第一生命保険会社が米国のプロテクティブ生命(ティッカーシンボル:PL)を57億ドルで買収すると発表しました。

相互会社から株式会社へ転換し、株式を上場した第一生命としては、買収による海外進出は既定路線です。

相互会社は保険加入者(ポリシー・ホールダー)がその企業のオーナーでもあるので、海外買収のような、その保険会社の投資収入の処分の仕方に大きなインパクトを与える決定は迅速に行えません。

若し「ずっといまのままの路線で、未来永劫にやってゆく」というので良いならば、相互会社という会社形態は、もっとも効率が良いです。

しかし少子化などで「既定路線を歩んでいても、ジリ貧だ」ということがわかりきっている場合、資本政策の柔軟性を増す方策を取らねばなりません。

第一生命は早くからこの社内プロジェクトに取り組み、いち早く上場会社に生まれ変わりました。

だから今回のプロテクティブ生命の買収は、第一生命がずっと準備してきた事業計画の歯車が噛み合って、いよいよグローバル戦略にむけて走り出したと評価できるわけです。なお第一生命はすでにオーストラリアのTAL、インドのスター・ユニオンなどを買収することでアジアでM&Aを展開しています。

プロテクティブ生命は1907年にアラバマ州で創業した老舗で、第一生命同様、100年以上の歴史を誇っています。

その事業ポートフォリオはバランスが取れています。プロテクティブ生命の収入の約半分はアニュイティー(33%)とステーブル・バリュー(14%)という顧客から保険料を受け取るタイプのビジネスから成っています。これらのビジネスのリターンは金利スプレッドによって決定されます。

一方、生命保険(20%)とポリシー・アクィジション(28%)のビジネスは死亡率に左右されます。

残りが自動車の延長サービス保障などをおこなうアセット・プロテクション(5%)のビジネスです。

プロテクティブ生命のランキングは全米36位です。加入者数600万人、売上高は約39億ドル、資本金(statutory total adjusted capital)は32億ドル、リスク・ベースト・キャピタルは447%という、規模としては中堅に入ります。

ただプロテクティブ生命のジョン・ジョンズCEOはいま売出中の経営者でとりわけM&Aが巧いという評判です。実際、去年ジョンズはミューチャル・オブ・ニューヨーク(略してMONY)を買収し、成長のプラットフォームを入手しました。

つまり今回のプロテクティブ生命の買収は、これで「打ち止め」ではなく、プロテクティブ生命のジョン・ジョンズに今後も大きな裁量を与え、第一生命が後ろ盾になることでいままでより大きなトランザクションを米国内で展開してゆく橋頭堡を築いたことを意味するのです。

なお海外子会社の保険料収入を加えたトータルの保険料収入ベースでは今回の買収で第一生命が業界最大手の日本生命にほぼ並ぶことになります。上に述べた資本政策上の機動性を考慮すれば、数年以内に第一生命は更にM&A戦略で「蛙飛び」的に日本生命を追い抜く可能性が強いです。

【第一生命/プロテクティブ生命のトランザクションのまとめ】
ディールはオールキャッシュ
提示価格70ドル(34%プレミアム)
世界13位の保険会社グループに
プロテクティブは第一生命の米国でのM&A推進母体となる
ジョン・ジョンズはアラバマのプロテクティブ本社に残り、今後の戦略を指揮する
プロテクティブの日常業務には変更なし