2002年7月30日
ソースと『日本子孫基金』
『日本子孫基金』というNGOがある.環境問題や食品の安全性
に関してマスコミに登場することが多いから一般にもよく知られて
いる.一見,消費者サイドに立って活動しているように見えるが,
しかしこれが時々頓珍漢なことをするのである.
読売新聞《Yomiuri Online 7/30 03:05》の「野菜たっぷりと思っ
ていたら、ソースの主成分は砂糖」という記事によると,タイに
輸出された日本製ソースを『日本子孫基金』が調べたら原料表示が
国内流通の製品と異なっており,メーカーは消費者に正確な情報を
進んで開示するべきだと言っているようである.
加工食品について農水省が定めた品質表示基準では,ソースの原
材料は加えられた原材料の重量順に名称を並べることになっており,
国内で販売されているソースの原材料は,ほとんどが野菜・果実,
醸造酢,糖類,食塩,香辛料の順で記載されている.
ところが『日本子孫基金』が,タイに輸出された日本製品を調べ
たところ,キッコーマンの中濃ソースは砂糖25%,酢12.7%,トマト
11.5%,リンゴ5%,塩5%の順であった.またウスターソースでは水
34.6%,砂糖27%,酢17%だった.(筆者注;中濃ソースにも水はある
はずだが,どういうわけか記事では水はないことになっている)
読売新聞記事の中で『日本子孫基金』の熊沢夏子・主任調査員は
「消費者が知らずに砂糖漬けになっていた実態が浮き上がった。
メーカーは消費者に正確な情報を進んで開示するべきだ」と発言し
ており,記事はこれを受けて見出しで「野菜たっぷりと思っていた
ら、ソースの主成分は砂糖」とし,「違法ではないが消費者へ十分
な情報が伝わっておらず、食品表示のあり方に一石を投ずることに
なりそうだ」と本文にある.
どうしてこんな事になるのかというと,野菜や果実は煮ると水が
減ってかなり重量が減るからである.煮詰め方で重さはどうにでも
なってしまう.そこで日本では,元のトマトやリンゴの重さを基準
に考えることになっている.タイの法律はよく知らないが,たぶん
使用したピューレの重量を記載するのだろう.ピューレの品質基準
もあるのだろうが,上の数字を見るかぎりでは,ピューレの作り方
を変えればトマトを二番目にもってくるのは簡単なことであろう.
このように「水」も加工食品の成分だとして原料表示の対象とする
と,かえって正しい情報が伝わらなくなることもあるのだ.
私がここで問題にしたいのは,この熊沢夏子という人物と読売の
記者の生活感覚である.「消費者が知らずに砂糖漬けになっていた
実態が浮き上がった」「野菜たっぷりと思っていたら」などと鬼の
首をとったように言うが,どこに自分は日頃野菜不足だからソース
をたくさん摂ろうと考える間抜けな消費者がいるか.あるいはこの
人達はイチゴやリンゴを煮てジャムを作ったことがないのか.スポ
ンジケーキを焼いて生クリームで飾りつけたことはないのか.食い
物を手作りするのが嫌いなら料理本でも読むが良い.それもイヤだ
というなら食品加工の現場で製造工程を見てくるべきだ.こういう
机上で考えてばかりで生活感のない人に文句をつけられたキッコー
マンは,さぞ驚いたことだろう.記事の中でキッコーマン広報部は
「日本もタイも中身は同じ。表示はそれぞれの国の規定にのっとっ
て行っている」とコメントしているが,これはキッコーマンの言う
ことが正しい.
『日本子孫基金』はBSE問題が発生した際に,専門外ではある
が私のような技術屋からみると変なことを言っていた.そのことを
私は昨年12月21日の当コラム『雑事雑感』の「再び狂牛病について」
で書いた.
『萬晩報』というウェブ・サイトがあって,サイト主催者で共同
通信社経済部の伴武澄という人が「消費者団体って誰の味方なの/
ワシントン・アップル事件」という記事を書いており,『日本子孫
基金』の頓珍漢ぶりについて参考になる.URLはこちら.
http://www.yorozubp.com/9801/yorozu.htm
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