世界一の庭師による、仕事レベルを上げ続けるための考え方
『まず「できます」と言え。やり方は帰り道で考えろ。「世界一の庭師」の仕事の流儀』(石原和幸著、KADOKAWA/中経出版)の著者は、英国で100年の歴史を誇るガーデン大会「チェルシー・フラワーショー」において、「無名の日本人」の状態から史上初の3年連続、かつ異部門でゴールドメダルを受賞した人物。
しかしその道のりは決して安泰ではなかったようで、40代のときには事業に失敗して8億円の借金を抱え、「一瞬でも資金繰りが止まればすべてが終わる」という状況に追い込まれたことも。しかし月に800万円の返済を続けながら庭をつくり続け、結果、成功を実現したのだそうです。
そんな経験から得た「仕事の流儀」を綴った本書から、多くの人の仕事に応用できそうな第III章「仕事レベルが上がり続ける考え方」に目を向けてみます。
頂点の人はなにをしているか
夢や目標に最短でたどり着く方法は、頂点の人を見ることだと著者は断言しています。進みたいと思っている道のゴールを、まず見てしまうことが大事。ゴールを見れば、そこにたどり着くために何をすればいいかがわかるというわけです。
そしてゴールを見るときは、「この人を超えたい」と具体的な人物を思い描く。目指す人の歩いてきた道のりを具体的に知ることで、現在の自分との違いがわかり、すると行動パターンもおのずと変わってくるからだといいます。「あのゴールに向かうために、いまがある」と思えば、毎日の仕事や行動も「今度はこんな工夫をしてみよう」と意義あるものになってくる。当然かもしれません。
地元の庭師だったころは「10億円、20億円かけてつくる庭もあることをまったく知らなかった」著者も、チェルシー・フラワーショーを見るためイギリスに渡り、億単位の庭を造るデザイナーの存在を知ってから「がんばれば、自分もそこに行けるんじゃないか」と心に明かりを灯したそうです。(140ページより)
ほめられて有頂天になることは原動力
大好きなことを一生やり続ければ、いいときも悪いときも乗り越えられるもの。なぜなら、好きだとしたら、辛いことや困難なことも乗り越えられるから。では、好きなことや夢中になれることにはどうやって出会えばいいのか? その原点は、「ほめられたとき有頂天になること」。
著者の場合、初めて好きなことを見つけたのは、高校生時代にモトクロスにハマッたとき。バイクで速く走れ、友だちから「すごい」と言ってもらえたとき、初めて自慢できるようになったからだそうです。
自分はあそこまでがんばれるんだ、努力できるんだ、ふんばれるんだということが、自信にもなります。(中略)夢中になれる方法を知ってる人は、強いんです。(153ページより)
そして著者の場合はそんな経験があったから、生け花に出会ったときにも「これだ!」と思ってのめり込めたのだといいます。ほめられて、有頂天になって、夢中になった。「だから今の僕がある」というわけです。(150ページより)
お客さんのメリットを考える
著者は自社の社員に、「メリットがあるから、相手は仕事を頼むんだ。そのメリットを考えろ」と言っているそうです。ビジネスがよくなるというメリットがあって初めて、そこに仕事が生まれるから。
また、需要のなかったところから仕事が生まれることもあるので、相手が困っていることや、まだ気づいていないビジネスチャンスを探すのも重要。著者の場合なら、「花と緑でこんな改善ができます。するとビジネスにこんなプラスが出ます」と伝える。その結果、集客効果が出れば、実積として語れるようになるわけです。
どのような仕事であろうが、相手にとってのメリットは何か、何を満たせば契約してもらえるのかを常に意識することが必要。相手の立場で想像をふくらませつつ、話を聞いて困ったことを探していくべきだという考え方です。(156ページより)
使い勝手のいい人になる
「イエスマンという言葉に、いいイメージを抱かない人は多いかもしれません」と認めたうえで、著者は「けれど、『はい、わかりました』という言葉には、すごい威力が秘められています」と言い切っています。
徹底的に「はい、わかりました」と言い続けることが、自分自身を違うステージに導いてくれる。仮に自分が違う意見を持っていたとしても、「えっ?」「でも」「そう言いますけど」は禁句。経営者にとって、仕事はお客さんが与えてくれるもの。サラリーマンにとって、仕事を与えてくれるのは上司。いわば上司はお客さんで、大きな仕事をするチャンスも、上司が与えてくれるものだからです。
上司からしても、仕事を頼んだときにいつも「はい、わかりました」と言われたら気持ちがいいもの。だからこそ「はい、わかりました」と引き受け、とにかくやる。それを続けていると、上司にとって使い勝手のいい人間になれる。そして、仕事をどんどんもらえる。たくさんの仕事を頼まれれば「より早く片づけるためにはどうすればいいか」と、工夫が生まれる。さらに、上司が仕事を頼んだ意味を考えて、「上司にとって、さらに仕事をしやすくするためには?」と気を配る。
相手のメリットを考えて仕事することができるようになると、信用され「じゃあ、この仕事も任せてみようか」と次のチャンスも生まれてくるもの。相手のメリットを常に意識することは、基本中の基本だというわけです。(160ページより)
文脈から感じられるのは、(少なくとも過去の)著者が必ずしも完璧な人間ではないということ。しかし、それでも結果を出すことができた。そんな経緯がつづられているからこそ、本書には説得力があるのだと思います。
(印南敦史)
- まず「できます」と言え。やり方は帰り道で考えろ。「世界一の庭師」の仕事の流儀
- 石原 和幸|KADOKAWA/中経出版