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放射性物質の健康影響を判断する上でに、迅速に正しい情報を公開することが欠かせない。だが、専門家たちは「データが足りない」と口を揃える。
放射線災害医療研究所の郡山一明所長は、こう主張する。「データから正しい評価をするのはスペシャリストである専門家の仕事。政府はジェネラリストなのだから、専門家の意見を聞いて判断を下す役割だ。それなのに、専門家に全く情報が届いていない」。
長崎大学大学院の山下教授も、「震災が起きた3月11日は長崎県にいた。長崎にいると、メディアを通じた情報しか入ってこない。震災4日後に福島入りして、初めて状況が分かったほどだ」と明かす。
文科省がついに「SPEEDI」のデータを公開
特に情報公開へのニーズが高いのが、前述の「SPEEDI」だ。放射性物質の拡散状態をシミュレーションできるSPEEDIのデータがあれば、避難すべきかどうかの判断や、健康への影響が推し量れる。だが、文部科学省は公開に前向きではなかった。
この状況を、元原子力安全委員会委員長の松浦祥次郎氏(現在は原子力安全研究協会理事長)は、「SPEEDIは元々、災害などで放射線物質が漏れたときに正しい情報を公開するのを目的に作ったシステムです。なぜ公表されないのか分からない」といぶかっていた。
こうした周囲の声に押されて、政府は3月23日夜、ようやくSPEEDIによるシミュレーション結果を公開した。そのデータによると、原発から30km以上離れていても、場所によっては年間100ミリシーベルト以上の被曝線量になる可能性があるという。
松浦氏は、こう続ける。
「確かに、原発から外部に漏れ出している放射性物質の量を正確に把握できないとSPEEDIの予測精度は下がってしまう。それでも、東京電力の記録を見れば、どれだけの核燃料が原発内にあったのかは分かる。放射性物質の漏えい率を仮に決めてシミュレーションした結果と、各地の放射性物質の測定結果をつき合わせて、ズレがあれば漏えい率を修正すれば良い。福島第一原発から、どの放射性物質が、どのように拡散しているか分かるはずだ」
福島第一原発では、最悪の事態を避けるべくギリギリの作業が続いている。このまま収束していくのか、それともさらに深刻な状況に陥るのか。福島の人々の不安は計り知れない。情報公開が進まなければ、健康への影響を評価することすらできないのが実情だ。
3ページ小見出し下2段落目(チェルノブイリと〜小さいと思います)に加筆しました。また、4ページ下から6段目に「説明が」を加筆しました。本文は修正済みです [2011/03/24 14:50]
1ページ表の横、「血中での濃度」は「放射能」、2ページ目小見出し「文部省」は「文科省」、3ページ小見出しから2段落目「臨海」は「臨界」の誤りでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです [2011/03/24 21:55]