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【社説】

虐待死の防止 お母さんを孤立させず

 虐待で子が命をなくす事件が後を絶たない。その最大の犠牲者は生後間もないゼロ歳児だ。孤立し、妊娠時に健診も受けず、生活に多くの困難を抱えた母親。そんな彼女たちを、まず救い出さないと。

 神奈川県厚木市の五歳児の放置死亡がニュースになっているが、子どもの虐待死はゼロ歳児が一番多い。厚生労働省の専門委員会が二〇〇三年から一二年まで九次にわたって検証した。

 その間の虐待死は、全国で四百九十五人(心中を除く)。年齢別ではゼロ歳児が二百十八人(44%)にも上った。そのうちでも、幼い方が多い。

 原因は身体的暴力、育児放棄、生んだまま放置などである。「子どもへの拒否感」や「泣きやまないことへのいらだち」などが動機として見られた。

 これらは、いわゆる「望まない妊娠・出産」といっていい。70〜80%前後の母親が妊婦健診をほとんど受けず、母子健康手帳も受け取っていなかった。

 ゼロ歳児の虐待死の加害者になるのは実母が圧倒的だ。

 そうした中、児童虐待防止推進月間(全国は十一月)を独自に五月にも定めている名古屋市では、これまで以上に市医師会との連携を強め「妊娠期からの切れ目のない支援」に取り組んでいる。

 鍵を握るのは、未受診妊婦への対策である。具体的には六月から始める電話やメールによる助産師の相談窓口「妊娠SOS」の設置だ。先進例は大阪府にもある。

 貧困や夫のDV、ひとり親、未成年、精神疾患など、それぞれが困難を抱えた妊産婦たち…。居場所もわからぬ彼女たちを医療機関に結びつけなければ、解決の糸口はつかめないからだ。

 たとえ細くとも、パイプがつながったら産科医、助産師、看護師ら産科のスタッフが働きかける仕組みだ。

 医療の手で当面の危機を乗り越えても、その後の行政(保健、福祉)との連携、支援に生かされないと、いつか、つまずく。助産施設、里親や養子縁組などの対応も必要になってこよう。

 児童虐待防止法によって住民の通報も義務づけられ、関心も高まっている。「切れ目のない支援」には、難しいことだが、孤立した妊産婦への周りの気づきが救いにもなる。

 ゼロ歳児に限らず、子どもを死なせぬためには、行政、医療機関、さらには地域の関わりが不可欠になっている。

 

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