『新明解国語辞典』と『三省堂国語辞典』の間に隠されていた知られざるミステリーとは?

三省堂

TBSラジオ東京ポッド許可局』の2014年5月31日放送分よりピックアップ。

今回は「日本語学」を研究しておられる、日本唯一の学者芸人・サンキュータツオさんのおもしろい「辞書」に関するおはなしです。『新明解国語辞典』と『三省堂国語辞典』にこんなミステリアスな事実が隠されていたとは…。ほんと、ゾクゾクっとしますよこれ。

 

【しゃべるひと】

マキタスポーツ(芸人、ミュージシャン、俳優、コラムニスト)

サンキュータツオ(日本で唯一の学者芸人、現一橋大学非常勤講師)

プチ鹿島(時事に強い・時事芸人)

 

サンキュータツオ:最近呼んだ本でとてもおもしろくて書評まで書いた本に、『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』ってのがあって。

『新明解国語辞典』と『三省堂国語辞典』っていう同じ「三省堂」っていう出版社から出ている2つの国語辞典があるんです。

まず、「ひとつの出版社からなんで2つの辞書が出てるのか?」というのが驚きポイントなんですけど、『三省堂国語辞典』を作ったのが見坊先生という方なんですね。『新明解国語辞典』を作ったのが山田先生という方です。

この見坊先生と山田先生って実は同級生だったんです。東大の同じ金田一ゼミの同期で、結構若手の20歳そこそこで辞書づくりを始めているんですけど。最初、同じ辞典を作ってたんですよ、『三省堂国語辞典』を。

なんですけど、あるときから、山田先生がいきなり『新明解国語辞典』を作ることになって、ずっとライバル的な感じで2人が別々の国語辞典を作ることになってるんですよ。で、「それってなんでなんだろう?」って辞典業界でずっと疑問だったんですよね。

それぞれ、編集方針が違うというのももちろんありますけど、その著者があるとき「時点」という言葉を『新明解』の初版から最新の7版まで調べてみたんですよ。そしたら、第4版のときに「1月9日の時点ではなにも知らなかった」という用例が出てくるんですよ。

プチ鹿島:ほぉ!

サンキュータツオ「この用例なんだ?」と。

第3版までは何にも書いてなくて山田先生が生きている一番最後に改定したのが第4版なんですよ。第5版からはもう亡くなっているので。

プチ鹿島:うんうん。

サンキュータツオ:第4版だけにそれがあるんですよ。

「この『1月9日』ってなんだ?」っていうことに引っ掛かって、「なんだろう?」ってその著者がいろんなことを調べたら、関係者の中で日記をつけている人がいて、その日記を読んだら『1月9日』っていうのは『新明解国語辞典』の出版記念パーティがあった、と。

プチ鹿島:はぁぁ〜。

マキタスポーツ:ふーん。

サンキュータツオ:そういうことが分かったんですよ。

これほんとぜひ本を読んでいただきたいんですけど、『三省堂国語辞典』を作った見坊先生はその当日まで、『新明解国語辞典』という別の国語辞典ができることを知らされてなかったんですよ。

ところが、「山田くんが今回こういう辞典を作るので…」って、ある日突然聞かされるんです。その後は特に何もなかったと言われてるんですけど、お二人とも亡くなっているので。

マキタスポーツ:なんかそれ、プロレスの話みたいだね。

サンキュータツオ:ドキュメントを作ったテレビディレクターが本を作っているんですけど、見坊先生の息子さんに「その年の1月9日のお父さんの様子を覚えてます?」って聞いたら…

プチ鹿島:あら!

サンキュータツオ:そしたら、「ばっちり覚えてます」と。「その日はあれだけ温厚だった父が家に帰ってきてものすごい怒ってた」と。

マキタスポーツ:ほぉ〜。

サンキュータツオ:そういう証言を得て、そこから二人が仲違いした、っていう情報が出てきたんですよ。

で、そこから2つの辞書に分岐していった、ということが「時点」っていう言葉の用例から分かる、っていうね。

プチ鹿島:すごいねぇ〜…。

サンキュータツオ:身震いするほど面白かったんだけど。

これってやっぱり、ひっかかりを点と点を線につなげていく作業の中で、ちゃんと調べていくと新しい事実がでてくる、っっていう。こういうことって、行間を読む力とか、深読みする力がないとできないかなぁ、と思って。

 

これはたしかに身震いしますわ…。まずそこに目をつけた最初の人がすごいですよね、「時点」の用例なんてそんな細かいところまで行き届かないじゃないですか。

すると、「1月9日の時点ではなにも知らなかった」というミステリアスな用例がでてくるなんて…。なんてよくできた話なんでしょう。

 

バカリズムさんのラジオのコーナー「ブラッシュアップ広辞苑」もそうですが、辞書って地味にこういう面白い話が転がってたり、面白い見方ができるものなのかもしれませんね。 

 

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