2014年6月5日01時25分
「笑ってる場合かヒゲ」って、水曜どうでしょうのロケ中に大泉洋から何度か言われたことのあるセリフです。
いやもう笑っちゃうんですよ、危機的な状況の中でも。たとえばアラスカのユーコン川をカヌーで下ったとき。大泉さんの乗ったカヌーが流木に激突しそうになって。水温が低くて落ちたら10秒で死ぬみたいなことをガイドに言われてたもんですから、そりゃもう「危ない危ない!漕いで漕いで!」って、必死に声をかけてたんですけど、あっけなく激突しちゃって。でも僕から見たら転覆しそうなほど危険じゃなかったんですよね。よかったよかったと思って大泉さんを見たら、もう必死の形相でこっちを見てて。その顔見たら「ぶははははは!」って笑っちゃって。
原付きバイクで旅をしてたときは、大泉さんがスロットル全開で急発進しちゃって。前輪が浮いたウィリー状態で目の前にあった『安全第一』って書いてある工事用の柵に突っ込んでいったんですよ。そのときも「うはははは!どうしました? 大泉さん」って、まず爆笑しちゃって。そりゃ当事者の大泉さんからしたら「笑ってる場合かヒゲ!」ってことなんですけど、でも僕から見たらちょっと当たっただけなんですよ。でも当事者は「死ぬかと思った」って青ざめてて。その状況がもう笑っちゃうんですよね。
大泉さんはそんな僕を見て、「キミはあれだろ、危険な状況を笑いで薄めようとしてるんだろ」って言ったことがあるんだけど、確かにそんな気持ちが僕の中にあるのかもしれません。「大丈夫?怖かった?」って、当事者の気持ちに寄り添うよりも、いっそ笑い飛ばしてやった方が気がラクになることもあるだろうって。
でもね、なんだか今の時代、そうやってひとりだけ笑っている人間がいたら、反感を買ってしまうことの方が多いような気がするんです。「こんなときに笑ってる場合か!」って、怒る人がとても多くなっているような気がします。みんなと一緒に、みんなで寄り添って、みんなが同じ気持ちを共有してないと「不謹慎だ」って怒られそうな雰囲気が満ちているような気がします。でもそんな社会が、みんな実は息苦しいんじゃないかって僕には思えます。
危機的状況だって違う視点から見れば笑えることもある。その一方で、みんながもう安心だって笑って済ませていることも、視点を変えればとても危ない状況だったりする。「笑ってる場合か!」ってみんなに怒られても、僕は自分の視点で社会を見ていたいと思っています。
(HTB「水曜どうでしょう」チーフディレクター)
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北海道ローカルのユルーいバラエティー番組ながら、全国人気が定着した「水曜どうでしょう」。タレント2人が挑む無謀な旅の珍道中にあって、大泉洋を番組内でガハハとイジリ倒す影の出演者が、同行ディレクターで制作チーフの通称「ヒゲ」こと藤村氏だ。怒った大泉と繰り広げる丁々発止の「もめ事」はいまや笑いの真骨頂。同番組のナレーターや編集、DVD制作のほか、最近ではドラマや舞台演出、エッセー出版、役者にも挑戦する多才な藤村氏に、番組作りや北海道への思いをのびのびと記してもらう。
(原則毎月第1、3木曜に連載)
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藤村忠寿(ただひさ) 北海道テレビ放送(HTB)コンテンツ事業室エグゼクティブディレクター。1965年愛知県生まれ、北大法学部卒。90年入社後、96年チーフディレクターとして当時無名の鈴井貴之、大泉洋を起用したバラエティー番組「水曜どうでしょう」を立ち上げ全国的な人気に。02年のレギュラー放送終了後は、舞台やドラマの演出、グッズの企画開発を手がけながら、番組DVDを制作し、350万枚以上を売り上げる。18日に第21弾となるDVD「リヤカーで喜界島一周/釣りバカ対決!わかさぎ釣り2」を発売。
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