◆「抜本改革」ではなく「倒産先送り」
「働く人が増え、高い経済成長を続け、運用で高い収益をあげ続ける――これらの前提が1つでも崩れれば所得代替率は50%を割り込む」(4日付日本経済新聞 「年金『現役収入の半分』以下も」)
「3つの奇跡」が同時に起らないと、国が国民に約束して来た公的年金は給付できないということが、3日の厚生労働省の発表によって明らかになりました。
しかし、田村厚生労働大臣は「経済が成長し労働参加が進む前提では年金の安定性が保たれることを確認出来た」 ことに安堵しているようです。日本を代表する経済紙も「年金制度のもろさを浮き彫りにした」と指摘しつつ、年金制度を維持することを前提に、「抜本対策 急務に」と報じています。日本を代表する経済紙が「年金維持へ3つの道筋」として掲げる「抜本的対策は、「足元の年金の給付抑制」をしたうえで、「受給年齢、段階的上げ」「保険料納付、5年延長」「株式活用、利回り高く」というものです。
「公的年金の財政検証結果から見えてきたのは、年金制度と社会経済システムの改革を同時に進めていかないと将来十分な年金が受け取れなくなるという現実だ。年金の『安心』は今のままでは確保できない。痛みを伴う改革も必要で、政治の覚悟も問われる」(4日付日本経済新聞 「細る現役世代 改革急務」)
日本を代表する経済紙は、「痛みを伴う改革」の必要性を主張し、「政治の覚悟」を求めています。しかし、今求められるのは、「政治の覚悟」とともに「国民の覚悟」です。
「受給年齢に達しても予定した年金を受け取ることが出来ず」、「保険料納付期間が終わると思ったら5年延長された挙句に、年金受給できる年齢も引上げられる」という、「逃げ水公的年金」という制度を本当に「痛みを伴う改革」をしてまで維持する必要があるのかということです。
受取れるはずの給付金を減らし、支払期間を延長した上に年金受給を先送りにするというのは、世間一般の常識で言えば「抜本対策」ではなく「倒産先送り」に過ぎません。
◆「運用利回り」を上げると「破綻」を先送りできる
「最悪シナリオでは36年度に50%、55年度には39%まで下がり、積立金は枯渇する」(同日本経済新聞)
日本を代表する経済紙は、55年度、つまり今から40年後に、厚生労働省が示した最悪のシナリオ(運用利回り=実質運用利回り1.7%+物価上昇率0.6%=2.3%)では、現在128兆5790億円ある公的年金の「積立金は枯渇する」という「不安」を煽り、株式への投資比率を上げて、「運用利回り」を高める必要性があるという主張をしています。
「運用利回り」が改善出来れば年金制度は維持出来るというのは確かです。しかし、それは「実績運用利回り」が上がった時の話しで、財政検証で将来の「運用利回り」を高く設定するというのは、現在必要な積立金を少なく見せるための金融テクニックでしかありません。
例えば、現在の1年物国債の利回りは0.082%です。もし、1年後に100万円支払わなければならないとしたら、今手元に99万9181円持っていれば確実に返済出来るということになります。これに対して「年5%で回せれる」という仮定をたてれば、現時点で95万2381円持っていればいいということになります。
このように、将来の「運用利回り」を0.082%から5%に上げるだけで、今持っていなければならない金額は4万6800円(=95万2381円-99万9181円)も少なくて済むように見せることが出来るのです。
公的年金の運用利回りの想定が、現実よりも「高過ぎる」という批判を浴びることが多いのは、現在持っていなければならない積立金を少なく見せるため、極言すれば「今は破綻していない」とお化粧するためなのです。
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- 2014年06月05日 14:49
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