)。

南場:はい(笑)。

須藤:それはどこですかという時に、ヤフーオークション。

南場:ヤフーオークションなんですよ。しかもヤフーオークションのユーザーを引っ張ってきたかったので、一番のターゲットユーザーがもれなく集まっているんですよね。

須藤:でも、ビッダーズはライバルなんですよね?

南場:そうなんです。

須藤:最初から対象外ですよね。出してくれるわけないし、出してもらったとしても、あまりにも露骨すぎるし、いろんな話があったはずなんですけど、結果的に、出ちゃうんですよね。

南場:まず発想的に、非常識というのをうちは尊ぶんですけど、普通出せないじゃないですか。

須藤:どう考えても出せないですよね(笑)。

南場:でも出したいな、出せるかも、本当に出せないのかなって。粘り強く全力交渉ですね。

須藤:つまり業界トップのヤフーオークションの顔面に、当時最大のライバルのビッダーズの広告を。ヤフーオークションもいいけどうちに来なよって。

南場:ヤフオク開けたら、オークションならビッダーズって。すべてのページのトップに出ましたから(笑)。

須藤:トップに(笑)。

南場:ヤフーさんの英断ですね。ヤフーは偉いです。

須藤:(笑)。懐が深いというか。

南場:それだけ相手にされてなかったってことですけど。それならそれで。

須藤:これは、もしかしたらいけるんじゃないのと、0.1パーセントぐらいしか望みがないのに、それをちゃんと検討材料に残している。その社風というか会社の判断、そこが大事なんじゃないかと思います。

南場:基本的にノーリスクハイリターンじゃないですか。断られて当たり前なんで、とりあえず全力交渉して、万が一うまくいったらすごいですよね。

須藤:その万が一、がうまくいくわけですよね。

南場:(広告を)出すところまではですね。そこからユーザーが来たかどうかってとこはちょっとね(笑)。

僅かな可能性でも否定しない

須藤:でもプロセスもそうですけど、ヤフーの社内事情をしっかりとヒアリングする。これがまた素晴らしいところですよね。

南場:やっぱり情報戦です。そこの営業のトップが目標に達しなくて苦しんでいたんですよね。どれぐらいの金額かっていうのも、いろんな人に聞いていくとわかっていくんです。だいたいその金額に相当する金額で広告出させてくれって、粘っていたら出させてくれました。

須藤:向こうからしてみたら、一本で目標が達成できるわけですよね。これは数字を抱えている人間にとって、渡りに船というか。

南場:数字を抱えている営業のトップが執行役員だったから、結構トップに近かったんですよね。

須藤:ここにDeNAの南場さんの経営者としての判断する前提、まず常識を疑うのはもちろんですけど、可能性を否定しない。象徴的だなって思いました。

南場:ほとんどリスクがなくてリターンが大きいことですからね、かかるのは労力だけ。むしろやらない事のほうが説明って必要ですよね。

須藤:なるほど。やらない理由となると、同業者だから載せてくれるわけないじゃないかと。

南場:労力が無駄じゃないかと。でもそんなの大した労力じゃないじゃないですか。

その年代向けのサービスは、その年代の人が一番よく考えられる

須藤:そういった風にDeNAはどんどん成長していくんですけど、途中でモバイルに。この本では運が良かったとまとめられてますけど、時代の流れを掴むのが非常にタイムリー、的確だった、ということだと思うんですね。

南場:的確、運というよりは、これは前々から企画があって、タイミングを見て勝負に出たので、その判断は良かったですね。

須藤:タイミングというと、モバイルシフトの?

南場:そうです。その1年近く前から、モバイルのオークションで勝負したいなって気持ちは有ったんですけど、パケットの定額制が普及していなかった。最初は制度としてなかったんですよね。ユーザーさんにとってはパケット代が大きな負担になっていたので、無理だなと踏み込めなかったんです。

須藤:ところがパケット定額という料金システムが携帯電話で増えてきて、これはチャンスだという風に?

南場:はい。

須藤:ここでモバイルのほうにシフトしていく。これはあまり迷わなかったですか?

南場:他にももう一つ事業をやっていたんですけど、シフトというのは後から見た言葉なんですけど、どこかでナンバーワンになりたいという勝負をそこでかけたんですね。

須藤:モバイルシフトしたことがきっかけで、次の展開がどんどん増えていくわけです。ユーザー抱えてますからね。そこでモバゲーのほうがスタートしていくと思うんですけど、ここの切り替えのタイミングが絶妙だったと思うんですが、当時そこの判断はどうだったんですか?

南場:モバオクのシフトの判断は私のほうできっちりとしているんですけど、モバゲーに関しては、私から見たら運で、守安という今の社長とチームの実力なんですよね。彼らが勝手にというか、私に一言ぐらい言って、自主的に検討を進めていって、それで作ったサービスなんですよ。

須藤:しかもそのサービスの責任者なり、開発の中心人物が若いですよね?

南場:そうですね、みんな20代で。

須藤:入社2年目とか4年目とか。

南場:30代もいたかもしれないけど、みんな若いですね。

須藤:年がいっていても30代みたいな。若い人たちがサービスを見つけてというか、感じるんですかね?

南場:年齢はね……。年とっても出来ると思いますよ。私も今でも勝負したいと思って挑戦してますけど、年齢がいったからって新しいアイディアが出ないわけじゃないですよ。

あとやっぱりその年代のサービスは、その年代の人が一番よく考えられるので、私なんかは50歳になりましたから、50歳前後のユーザー層は人口いますから、そこに向けたサービスは若手に負けないと思います。

それなりに、その年代その年代で考えられるんですよね。普通の会社だと組織である程度上にいないと自由にやらせてもらえないというのが、DeNAだと「好きにやって良いよ」というステージを用意できる。

これがDeNAの理念だと思っているので、組織の中の階層に全く関係なく、新規事業のチャンピオンになれるんですよね。

南場氏「サービス面に関して、私は単なるいちプレイヤー」

須藤:今、50代の人たちに対しても新たなサービスを当然考えているとありましたけど、今後のDeNA、これからの南場さんはどんなサービスを考えておられますか?

南場:今は、世界でソーシャルゲームのプラットホームでのナンバーワンを目指す、という試合をしているんです。

もう一つは、これは普段の活動なんですけど、新しいサービスというのを生み出し続けたいと思ってまして、どんどん仕掛けていきたいなって思ってます。

それはゲームに閉じることなく、コミュニケーション系のサービスであったり、他のエンターテインメント系のサービスであったり、全然違う、私なんかはエデュケーションにも関心があるんですけど、そういった分野に限定されずにどんどん挑戦していく。新しいサービスを作って……デライトという言葉を使うんですけど、いい意味で驚かしていきたいんです。

須藤:その時の南場さんのポジションはどうなんでしょう?

南場:サービスに関しては、残念ながら私は神のように崇められていないので、いち挑戦者としてアイディアを出しては皆に否定されたり、玉砕したりしていて……。

須藤:いちメンバーなんですか?

南場:完全にいちプレイヤーですよね。私がこの組織でファウンダーとしてやることはいくつかあるんですけど。

一つは今回本を書いたように、DeNAイズムというかDeNA魂というものを伝えていく。あとは社長の守安と話し合って、私は外向けのことを分担して、財界とか政界とか大きな提携、そういった案件をやっていく。あともう一つは、やっぱり採用なんですよね。

須藤:採用は、これからも南場さんが中心的な役割をやっていくんですか?

南場:特に新卒中途って分けてますけど、新卒については現場まで入ってやってますね。

須藤:これからまた、新たなDeNAの歴史というか、スタートが始まるわけですね。

南場:はい。

須藤:楽しみです。

人材引き抜きで疎遠になった元リクルートの故・信國氏へ

須藤:最後に、私がこの本で感動したところであり、私自身勉強になったなというところが、一番最後の謝辞のところにご紹介がありますけど、自分にとって大切な人に、お礼なりお話をしたいなと思った時に出来なくなることもあるんだよ、とそんなことが書いてあるんですよね。

この本に書いてあることも含めて、天国に届いているかなと、創業の時にお世話になった方……。

南場:こちらの自己満足なんだけれども、伝えておきたかったなというのがありますし、特に迷惑をかけたりとか礼を尽くすことが出来なかった場合は、非常に心残りというか……。

須藤:南場さん自身は55歳を過ぎたらという風に、ご自身で決めておられた?

南場:そうですね、私自身は55歳を過ぎたらちゃんと説明に行こうと。その頃にはお互いにすこし落ち着いて、話が出来るんじゃないかと。すこし時間をおかなきゃって思ってた人がいるんですよね。

須藤:いい意味で時間をおくということですよね。

南場:そうですね。

須藤:本当にこの本は、南場さんでなければ書けないだろうなということもいっぱいあるし、よくここまで正直にと言いますか、素の南場さんを出されたなと感じました。この本の内容も南場さんの思いも、ちゃんと信國さんにも伝わったんじゃないかなと、私は謝辞を読んで心から思いましたね。

南場:ありがとうございます。

須藤:本当にいい本でした。実は皆さんこの本はですね、おもしろいんです(笑)。全ての文章を南場さんが書かれたということなんですけど、いろんな……ギャグと言っていいんですかね? オチを考えながら書かれたのですか?

南場:いや、私の人生がギャグみたいなもので。

須藤:(笑)。読み物としても本当におもしろい本ですので、ぜひ皆さんお手に取って読んでいただければと思います。今日ご紹介した本は、『不格好経営』。日本経済新聞出版社から出版されております。著者の南場智子さんにお話をお伺いしました。南場さん、ありがとうございました。

南場:ありがとうございました。

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