KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK

KDDIは海上保安庁の協力のもと、巡視船『さつま』の船上に携帯電話基地局を開設する実証実験を行いました。5月23日に鹿児島県志布志港で開かれた説明会の様子をお伝えします。

この船舶型携帯電話基地局の目的は、外洋から被災エリアをカバーすることです。東日本大震災では携帯電話の基地局設備が停止し、修理しようにも道路が寸断されるなど、被災地の通信環境復旧に時間を要しました。こうした背景から、KDDIは2012年11月、巡視船くろせの船上に基地局を開設し、広島県呉市の洋上で実証実験を行っています。今回は実証実験の第2弾にあたります。

KDDIが海保と災害連携、巡視船さつまに基地局。海上15kmの基地局で通話、海から被災地カバー

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大規模な災害時、通信インフラをより迅速に復旧すれば、救援要請・安否確認・情報の提供が可能です。総務省でも、被災地の洋上に船上携帯電話基地局の開設するための検討会を2012年6月から開催しているところです。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
海保といえば海猿


広島・呉での第1回実証実験と課題

KDDIは、総務省中国総合通信局主催の「災害時における携帯電話基地局の船上開設に向けた調査検討会(2012年6月~)」に参加しています。2012年11月26日〜29日の4日間、広島県呉市の倉橋島・大迫港にて、海上保安庁「巡視船くろせ」に船舶型携帯電話基地局を開設し、1km沖、3km沖に停泊させた状態での音声およびデータ通信の実証実験を実施しました。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
第1回目の船舶型携帯電話基地局実証実験は2012年11月に広島県呉市大迫港沖で実施


実証実験では、800MHz帯の音声通信(cdma2000 1x)およびデータ通信(EV-DO Rev.A)を船舶型基地局が受信して、通信衛星を経由することでau網に接続するという方式でした。衛星経由の通信となるため、音声通話で0.5秒程度の遅延があります。

課題としては、以下が挙げられています。この実験の詳細は、KDDIのTime & Spaceに掲載されています。
  • 穏やかな内海から外洋での航行中の実施
  • 異なる周波数での性能差
  • アンテナ特性を指向性から無指向性・オムニアンテナに変更
  • 迅速な対応を実現するための機材小型化
  • 運搬・設置訓練の必要性

鹿児島県南大隅町での第2回実験

第2回目となる今回の実証実験は、5月21日に搬入・設置・調整を行い、22日に3パターンの実証実験を実施し、23日に記者向けの説明会を開催しました。

海上保安庁 巡視船さつま
巡視船さつま

実証実験にあたり、前回の課題を踏まえて鹿児島の外洋で船舶を航行させ、周波数2.1GHz帯・無指向性のオムニアンテナを使用するなどの条件変更を行い、機材到着から設置完了までの時間を2時間から1時間に短縮しました。 機材の小型化については、実機展示に留まっていますが、衛星アンテナを小型化するなどの機材変更を行うと条件変更の影響が大きすぎるため、比較検証のためには前回と同様の機材を使用するほうが望ましいと考えられます。

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鹿児島海上保安部・巡視船さつま佐藤至(さとういたる)船長
第十管区海上保安本部総務部・饗場秀行(あいばひでゆき)情報管理官
KDDI 運用品質管理部 高井部長
KDDI 特別推進対策室 木佐貫室長

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鹿児島海上保安部・巡視船さつま佐藤船長は、海上保安庁の取り組みと試験について説明。災害時における海上保安庁の役割について「海上部の漂流者、陸上部の孤立者の救助、その他行方不明者の捜索、緊急輸送路の確保など、東日本大震災の際も出動しており、発災から10日間、360名の救助を行い、その後も本船は鹿児島から東北まで4回派遣され、漂流物の捜索、転覆船船内に残されている人がいないかの確認などを行っている」と話しました。


KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK


また、今回の携帯電話船上基地局の初の外洋試験については「海上保安庁としても、緊急特番118番で、被災者・要救助者と直接コンタクトをとることは非常に重要な要素、陸上の基地局が壊れて携帯は持っているけど海上保安庁と繋がらないことがあったと思うこれらが少しでも解消されるならば、洋上に基地局を設置して、遠方までは届かなくとも本船が移動して近くを走り携帯のアンテナが立てば有意義だと思っている」と語りました。

さらに「今後これら実証実験が続き、実用化されれば、海上保安庁・警察・消防・その他の救助機関にとっても有効なツールだろう」と語り、船舶型携帯電話基地局の必要性と、実用化への期待を言葉にしました。

KDDIの災害の取り組み


KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
災害時の通信インフラへの影響について。東日本大震災では、局舎・通信設備の損壊(仙台にある海底中継センターと基地局が津波の直撃を受けて全壊)しています。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
常磐道のノリ面が地震発生直後による崩壊で管路破壊され、路肩に埋設されている光ケーブルが全断しています。電源供給の停止が発災直後の基地局停波原因の77%にものぼり、被災エリアと首都圏でそれぞれ通常の8倍・10倍の高トラフィックが発生し輻輳しています。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
これらの実情を踏まえて、今後想定される南海トラフ大地震に備えます。内閣府が発表している南海トラフ大地震の被害想定、並びにKDDIの被害実績を加味し、地震・電源・津波という観点で分析しています。

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災害に強いネットワーク作りとして、東日本大震災で基幹ネットワークがかなりの打撃を受けて疎通が不可となったエリアが多数出ました。この反省を踏まえ、日本海側のルートを新設して3ルート化・4ルート化といった高い信頼性の災害に強いネットワーク構築を進めています。

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電源対策は、市区町村の役場、主要駅をカバーする全国2000局でバッテリーによる24時間化を実現しています。 基地局とネットワークセンターの回線が切断された場合を想定し、無線エントランスを60対向導入しています。

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各種災害用インフラとしては、車載型基地局および高台からのエリア改善、仮設住宅への新局建設、屋内へのフェムト設置などを行い、全壊した局舎・基地局は衛星でサービスを開始させています。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
応急復旧対策は、情報共有、避難所対策・支援が重要ということで、災害発生時にあらゆる情報を正確かつ迅速に集約し管理する仕組みを構築しています。 更に被災者への災害伝言板の提供や、携帯が使えない他社(ドコモ・ソフトバンクなど)利用者への携帯電話の貸出、自治体に衛星携帯電話の貸出なども行っています。

基地局の早期配備について、自治体が想定している以外の場所に避難所が設置される場合があり、それら情報を把握し、迅速に自治体と連携し復旧措置を行うことを進めています。

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継続的な災害への取り組みとして、車載型基地局、可搬型の基地局を設置する訓練を全国のテクニカルセンターの社員を集めコンテスト形式で実施しています。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
東日本大震災を経験し、その教訓として被災地に道路が寸断されアプローチできないケースがあり、海上からサービスエリアを復旧させることを検討しています。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
総務省中国総合通信局主催の検討会に参加し、2012年11月に広島県呉市で実証実験を実施。その結果、品質面、機材の小型化、技術を高めるための複数回の訓練の必要性を認識し、今回、船舶型携帯電話基地局の早期実用化を目指して、5月21日・22日に海上保安庁の協力により実地実験を行いました。

通常であれば、車載型基地局を現地に派遣して衛星を使用して復旧可能ですが、トラック輸送で道路が寸断するなど現地まで行けない場合があります。「巡視船さつま」船上に120cmの衛星用アンテナおよび基地局設備を搭載することで、沿岸から電波を吹けばすぐにサービスが開始され、住民・被災者に対して十分な情報の提供ができるということで、実証実験を行っています。
今後も、小型化により搭載しやすくなるので、実証実験を進めていき、法改正も含め対応していきたいとのことです。

実証実験の内容


KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
今回の訓練では、佐多岬から辺塚あたりを航行して実験を行いました。最初は陸地から2~3km程度のエリアで電波が届けば実験として合格としていましたが、約15km離れても電波の受信を確認。KDDIの木佐貫室長は「ある一定の距離をおいても電波が届くことが確認でき、凪(な)いでいて波が少なかったが外洋でも十分使えることが分かってきました」と話しました。

※説明会において、木佐貫室長が到達距離を約10kmと控えめな数字で公表していましたが、実際は、計測ポイントの自衛隊佐多射撃場(標高約140mの高台)から佐多岬までは洋上で15km以上の直線距離にあります。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
実証実験のシステムは、衛星エントランスを使用しており、通信衛星Eutelsat172Aを経由して、KDDI山口衛星通信センターに接続してau携帯ネットワーク網に繋いでいます。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
測定は、船舶型基地局を経由して通常の地上基地局のau網にある携帯電話との通信品質を検証するために、送話側と受話側の音声波形の比較、および測定器による音声品質指標PESQ(Perceptual Evaliation Speech Quality)値を取得します。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
実験パターンA:佐多岬ー稲尾岳沖(回頭)ー早崎沖、巡航速度17ノット

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実験パターンB:早崎沖ー稲尾岳沖(回頭)早崎沖、安定速度15ノット

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実験パターンC:自衛隊・佐多射撃場前(旋回運動)、速度指定なし

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周波数帯・アンテナ指向性の有無による違いとして、広島の実証実験は、陸から1km・3km程度の沖合に停泊した船上基地局の800MHz帯・指向性アンテナで、高台への到達やエリアカバーの面で課題がありました。今回は、2.1GHz帯・無指向性のオムニアンテナにより、標高100m以上の高台や15km程度の距離での通信が可能な事を確認しています。 ※限界距離までは航行していません。

自衛隊で唯一の対舟射撃場
標高約140mの佐多辺塚 自衛隊射撃場
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無指向性オムニアンテナで15km離れた高台からの良好な音声通信を確認


なお当日は、凪いでいたため、船舶の航行を安定させるスタビライザーを使用することなく、海岸線沿いに1.5km~3km程度の距離で安定速度(実験時の海況から15ノット=27.78km/h)、および巡航速度(17ノット=31.484km/h)で航行しながらでも良好な通信品質を確保しました。反射波による影響はなく、音声通話の品質指標であるPESQ(Perceptual Evaliation Speech Quality)の値は、前回同様で良好とのことです。

また地形による障壁などの影響についても、測定ポイント近くを航行する際には崖の陰になり、見通し外状況となっても通話が可能だったとのことです。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
陸地からの距離でエリアが異なり、また海岸線の地形や受信エリアの高さを考慮した航行が必要です。