国連決議に基づく多国籍軍の活動を、自衛隊がどこまで支援するのか。

 安倍政権が、これまでの政府の姿勢を大きく転換させる新たな案を自民、公明の与党協議会に示した。

 イラクの復興支援の際にとられた「非戦闘地域」という線引きはやめ、「戦闘地域」であっても水や燃料の補給、他国の兵の輸送、負傷者の治療といった後方支援をするという。

 集団的自衛権とは異なる国連の「集団安全保障」にかかわる活動だ。国際協力について議論する余地はあろう。とはいえ、従来とはあまりにかけ離れた提案であり、自衛隊の役割が決定的に変わることになる。

 政府は、他国による武力行使と一体化するような支援は憲法9条によって禁じられているとの考えは維持。そのうえで「一体化」にあたるのは▽支援先が戦闘中▽提供する物品が戦闘に直接使われるなど、四つの条件をすべて満たした場合に限った。ひとつでも欠ければ支援できるようにするという。

 これに従えば、戦闘中の他国軍に弾薬を直接補給することはできないものの、そのほかは戦闘地域であってもたいていの支援ができるようになる。

 ただし、敵軍にしてみれば、武力行使と一体化しない後方支援という線引きに意味はない。自衛隊の活動範囲が前線に限りなく近づくことで、自衛隊員が戦闘に巻き込まれる可能性は格段に高くなる。

 一体化論に対しては、「日本にしかない概念で、自衛隊の活動をいたずらに制約してきた」との批判がある。だが、私たちが9条をもつ以上、自衛隊の活動に一定の制約が生じるのはあたりまえだ。

 政府の案は、一体化の範囲を極限まで狭めるものだ。このままでは、9条の意味が失われかねない。

 さらに心配なのは、明確な国連決議がないままブッシュ政権が突き進んだイラク戦争のような紛争にまで、米国の求めるままに支援を強いられないかという点だ。

 これらを考えあわせれば、突然の提案に公明党が驚き、難色を示したのは当然だ。慎重に議論を進める必要がある。

 安倍首相は先月の記者会見で、一連の安全保障政策の検討では「私たちの命と平和な暮らしを守る」と強調した。

 ペルシャ湾での機雷除去や多国籍軍への支援拡大。次々と繰り出される政府の提案は、そこからかけ離れていくばかりではないか。