KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK

KDDIは海上保安庁と協力し、巡視船さつまの船上に船舶型携帯電話基地局を開設し、実証実験を行いました。5月23日、鹿児島県志布志港にて実験結果の説明会を開催しました。

ここでは巡視船さつま船上の設備や今後の小型・軽量化される設備などについてレポートします。写真は120cmの衛星アンテナ KNS製 SuperTrack Z12Mk2小型版60cmのサイズのもの。

KDDIの船舶型基地局、巡視船さつま船上設備公開。さらに小型軽量化、人が運べるものに

See all photos

12 Photos

 

VSAT船舶用衛星アンテナ・基地局設備について

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK

衛星アンテナの直径は120cm。洋上で安定した衛星通信を確立するため、捕捉した衛星を外すことが無いよう、揺動を打ち消すジャイロ機構が備わっています。汎用品に一部KDDI向けの機能が追加されています。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
無線架、基地局機器、電源架

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
衛星ルータ iDirect Evolution X5 Satellite Router

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
ジャイロ機構のある衛星アンテナ内部 ※メーカー提供写真、実際の内部は異なります

今回の設備は広島・呉での実証実験で利用したものと同じものですが、KDDIでは小型軽量化された機材を船の大きさや設置状況に応じて提供できるよう開発も進めています。衛星アンテナには、外部のジャイロコンパス・GPSアンテナFluxgate World A5020(IP68 NMEA-0183 COMPASS)が接続されており、この日も調整を行っていました。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK

基地局は、鉄塔やビル内に設置する設備と同等のものを使用しています。今後はより小型で積み込みやすい機材開発を進める考え。小型・軽量な通信機材や小型衛星アンテナを展示しており、バックアップ電源の小型化なども含め、今後は地上での検証を行う予定です。

また現在の実験は3Gのみで行っていますが、LTEでのデータ通信、小型軽量化、運用上必要なチャネル数、データ通信の帯域などのバランスをみて、適材化していくとのことです。

基地局アンテナの種類で比較すると、指向性アンテナは海面の波の影響を受け、移動しながら安定して電波を吹くのが難しい反面、指向性があることで周辺基地局の干渉を抑えやすくなります。

無指向性オムニアンテナは、広い面や高所をカバーしやすく、災害地域など電波が停止しているエリアで有効です。また周辺基地局と異なる周波数帯を使用することで干渉を避けられます。

KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
60cmサイズ衛星アンテナ(Intellian v60G)


KDDI、国内初となる外洋航行中の船舶型携帯電話基地局を経由した音声通信実験に成功。15km先でも通話OK
可搬型ラックに積載した通信機器・電源設備の違い(左が現行、右が小型化後)

なお、アンテナが現行の120cm(SuperTrack Z12Mk2)から60cmサイズ(Intellian v60G)に変わると、面積比で1/4となります。衛星回線の帯域は減少するため、音声での同時利用できるユーザ数が減少(現行で同時30ユーザ)、データ送受信速度も低下します。

しかしながら、トラックで持ち運べない場所やクレーンが利用できない場所でも、人間が自力で運搬可能なサイズ(161x157cmから84.5x78cmに減少)・重量(142kgから59.5 kgに減少)となれば、設置場所が限られる小型船舶にも設置できるようになります。有事においては、あらゆる交通手段を駆使して、限られた人員で運搬する必要があるため、小型の船舶に積載しても航行のへの影響が少ない点は大きなメリットとなりそうです。

可搬型ラックの設備も、小型機器を使用することでサイズ(容積)で約半分、重量は60%程度まで小型・軽量化しています。 60cmの小型衛星アンテナIntellian v60GにはGPSアンテナがビルトインされており(外部入力も可能)、外部のジャイロコンパスが不要で設置・調整に要する時間や手間を抑制できます。
1セットの収容数減少は複数の小型船舶による収容数増でカバーしたり、臨時復旧するエリアを拡大しやすくなるプラス面も期待できます。

なお、運搬・設置の訓練ですが、機材到着後の積載・組み立て・ボルト締めといった出航できる状態までに要した時間は、前回の2時間から半分の約1時間に短縮しています。積載・運搬は、衛星アンテナや機器類が小型・軽量化されればクレーンによる作業も不要で、さらに時間短縮が予想されます。設備をどこに配備できるかによって輸送時間も異なりますが、主要な海上保安庁の拠点に配備するなど、常設も想定しています。

今後の課題

KDDIでは昨年11月1日に発表された防衛省との災害協定の締結 や、自衛隊各方面隊との個別の災害協定(中部方面隊東部方面隊 )による、被災地への物資・資材の輸送協力が計画されています。船舶型携帯電話基地局設備の輸送・設置においても、海上保安庁も含めた複数省庁とKDDIの連携に向けた指示系統・運用ルールの策定や実施訓練を行い、迅速な通信環境の復旧を目指します。

船舶上の基地局は、移動することが前提であり従来の固定基地局とは異なるため、法律上の課題があります。いつ発生するかわからない大規模災害対策として、一日も早いこれら法律や連携に向けた整備と、整備される前であっても、法解釈を含め対応できる範囲を十分に検討・調整して欲しいところです。