社長の風景

成功する多国籍企業は、現地の声を吸い上げるのが上手い。弊社がドイツ本社に提案してつくった静かな高圧洗浄機はヒット商品になりました。---ケルヒャージャパン 佐藤八郎

2014年06月05日(木) 夏目幸明
週刊現代
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清掃機器の世界最大手メーカー、ドイツのケルヒャー。手洗いでは落ちない汚れも落とせる高圧洗浄機やスチームクリーナーなどを世界各国で販売する。日本国内でも業務用、家庭向け商品を発売。家庭用高圧洗浄機の分野では約70%もの圧倒的シェアを誇る。ケルヒャージャパンは'88年に設立された同社の日本法人。社長は、人情味あふれる佐藤八郎氏(66歳)だ。


さとう・はちろう/'48年、山形県生まれ。'71年に早稲田大学商学部を卒業し、住友スリーエム入社。その後、兄の事業を手伝い、大手外資系企業の副社長を経て、'95年4月にケルヒャージャパンへ転職、同年10月に代表取締役社長就任、以来現職。日本に高圧洗浄機を根付かせ、18年間、年平均二桁以上成長させるなど、辣腕をふるう。
ケルヒャージャパンのWebサイトはこちら

掃除学

ケルヒャーが世界を代表する清掃機器メーカーになった理由を垣間見たことがあります。(ドイツ人の)会長とホテルで話したとき、彼はシャンデリアの上を触り「ここを掃除する方法がないのは問題だ!」と言うんです。あるときは、「大学にクリーニングテクノロジーを教える学問がないのはおかしいよね」と疑問を持っていました。この、理想を思い描く力が、イノベーションを生んできたのだと思います。

プロの誇り

弊社は'10年に、無償で日本橋の洗浄を実施しました。100年前の建造当時、職人が石をノミで削って生まれた風合いは残す。空襲の焼夷弾で焼け焦げた痕も残す。でも、一日数万台もの車が通るなどしてこびりついた汚れは落とすんです。

掃除すると言っても、使うのは水や洗剤だけじゃありません。このときは炭酸カルシウムのパウダーを吹き付けて汚れを落としたんですよ。

飢餓感

私は8人兄弟の8番目に生まれました。しかも父が若くして亡くなったため、お金もない。子供の頃は毎日が生存競争。ごはんを早く食べないとなくなるんです(笑)。この感覚、社会に出て役立ったと思います。

長男と 住友スリーエム退職後、兄と事業を起こしていた時期の写真。家族を大切にしつつも、得意の語学力を生かして海外を飛び回っていた

自我

ガキ大将で、野球が好きでした。ところが、名門高校の野球部に入ると周囲のレベルがちがう。1年先輩に元中日の谷沢健一さんがいらしたのですが、投げる球も、打球も圧倒的でした。結果、自信を無くし、途中で退部しました。このときの挫折感により、人間とは、世の中とは、と考える自我が芽生えた。

雄弁会

早稲田大学に入学した後、政治家を志し(多数の政治家を輩出している)雄弁会に入りました。学生紛争の時代でもあったので、政治談議が熱くなりすぎて机に上がって取っ組み合いを始める人もいた。私も「政治とは何なのか」などと大いに悩みました(笑)。今思えば、悩めるというのは幸せなことで、就職や恋愛のことなどでもいろいろ悩むうち「結局、どんな問題でも目をそらさず正面から向き合うしかない」という感覚が身についたんです。

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