有馬 朗人
促進会会長
元文部大臣
元東京大学総長
葛西 敬之
促進会発起人
JR東海名誉会長
木元 教子
促進会発起人
元原子力委員会委員
評論家・ジャーナリスト
石川 迪夫
促進会発起人
元 北海道大学教授
中村 政雄
促進会発起人
元 読売新聞論説委員
宮﨑 慶次
促進会発起人
大阪大名誉教授
秋元 勇巳
促進会発起人
三菱マテリアル株式会社名誉顧問
日本原子力文化振興財団監事


 手塚治虫さんが語った、科学技術文明に見る安全と利用

木元 教子


Noriko Kimoto
元内閣府 原子力委員会委員
評論家・ジャーナリスト

 マンガ家手塚治虫さんと、毎週一回、テレビ朝日の朝の時間帯に、ライブで対談をするという幸せな「30分生番組」を、私はレギュラーとして持っていた。一九六十年代半ばの頃だ。
 当時、手塚さんは東京練馬区の大泉学園に住んでいらして、私は同じ練馬区の豊島園に住んでいた。そこで、早朝のテレビ局からのお迎えの車は、まず私の家に来て私を乗せ、 それから、手塚さんのお宅に向かう。私が門のボタンをピンポーンと押すと、家人の方が「お早うございます」と出ていらっしゃる。その後から、手塚さんがおなじみのベレー帽で「 やぁやぁ」と車に乗られ、放送局までの約35分。ご一緒に、一路テレビ局に直行する。
 この35分は、実に価値ある時間だった。番組の内容と全く関係なく、いろいろなお話を伺うことが出来たからだ。

 ロボット「鉄腕アトム」の十万馬力のエネルギーは、「アトム」。つまり「原子」の力を使う。
『 だからロボットの名前は「アトム」としたのです。この、アトムという音の響きもいいでしょう』と手塚さんはニッコリされていた。
 子ども達だけではなく、大人にも愛されている十万馬力の正義の味方「鉄腕アトム」は科学技術の粋を集めて、天才科学者の息子の代わりとして作られた。
 しかし、それは単に科学万能・科学礼賛の象徴としてのアトムの存在では無く、手塚さんが語りたかったことは、アトムによって展開される理想の世界だと、私は納得している。
 それは「無意識で、無防備な過信による科学技術文明の利用は、実は、人類や地球社会にとり、
いかに危険なものであり、安全とはほど遠いものか」ということ。アトムというヒーローの生き方を通して、そのことに気付いてほしいと、手塚さんは問題提起をしているのだ。

 手塚さんの生誕80周年記念特別展の巻頭「未来へのメッセージ」には、こう書かれている。 『子ども達に託したかった夢や憧れと共に、社会不安を原因とする戦争勃発や、自然破壊への危機感といった未来への警鐘が、手塚自身の強いメッセージとして、これらの作品にこめられているのです。』と。
 また、この特別展の「ごあいさつ」には、こんな言葉が見られる。
『手塚治虫は、「人間とは何か」、「生命とは何か」など、今も、作品を通してメッセージを発し続けています。一九二八(昭和3)年に生まれ、一九八九(平成元)年に惜しまれつつ60歳でこの世を去った手塚は、ストーリーマンガの世界を開拓し、壮大な想像力と、無限とも思える活力で、マンガを、世界に誇る日本の文化の一つに押し上げました。』と。

 ここで、もう少し言葉を付け加えさせていただくと、科学とか、技術とかの世界を、分かっているとは言え、はっきり「文明」と意識させ、それは「安全な文明だろうか」、「広く利用でき
る文明だろうか」と確認し、共有しあう土壌の存在を、手塚さんは強く求めているのではないか。
一九六六年の手塚さんの作品『来るべき世界』に、こんな言葉のやりとりがある。
「スター王国とウラン連邦(地球の二大国)の口論から戦争が始まる」
「宇宙から、暗黒ガスの星雲が地球に。天変地異が勃発」
「はじめて、文明のはかなさと、戦争の愚かさを知る(米・ソ対決)」・・・。
 手塚さんは、21世紀にも戦争はあると言われていた。
その上で、「原子力エネルギーの平和利用」については、強く期待されていた。

 手塚さん!、エネルギー資源のない日本、原子力を「安全」に「平和」に「利用」することを大命題とし、この国を支えようと頑張っていますよ。

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