読売側追及、涙の告発会見は清武氏の「演出」…清武氏解任訴訟
プロ野球巨人軍と読売新聞グループ本社が清武英利元球団代表(63)に名誉毀損などで1億円の損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が5日、東京地裁(大竹昭彦裁判長)であった。読売新聞グループ本社の渡辺恒雄代表取締役会長・主筆(88、巨人軍取締役会長)、読売巨人軍・桃井恒和球団社長(67)、清武氏がそれぞれ尋問に出廷。読売・巨人側は清武氏が在職中から渡辺氏ら球団幹部との電話、会談の内容を隠しどりしていたことを明らかにし、2011年11月の突然の記者会見を「コーチを守り、巨人軍のコンプライアンスを維持するため」とした清武氏の主張は虚偽だと迫った。
清武氏は11年11月11日、専務取締役球団代表兼ゼネラルマネジャー(GM)として文部科学省で会見し、「会長の渡辺氏がコーチ人事をひっくり返した」と述べ、渡辺氏側に元巨人投手の江川卓氏のコーチ招へい案があったと暴露した。「人事で不当な鶴の一声があった」「重大なコンプライアンス違反」などと批判を展開。会見では声を詰まらせたり、ハンカチで涙をぬぐう場面もあった。同年、巨人はリーグ3位に終わり、クライマックスシリーズでもファーストステージで初めて敗れており、フロント陣の刷新や新戦力の補強は喫緊の課題とされ、人事の刷新が検討されていた。
だが、この日行われた清武氏への尋問で、「涙の告発会見」は事前に準備された演出だった疑いが指摘された。読売・巨人側はシンガポールでの民事保全手続きによって清武氏の知人である30代の女性(現在は結婚)宅から押収したパソコン内の音声ファイル、メモ、メールなどを証拠提出。それによると、清武氏は告発会見前に40分間、渡辺氏と電話でやりとりした内容を無断で録音していた。
清武氏が渡辺氏の自宅に電話。渡辺氏は「できればね。記者会見はやめろよ。やめなきゃ、これちょっと破局的な解決策しかなくなるからなあ」「記者会見なんかせずに、白石(読売新聞グループ本社社長)に電話した方がいいよ」などと会見をやめるように話していた。これに対して、清武氏も「ありがとうございます。また夕方にも電話差し上げます」とていねいに答えていたが、直後に会見を強行した。
この会見直前のやり取りは、解任後に出版した暴露本「巨魁」でも触れており、渡辺氏から「どう喝や脅迫を受けた」根拠として引用している。しかし、読売・巨人側は「渡辺氏は穏やかな口調で終始会見を思いとどまるように説得している」と主張した。
また、清武氏の周囲には複数の協力者がおり、清武氏はこの電話前に「どうせ俺はクビになるんだから」と周囲に軽口をたたいていた。電話後には「とれたでしょう、どうだ!」と歓声を上げ、複数の協力者と笑い合ったりする様子も録音されていた。
記者会見の前にはこのシンガポールの女性にメールを送信。「母ちゃん泣くだろうな」の題名で「これが声明文だ。午後2時会見。まあ、俺の喧嘩をみていてくれ」と記述した。会見後に清武氏が発言したとするメモには「ニュースみた? 泣いちゃった。(会見で発言した)ファンのみなさん…のところで泣いた。うまいだろ?」と記載されていた。清武氏は「女性は当時、フィアンセ。会見で泣いてしまったので照れ隠しの意味だった」と述べた。
ほかにも、清武氏のパソコンから見つかった複数の証拠がこの日の法廷で示された。清武氏は解任された場合に備え、読売側との間で自身の退職金などに関する文書を作成。別の録音記録からは桃井社長からGM解任などの人事案を提示された際、「私を代える理由はなんですか?」「これだけ屈辱的なことがあって」などと自身の処遇について強い不満を口にしていたこともわかった。
こうした証拠から、読売・巨人側は「自らを『正義の内部告発者』として名を売り、解任後は執筆活動で利益を得ようという打算があったことは明らか」と追及した。
清武氏は尋問の中で、「確定したコーチ人事を覆すのは正義に反する」と反論、「コーチを守りたい一心だった」と改めて主張した。清武氏は「会見で公表した事実は真実だから、解任は不当だ」などとして、6220万円の損害賠償を求めており両審理は併合して行われている。年内にも判決が下る可能性がある。