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山田厚史の「世界かわら版」
【第62回】 2014年6月5日
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山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

勝算薄い北朝鮮の拉致再調査
被害者は果たして帰ってくるか

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 北朝鮮による「拉致解決」に向けて再調査が始まる。いまさらどんな新事実が分かるというのか。情報は北朝鮮の手の内にある。「経済封鎖を解けば何人か帰す」とほのめかされ、日本政府は腰を浮かせた。「誰か帰って来るだろう」と世間も期待する。期待が盛り上がれば失望も大きい。日本政府が望む「拉致被害者」の帰国は実現するのだろうか。うまくいっても帰って来るのは「行方不明になった誰か」でしかないとも言われる。

古屋司拉致問題担当相の発言修正の裏

 6月1日付け産経新聞の一面記事に「おやっ?」と思う文章があった。ちょっと長いが引用させていただく。

 『「拉致被害者が戻って来なければ、制裁の解除はおろか1円の支援もすることはない」
 3月18日の記者会見で古屋圭司拉致問題担当相がこう述べたところ、北側が「この発言を撤回しなければもう日朝交渉はやらない」と抗議してきたのだ。
 このため、古屋氏は2日後の20日の記者会見では次のようにトーンを弱めた。
「あらゆる場面を通じて拉致問題の解決のためチャンスを捉えていく」』

 政権内部に食い込んでいる産経新聞ならではの記事だ。漫然と記者会見を聞いているだけでは分からない微妙な大臣発言の変化に込められた裏事情を解き明かしている。

 この記事の通りなら、「拉致被害者の再調査」とは、多くの日本人が期待することとかなりずれている。

 「拉致被害者が戻って来なければ、1円の支援もすることはない」

 これが安倍政権の基本姿勢ではなかったのか。「残る12人の拉致被害者全員を帰国させること」が目標だ。経済制裁の緩和や人道支援など北が望む解除は「拉致されている人の帰国」のために行う、と国民は思っている。

 当たり前のことを担当大臣が言った途端、「撤回しろ」とねじ込まれ、日本政府は「おっしゃる通り」とばかり従った。

 気の毒なのは古屋大臣だ。強硬姿勢を売り物にしていた政治家である。おめおめと発言を訂正し「あらゆる場面を通じて……」などと曖昧な言い方をして「拉致被害者の帰国」という重要な条件を引っ込めてしまった。

 この一件は、日朝合意の実態を映し出している。「拉致被害者の帰国」は日本側が行う制裁解除の条件になっていないようだ。

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山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


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元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

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