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劣悪な漫画を「表現の自由」という理由で野放しにしてよいのか~自民党・土屋正忠議員法務委員会質疑書き起こし

 6月4日、衆院法務委員会において、児童のわいせつな写真や画像、動画などの所持を禁止する児童買春・児童ポルノ禁止法改正案を、委員長提案の形で国会に提出することが決まった。これによって、児童ポルノ画像の“単純所持”が禁止される一方で、漫画やアニメ、CGなどに関する規制については見送られた。今回の法務委員会では、こうした漫画やアニメについて、どのような議論が行われたのだろうか。衆議院インターネット中継の中から、土屋正忠議員(自民党)の質疑の様子を書き起こしでお伝えする。※可読性を考慮して表現を一部整えています。審議中の法案はこちら→ 衆法 第183回国会 22 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案

なぜ、改正案から漫画やアニメに関する規定が削除されたのか?

土屋議員(インターネット審議中継より)
土屋正忠議員(以下、土屋):上程された委員長提案について、質疑を行いたいと思いますが、今朝、新聞各紙を見ると、極めて衝撃的なニュースが流れておりました。

平成17年12月に吉田有希ちゃんが、今市市で殺害され、犯人が捕まらなかったわけでありますが、昨日逮捕されたという記事が新聞各紙に載っております。まだ詳細は明らかではありませんが、新聞報道によれば、勝又容疑者の所有するパソコンから多数の女児のビデオ画像が見つかり、一部について被害者有希ちゃんのものだと供述している。

ビデオには、幼児性愛や猟奇的な画像なども含まれていたと報道されております。誠に痛ましいことであり、吉田有希ちゃんに心からご冥福をお祈りすると同時にご家族にもお悔やみの言葉を申し上げたいと思います。しかし、それと同時にこの事はあたかも今日、ポルノ単純所持について議論をされていることについて「しっかりやれよ!」「ちゃんとやってくだいさいよ!」ということを暗示しているような気がするわけであります。改めて今日の会議の重大性を感じる次第でございます。

私が、児童ポルノが犯罪に結びつくことについて関心を持ったのは、今から約20年近く前でございました。詳細については記憶をしておりませんが、EUの各国、ベルギー、オランダ、ドイツ、フランスなどにおいてマフィアが一斉に逮捕されました。児童ポルノを作成し、販売したという罪であります。

その際の記事に載っていたことで極めて衝撃を受けたのは、逮捕されたマフィアの幹部は、「俺たちが悪いんじゃない。買う奴がいるからだ」と。「需要があるから供給してるんだ」と。こういう言葉が載っておりました。盗人猛々しいと思いますが、しかし、ある面で真実だと思いました。私は、残念ながらその時は、武蔵野市長という立場でしたので、立法府におりませんでしたが、機会があれば、この事を質し、発言し、しっかりと世の中に基準をつくっていきたいと考えたことを昨日のように思い出すわけであります。

また、今回の件に関して言えば、私は委員長提案の前の、自民・公明・日本維新の会の3党の提案した修正原案に賛成者として名前を連ねた立場であります。原案の附則にあった「児童ポルノ漫画」が今回の委員長提案の中からは残念ながら削除されている。このことについて、改めて修正原案に賛成した立場からお尋ねしたいと思います。動議提出者について、その理由を簡潔にお答えいただきたいと思います。

ふくだ峰之議員(自民党):ご指摘の検討規定に対しましては、関係団体を中心に「創作者の萎縮を招く恐れがある」といった反対の主張があったことも事実でございます。こういった意見を踏まえて、今回の実務者協議会におきましては、検討規定の内容について、改めて検討を行いまして、児童ポルノの禁止法は実在の児童の保護を目的としたものであるから、単純所持については罰則化をはかるけれども、漫画、アニメ、CG等に関する検討規定につきましては、関係団体等からの懸念を踏まえまして、今般の改正案から削除するという結論に至ったところでございます。

児童の将来に対する責任を私たちが果たすために、需給側への処罰。つまり、単純所持 を厳罰化した本改正案を早期に成立させることを優先させていただきました。

土屋:ありがとうございました。それでは次の質問に移りたいと存じます。

資料1をご覧いただきたいと存じます。お手元にお配りした資料1は、平成22年5月4日の読売新聞の朝刊の記事であります。この「親は知らないパート5・女児襲う漫画手付かず」というこの記事をご覧いただきたいと存じます。

この記事によると、
「見ず知らずの男たちに女児が襲われ、やがて父親も暴行に加わる。2004年に市販された漫画のストーリーだ。描いた漫画家の男42歳は、その2年後、児童買春、児童ポルノ禁止法違反提供の容疑で逮捕された。同法違反や強制わいせつなどの容疑で06~07年にかけて、41人が宮城・埼玉両県警に摘発され、「女児愛好団」の中心人物とされている。愛好団の中には、彼の作品の登場人物さながらの行為に及んでいたメンバーもいる。」
以下省略しますが、自分が女児を襲った際の映像をこの漫画家に提供した男もいると。 別の元メンバーも「この漫画家の作品を『構図もストーリーもリアルで郡を抜いていた』と振り返る」と。

さて、次のセンテンスに
「日本から問題のある漫画が世界中に出回っている。08年11月にブラジルで開かれた『第3回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議』。日本は参加者から『児童の性的な姿態や虐待を描いたアニメや漫画を規制していない』と名指しで批判された。」
以下、ずっと続きますが、こういう記事でございます。この記事について、こういう漫画が「表現の自由」とか「創作活動を萎縮させる」とかという理由で野放しになっている。こういうことについて、野放しになっていていいのかどうか。法の元締めであります、谷垣法務大臣にご見解を伺いたい。

谷垣法務大臣(インターネット審議中継より)
谷垣法務大臣:法務大臣としてお応えいたします。こうしたコミックスを「表現の自由」の名の下に放置して良いのかどうかというお尋ねでございます。私は、こういうものの中には、「子どもの性」を弄ぶ、極めて好ましくないものがある一方で、「表現の自由」ということは充分に尊重しなければならない。誠に難しい問題だとご答弁するのが、法務大臣としての立場でございます。

しかし、現行の児童ポルノ法、これ議員立法で出来ておりますが、この議員立法の基本設計をした人物は私でございます。これを国会に提案いたしました時は、私は閣僚をやっておりましたので、提案者にはなっておりませんが、なぜ実在の子どもを写した写真は処罰できるけれども、コミックスが処罰できない構造になっているのか。

当時、「日本発の児童ポルノが蔓延しているじゃないか」「日本はきちんと取締りをすべきだ」という国際的な世論が強いものがございました。先ほどお引きになった3回目のブラジルの会議がございましたが、2回目は日本で行われた記憶しております。私はその会議にも出席いたしました。それから、お名前を出して良いか悪いかわかりませんが、スウェーデンの女王陛下から直接、「日本はこのようなことを取り締まれないのか」というご要請を受けたことがございます。

そういうことを受けまして、各党派で協議をいたしました。本来コミックスのようなものを取り締まるのは、刑法175条の猥褻図画罪。本来の刑法の立法者は、そういうことを想定していたと思います。しかし、当時私が検討いたしますと、当時のリーディングケースは、いわゆる「チャタレー事件」の最高裁判決でございましたが、性の自由化という風潮もあったんだと思います。「表現の自由」ということも強く言われておりまして、刑法175条では、この児童ポルノのようなものを取り締まるのは、なかなか難しいぞ、という結論になりました。

そうすると175条はですね、善良な性風俗を守る、つまり社会の法益を守るという立場で立法されておりますが、それではなかなか難しい。それならば実在の子どもが健全に育っていく中で、自分が写った写真のようなものが世間に出回っていたら、これは名誉毀損でもあるし、子どもの健全な成長を害するということにもなるだろう。だから、実在の子どもの権利を守る、つまり社会的法益を守るという立法ではなくて、個人的法益を守るツールとして考えてこの立法を作ったわけでございます。従いまして、コミックは罰せられない。

で、コミックスのようなものも、相当ある意味では弊害を撒き散らすものがあると、当時私も考えておりましたから、それについては、実在の個人の写真の方をまず立法でやって、後日の議論にまかせよう、ということで今日まで来た、ということでございます。

私は法務大臣としてお応えする枠を破ってご答弁申し上げたのは、やはり課題として、こういうものが残っているという気持ちを私が一政治家として強く持っている。この事は申し上げたいと思います。

土屋:過去の経緯について、私もよく存じ上げませんでしたが、谷垣法務大臣が当時、衆議院議員として、この法律の骨格をおつくりになった。しかも、その骨格をお作りになるにあたって、個々人の写真あるいは映像という個人の人権救済と、これがもたらす社会的法益を両方とも見据えつつ、まず前者の基本的人権を守るという方向を先に進めたというお話で。誠に条理をつくしたご答弁ありがとうございました。

立法者にもお尋ねしようと思いましたが、谷垣大臣がああいう答えをされましたので割愛させていただきますが、今、ご指摘のあった刑法第175条猥褻文書、図画、電磁的記録媒体その他のものを頒布している。この第175条は、「チャタレー婦人の恋人」の裁判、最高裁もありましたが、同時に少なくとも実在しなくても創作物でも、それが社会に与える害毒が多い場合には、取締りの対象になる。どこまで発動できるかどうかは別として、こういう法の構成になっているんだろうと思います。

でありますからして、「コミック」というと、なにやら柔らかく聞こえますけれども、相当露骨な性的虐待を伴う漫画みたいなものも、創作物だからといってその罪を逃れられない。その社会的害悪を逃れる事はできないと、私はこのように申し上げておきますし、また谷垣大臣も内心そうお考えになっているのではないかと、こんな風に拝察をいたします。

劣悪な表現をやっているものを保護する必要はない

土屋:さて、三番目の質問でございますが、資料2をご覧いただきたいと存じます。資料2でありますが、これは、熊本3歳女児殺害事件であります。今朝の新聞に掲載されている事案は、今のところ実在する女児の映像しか映していないのに対して、これは児童ポルノ漫画が犯罪に結びついたという案件でございます。

この案件を簡単に申し上げますが、平成23年3月3日、熊本市内のショッピングセンター内で、女児をトイレに連れ込んで強姦しようと考えていたところ、被害女児、当時3歳を見つけ、強姦は難しいものの猥褻行為は出来ると考えて、同児をトイレ内に連れ込み、着衣の上から胸を撫でた。同児が大声で叫び、暴れるなどし、また同児を探す声などが聞こえたために、犯行の発覚を恐れるために、同児の首を左手で絞めて殺害したと。殺人並びに強制わいせつ致死に問われたものでございます。

そして、死体遺棄にも問われたわけでございますが、これの捜査過程の中で、多数のこの被告人宅から猥褻な漫画が発見されたということになるわけであります。わかりやすくいえば、シミュレーションをしていた、こんな風にも考えられるわけであります。 こういうことについて、立法者はどのようにお考えか。

ふくだ議員(インターネット審議中継より)
ふくだ峰之議員(自民党):お答え申し上げます。土屋議員の児童ポルノ漫画が、児童に大きな被害をもたらしているとお考えは私も認識させていただきました。児童が犯罪に巻き込まれたり、権利を侵害をされた状況が長く続いたり、いつか自らの児童ポルノが表にでてくるかもしれないという不安を持ち続けることを良しとする国会議員はたぶん誰もいないと思います。まさに土屋議員はその筆頭だと認識させていただきました。

資料2および3を読ませていただきましたが、当然あってはならない大変に悲惨な事件であると思います。ただ、今回の事件はですね、まさに個別具体的な事件の一例でございまして、一般論としてすべてがどうかと、お答えする事は差し控えさせていただきたいと思いますが。一言いうならば、土屋議員と同様にですね、二度と起きてほしくない犯罪でございますし、犯人に対して、私も憤りを感じているところでございます。

土屋:ありがとうございます。こういう共通の認識を持って、まずこの法律を成立させた後、さらに、いわゆる先ほど谷垣大臣がおっしゃったような個人の人権救済はもちろんのこと、そこから始って社会に対して、どのような悪影響があり、それを法律として規制する意味があるのかということについて、今後ともぜひ私も一国会議員として考えていきたいと思いますし、また立法者もぜひお願いいたしたいと思います。

同時に、これは国家秩序の根本に関することでございますから、法務省としてもこういうことについて、議論をし研究していただけるよう、お願いをいたしたいと思います。結びに意見として申し上げたいと思います。

私は、漫画あるいはコミック、呼び方はいろいろありますが、非常に可能性に富んだ素晴らしい創作活動だと思います。私たちの年齢になると、例えば「鉄腕アトム」。手塚治虫氏のシリーズは全部読みました、最後の「火の鳥」まで。それから非常に暖かい感じでは「サザエさん」、「ドラえもん」もありましたねぇ。「ゴルゴ13」などは麻生副総理も愛読者ですが、私もその次ぐらいじゃなかろうか、と思っております。それからですね、「まことちゃん」「漂流教室」、ちばてつやさんが書いた「明日のジョー」。最後の白くなって燃え尽きるというシーンは今でも覚えていますよ。そのほか、「課長・島耕作」「沈黙の艦隊」、これは私の友人が書いた本であります。「ワンピース」、最近読んだ本の中には「テルマエ・ロマエ」という、ローマ時代と現代をいったりきたりする楽しい作品があります。

私はですね、創作物、まさに「言論の自由」とか「表現の自由」の中で出てくるものというのは、人々に勇気を与えたり、希望を与えたり、失意のそこに陥っている人を励ましたり、こういうことこそ創作活動の意味であって、この先ほどの資料1に出てくるような気持ち悪くて読む気にもならないような劣悪な表現をやっているものを保護する必要はないと。

よく自粛するという話がありますけども、こういうのは自粛してもらわなきゃ困るんです。「創作活動が萎縮する」というけれども、豊かなところでどんどん創作活動をやってもらうと同時に、こういうことについては萎縮してもらいたい。心ある漫画家なら、必ずこのことがわかってくれるはずだと申し上げ、頑張ってこれからも国会議員としてお互いに責任を果たしていくことをお誓いして私の質問を終わらせていただきます。

出典:衆議院インターネット審議中継

関連リンク
熊本県の3歳女児殺人事件の犯人は児童ポルノ漫画の愛好者だった―劣悪な漫画を規制しないで良いのか。 - 土屋正忠
私は漫画の愛好家です。鉄腕アトム、サザエさん、ドラえもん、あしたのジョー、ゴルゴ13などなど人々に夢を与え、励まし、考えさせる〜児童ポルノ漫画は表現の自由に値しない - 土屋正忠
「児童ポルノ禁止法」に関する記事一覧 -BLOGOS

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