「ゲームが好きだからこそ、世間を唸らせるくらい努力を続けてきた」:プロゲーマー・梅原大吾が語る勝負の哲学に震えた!

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  NHKラジオ第1すっぴん!』の2014年4月28日放送分よりピックアップ。

 

梅原大吾さんをご存知ですか?

15歳で日本一、17歳で世界一、そしてプロ契約…、格闘ゲームの世界で彼のことを知らない人はいないでしょう。今回は、そんなプロゲーマー梅原大吾さん、いや世界のUmeharaさんがゲストとしてこれまでの半生や勝負論をお話しています。

 

【しゃべるひと】

 

世界で最も長く賞金を稼ぎ続けているプロゲーマー

藤井彩子:「世界で最も長く賞金を稼ぎ続けているプロゲーマー」としてギネス世界記録に登録されているということで。

松田悟志:初めて賞金を取られたのは何歳くらいの頃なんですか?

梅原大吾:17歳のときに初めて世界チャンピオンになったんですけど、多分そのときが始まりです。

藤井:日々記録を更新し続けているということですか?

梅原:「日々」といっても大会が年に数回なので、「日々」というとちょっと…。

藤井:じゃあ、「年に何度か」くらいの感じで。

松田:逆にそのチャンスを掴み続けているということですよね。

梅原:まぁ、そうですね。

藤井:ここで改めて梅原さんのプロフィールをご紹介します。青森県のお生まれです。現在年齢は…?

梅原:来月で33歳ですね。

藤井:なるほど。小学生のときに格闘ゲームに出会って、15歳で全国大会優勝。17歳で世界一の称号を手に入れます。

そして、2010年の4月アメリカの企業とプロ契約を結ばれます。一方で、2012年には半自伝的な著書『勝ち続ける意志力』を出版されました。これがゲームの世界にとどまらず、若いビジネスマンに支持されました。ネット上の書店では電子版が2013年の新書売上第1位を記録しています。

そして翌年、『梅原の流儀』を出版されました。ゲーム界だけでなく、仕事への取り組み方に応用できると、こちらも若い世代を中心に好評を得ています。

 

 「好き」だから努力する

藤井:ゲームに興味をお持ちの方はもちろんですが、それ以外の方にそれだけ支持されるというのはどう受けとめてらっしゃいますか?

松田:ぼくも『勝負論』を読んだんですが、非常に素敵な本でした。

梅原:いまはそうでもないんですけどぼくが中学生くらいのときってゲームセンターってあんまり行っちゃダメだし、やり過ぎたらダメなもの、っていうのがいま以上に強かったんですね。

自分としては、いろいろ考えて一生懸命打ち込んでいるつもりだったんですけど、周りの空気が中身を知ろうともしない風潮だったんです。

だから、「何をやっていようが関係ない」っていうことで、逆にそれが自分の好きなことをやっているわけだから、もし仮に世間の人が興味を持ってくれたときに唸らせるくらいの努力を続けていきたいと子供の頃から思っていて

もし、偏見のない状態で世に出れば「それなりにインパクトは与えられるだろうな」、とは思っていましたけど予想以上の反響でそこはすごく嬉しいです。

 

練習することが仕事

藤井:今日は本当にたくさんの質問が寄せられています。次に、こちらの大分県の方からメールをご紹介します。

「梅原さんこんにちは。いつも動画投稿サイトで活躍を拝見しています。私自身も趣味で格闘ゲームをするのですが、格闘ゲームのプロという方が大会に出て賞金を稼ぐこと以外の収入源が分かりません。大会以外にどのようなお仕事をされているのか、気になります。そして、仕事の無い日はどのような一日を過ごされているのですか?

梅原:仕事が無い日、というか基本的に練習が仕事なんですよね。

もちろんイベントにゲスト出演したり、大会はわかりやすいですけど、練習しないとどんどん下手になっていくので自分ではそれが仕事だと思っています。収入源は大会の賞金以外でいうと、スポンサーからもらったり、書籍の印税だったり、イベントの出演料などが主な収入源になるんですかね。

藤井:ゲームの開発のアドバイスとか、漫画の監修などもされていますよね。そういうのが収入になると。結構ぶしつけな感じで聴かれてますけど大丈夫ですか?(笑)

梅原:あっ、大丈夫です(笑)

松田:そんな収入の内訳を急に聞かれるんですね(笑)

梅原:だいたいそんなところですね。

藤井:ゲームの練習がお仕事、ということですがどんな練習をされるんですか?

梅原:周りの状況によっても変わるんですけど、例えばいま自分にとってゲームセンターに通うのがいいと判断したらゲームセンターに通いますし、逆に家庭用でプレイするほうが練習になると思えばそちらで練習しますね。

それは、こういうもの、というのは決まってないですね。空いてる時間を使って、簡単に言えば効率よく上達する、というのを考えながら練習してます。

松田:ぼくは、ほんと不思議だなと思うのが例えばブランカを使えば負けない」みたいな話はよくあるじゃないですか。

梅原:まぁ、そうですね(笑)

松田:それからゲームは進化してマイナーチェンジを繰り返していくじゃないですか。

それが繰り返されたときに、梅原さんは本のなかで「そこで一旦ぼくもスタートラインにみんなと横並びになる」なんて話があるじゃないですか。

そこからいわゆる最強の「ウメハラ」を作り直すわけですよね?そのプロセスがすごいな、と思って。

梅原:気持ちの問題だと思うんですけど、結局長いことそういうことを繰り返していくと「どうすれば上達するか?」ということが分かってくるんですよね。

それはぼくだけじゃなくて、長いこと格闘ゲームをやってる人たちはその道筋をわかってると思うんですよね。

だから、大変なことがあるとすれば「こんなに練習したのにまた、また一からかよ…。」って普通はそこで、「じゃあ、もういいや」ってなるんですけど、プロじゃない頃からそうやってきたので、そこがすごいのかもしれません。自分で言っちゃいましたけど(笑)

藤井:以前に学んだ術って、新しいゲームで応用できるんですか?

梅原:応用できる部分を探して、なるべく「これは他のゲームでも、人間が相手である以上応用が効くだろうな。コレとコレはもっていけるだろうな」みたいなのは意識してやってますね。

「これは10年後、20年後も使えるだろうな」、という技術が見つかるとやっぱ嬉しいですよね。

藤井:その辺の質問も大量に来てまして(笑)

『ホッピー』さんから「梅原さんはかくゲームをやっていて苦痛に感じることはないんですか?」と。

梅原:あぁ。うーん…ありましたね。

若い頃、大会が近くなってきたときとかプロ1年目とかは苦痛にでしたね。実際、体調を崩したり。そうはいっても、プロになった以上は続けていかないといけないので、どうすればモチベーションを維持しながらずっとゲームをやっていけるか?というのを考えて工夫して出した結論が1冊目の本の内容なんですよね。

藤井:すごく考えて冷静に分析される方なんですね。

梅原:好きですね、そういうの。

松田:非常に視野が広いですよね。いま梅原さんは格闘ゲームのプロですが、あくまで一人の人間が「格闘ゲームのプロ」として氷山の一角としてもっているだけであって、視点が非常に多角的に広い、というか。

 

 15歳で全国優勝!が、そこで感じたのは…

藤井:初めて日本一になったのは15歳、中学生ですか?

梅原:それくらいですね。

藤井:嬉しかったですか?

梅原:うーん、「そうでもなかったな」という感じですね。

藤井:「そうでもなかった」?

梅原:実力的には14歳くらいで「自分より強い人はいないなぁ」と思い始めていたんですが、全国大会ということで「どんな強い人がいるんだろう」という期待があったんですけど自分が優勝して「やっぱり、どうやら日本一が強いらしい」と思って。

藤井:あっ、ちょっとがっかりしたんですか?

梅原:がっかり半分、うれしい半分くらいでしたね。

藤井:もう他の人がみたことない景色に立ってたんですね。

松田:想像がつかないですね。ぼくも同世代なんで、いろんあゲームセンターでやってたんですよ。

梅原:あぁ、そうなんですか!

松田:でも、地元のゲームセンターで「このキャラクターを使ったぼくは強い」と思っていても、他所のボーリング場のゲームセンターでやってて急にチャレンジャーが入ってきてボコボコにされた経験ってけっこうあるんですよね。

梅原:ありますあります。

松田:それがもうないわけじゃないですか。

梅原:14歳くらいの時にはなくなっちゃいましたね。

松田:いやぁ…すごいなぁ〜。

 

経験から知った 「焦ってもいいことはない」

松田「背水の逆転劇」にしても、もうあとちょっと強めの攻撃を受けたら死んでしまう、というところで相手のHPを減らし続けて、最終的に勝つというのも、まぁなかなか…。

『背水の逆転劇』とは… 

”その刹那、削りのダメージをすべて防ぐ、「ブロッキング」という技を入力し、春麗の大技「鳳翼扇」を受ける。「受ける」といっても、コマンドの入力時間は30分の1秒以下。それを連続して入力しつづけなければならない至難の技だ。それを敵地・アメリカ、しかも世界大会という舞台でやってのけた。17連続にも及ぶ連撃を受けた後、一瞬のすきが生まれた春麗に怒涛の反撃を叩き込む……。格闘ゲームがわからない人でも会場の異様なまでの盛り上がりを見れば、ウメハラの離れ技のすさまじさが伝わるだろう。”

介護の世界から返り咲いた鬼才プロゲーマー

 

梅原:あのときも「なにこれもう終わりじゃん」みたいになって、自分のなかで。

松田:うんうん。

梅原:「終わりじゃん」ってなると、意外とそこからヤケになるわけじゃないんですよね。

「とりあえずできることをやるけど、まぁ多分普通に考えたら負けるよな」って考えながら。ちょっとそこで開き直れる、というのはありますね。性格なんですかね。

藤井:最初の方で、松田さんがおっしゃってて「ほんとそうだな」と思うのは、そこで梅原大吾ひとりきりになっちゃうと多分そうは思えなくて、ものすごく引いたところで見てる自分がいますよね、きっと。

梅原:あぁ、そうかもしれないですね。

松田:あれが、ゲーマーとしてゲームの中のことしか見えてなかったら悲観するしかない状態ですもんね。

梅原:まぁ、そうですね(笑)

松田:どんなに相手を削ったとしても、何かがチョンって当たったら倒れるんですもん。

藤井:ですよねぇ!

梅原:(笑)

藤井:普通に考えて、ミスはできないということでどんどん追い込まれちゃいますよね。そこでの切り替え法って、なにかあるんですか?

梅原:意識的にやっているわけじゃないですから、いつもそうなんですけど。でも、結局経験があるので「焦ってやってもいいことないな」っていうのは知っているので、いざというときにそういうのが出てくるんだと思います。

藤井:めちゃくちゃ練習した人の言葉ですよね。

梅原:それはそうですよね。

藤井:練習はどのくらいするんですか?

梅原:いまはゲームがまた新しくなったので、…7~8時間くらいですかね。

藤井:現在も7~8時間練習する…、そのくらい経験があるからのお言葉なんですね。

 

 勝ち続けないと意味のない世界

藤井:私が一番興味深くて、すごいなぁと思ったことなんですけど、「100戦100勝」ということと「勝ち続ける」ということは違うんだとおっしゃっていますよね。

梅原:ぼくの中では、ということですね。

藤井:この考え方が、「背水の逆転劇」のときにも活きてるのかなぁと思ったんですけど。

梅原:そうですね、「100戦100勝」というのはそもそも普通の人には無理な話なんですけど、なんで「勝ち続けること」が大事だと思っているかというと、子供の頃からこういう世界にいてちょっと前、ほんとにちょっと前だったとしても勝てなくなったら、過去の勝利ってないことにされちゃう世界なんだな、と思ったんですよ。

もちろん記録には残ってますけど、「もう光は当たらないんだな」って当たり前のことかもしれないですけど。例えば、前の日に100連勝したとしますよね、でも次の日10連敗したらそれが今の評価というか、「10連敗した」ということの方が大きくなっちゃうんですよ。

藤井:現在に近ければそっちの印象の方が強くなってしまう、と。

梅原:そうです。

例えば、自分が月曜日に100連勝して、火曜日に10連敗したと、そうすると100連勝のことはもちろんみんな分かってはいるけど、あんまり重要じゃなくて火曜日の10連敗の方が重要な事実になると。

また水曜日に50連勝したらそっちの方が重要な事実になる。だから「勝ってました」の虚しさがすごい世界だなぁ、と思って。

「強かった」とか、「ぼくも若い頃は…」とか一切相手にされない世界なんだな、ということを誰かに教えられたわけでなく肌で感じたんですよね。「ずっと勝ってなきゃ意味ないんだ」って。

だから、長く勝つためにどうすればいいか?って子供の頃からずっと考えていて。

それで自分なりに出し結論が、ゲームが上手くなっていけば当然勝ち続けられるわけで、それって当たり前のことですけど、みんな人の前だったりすると「勝ってる人だと思われたい」みたいな理由で上達を犠牲にして、目先の勝ちを拾いに行ってしまう。目先の勝ちを拾いに行くという行為って、たいていの場合は上達に繋がってないんですよ

藤井:そういうものですか…。

梅原:そういうものです。

松田:すごく印象的だと思ったのが、日々成長していけば成長したウメハラはそこの試合で勝つこともあるだろうし、負けることもある、ってその考え方はすごく独特ですけど非常に打たれ強いなと思うんですよね。

  

ゲームをせめて「普通」のものに

藤井:最後に、「ゲーム/プロゲーマーの未来はどうなりますか?」という質問です。

梅原:「プロ」という括りかどうか分からないですけど、偏見のあった世界なのでせめてそれを無くしたいなと。

趣味、競技、仕事として普通に、特別にすごいとか思われたいとか思ってないので、普通に扱われればとりあえずはいいんじゃないかな?と。

藤井:「普通に扱われれば…」、梅原さん言葉とは思えないですけど、立場を考えると。

梅原:怒られるかもしれないですけど、そこまでゲームが「イイものだ、すごいものだ」と思われてもそれはそれで違和感があるので、普通に認められて、好きな人が居心地良ければいいのかな、と。

松田:まっすぐに見て欲しい、ということですよね。

梅原:それはそうですね。その上で発展するのであれば構わないし、ということで。

 

とにかくストイックで、梅原さんの言動から学ぶことは非常に多いのですがぼくが最も感心したのは、他の方に「めちゃくちゃ練習をした人だから言えることですよね」と聞かれて、何のためらいもなく「それはそうですよね」という言葉が返ってきたところ。

大会で賞金を稼いでる、とかイベントに出演している、本を執筆している…、など梅原さんが「プロ」であるという事実を知らしめる客観的事実はいくらでもあるのですが、とにかくこの「誰よりも練習している」という自負こそが、やはり彼が「プロ」である所以なのかな、と感じました。

ここで一般的な会社員を引き合いに出すのは少しアレですが、普通に考えれば「お金を稼いでいる」という事実を見れば、どんな業種であれその道の「プロ」なわけじゃないですか。でも、ここまで堂々とそしてさらっと「めちゃくちゃ努力してる」ってなかなか言える人いないと思うんですよね。梅原さんの場合はその対象が「ゲーム」というだっただけのことで。いやもう、カッコ良すぎる…。

 

そして、もうひとつ。やっぱり「好きなもの」だからここまで突き詰められるんだよなぁ、と。仕事を選ぶ際に「これでいいや」とか「なんとなく」みたいな妥協があれば、世界一とは言わずともその道のトップに立つことはできないし、そういう境地にすら到達できないですよね。好きなことを仕事にしている人は普通の人の「努力」さえ楽しみながらどんどん成長していくので、そもそもそうでない人が勝てるわけないんですよ。

「好きなことを仕事にする」って、日本だと往々にして叩かれがちです。やれ「そんなことやめとけ」とか、「世の中そんなに甘くない」だの…。そんなの、知ったこっちゃないっすよマジで。梅原さんを見てみましょうよ。あんなに偏見の多かった時代から、好きだった「ゲーム」を仕事にするためだけに極限まで自分を高めてきたわけです。直接語らずともそこに強烈なメッセージを感じられませんか?ぼくは、そんな梅原さんの生き方が最高にクールだと思うし、できることなら「好きなことを仕事にしたい」そう強く思いました。

今回は番組内でもざっくりとした説明のみでしたが、この『勝ち続ける意志力』、もはや説明不要です。どんなジャンルの方でも多くの学びがある名著です。とにかく読んでみてください。電子版だと紙の場合より32%お得となっています。

  


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