(2014年6月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ウクライナ東部の一部地域では、ウクライナ軍が新ロシア派の分離主義者の反乱と戦いを繰り広げ、発砲や砲撃の応酬、空爆までもが日常生活を中断させている。キエフの中央政府によると、4月に戦いが始まって以来、軍人59人を含む181人が死亡した。293人が負傷し、220人が誘拐されたという。
増加する犠牲者数、絶え間ない暴力、そして反政府勢力を抑えることを拒み、背後で扇動した自国の役割を認めないロシアの姿勢は、成功裏に実施された5月25日のウクライナ大統領選挙が危機を和らげたという西側政府の慢心を払拭するはずだ。
確かにロシアによる侵略と全面的な内戦という最悪のシナリオは現実にならなかった。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナの国境に集結させていた数万人のロシア軍部隊の一部を撤収させた。ロシア政府は、ペトロ・ポロシェンコ氏がウクライナ大統領に選ばれたことを尊重すると示唆している。欧州連合(EU)が仲裁した協議では、ロシアは、ウクライナがロシア政府に負っている数十億ドルのガス債務という長年の問題について暫定的な解決策を検討している。
欧米首脳がプーチン大統領に伝えるべきメッセージ
これらはすべて有益だが、もう十分やったと言うにはほど遠い。米国のバラク・オバマ大統領、フランスのフランソワ・オランド大統領、英国のデビッド・キャメロン首相は、Dデーのノルマンディー上陸作戦70周年にあたり、5日にパリ、6日にノルマンディーでプーチン氏と行き会う時に、同氏にそうはっきり伝えるべきだ。
一連の会合は、3月のプーチン氏による冷酷なウクライナ・クリミア半島併合以来、欧米の指導者とプーチン氏が直接顔を合わせる初めての場だ。オバマ氏と欧州の指導者らはプーチン氏に対し、西側はロシアがクリミア式手術でウクライナ東部を切断しなかったことに感謝しているどころか、そもそもプーチン氏に大部分の責任がある危機を鎮めるために必要な実際的行動によって同氏を評価する、ということをはっきり説明しなければならない。
緊張を和らげることについてプーチン氏が本当に誠実なのであれば、当然取るべき措置は、ロシアからウクライナに入ってくる兵士と武器の流れを止め、ウクライナの国境地帯における、いまだに過剰なロシア軍のプレゼンスを撤廃することだ。その後、プーチン氏はロシア政府高官に、ウクライナ東部で平和を維持する方法について米国、欧州、ウクライナの高官と建設的な議論を行う権限を与える。
最後に、キエフの中央当局を麻痺させてしまわないような形でウクライナ各州、特にロシア語を話す東部州により大きな自治権を与えるというウクライナ政府の提案に力を貸す。これは、ロシアへの編入ではなく、自治の拡大と自分たちの文化的、言語的権利の保護を望んでいるウクライナ東部の大多数の市民の希望に沿うものだ。
米国とその同盟国は、今週はクリミア併合後にロシアに課された限定的制裁を強化する時ではないという合図を送っている。これは正しい判断だ。ウクライナ東部の騒乱が激しくなれば、より厳しい制裁が必要になる。しかし、現状では、西側はそれ以外の2つの課題に関心を向けるべきだ。
1つは、国家行政、企業、政治にはびこる汚職を一掃することを皮切りに、ウクライナの改革努力を促すこと。もう1つは、ロシアと国境を接する北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し、同盟国が集団的防衛というNATO創設時の原則に完全にコミットしていることを確約することだ。
反乱が起きてから2カ月経ち、ウクライナ東部の分離主義が成功していないことが日増しに明らかになっている。クリミアでさえ、いつの日か事態の流れが変わるかもしれない。グルジアの分離派地域で、2008年以降、ロシアが資金援助を行ってきたアブハジアで最近起きた民衆の騒乱をロシアが統制できなかったことからも分かるように。警戒に裏打ちされた忍耐が、西側がロシアに対応する際の最も効果的な手段になる。