こうして吉田氏は済州島で205人の慰安婦狩りに成功したと懺悔(ざんげ)しているのだが、これは完全なつくり話であることが9年後に暴露されてしまった。
しかし、その9年間は、吉田氏の創作が事実として信じ込まれていた期間となる。吉田氏は全国を講演して歩き、韓国まで行って土下座した。韓国では、吉田氏の劇画調のストーリーに合わせたテレビドラマが制作・放映された。「現代のベートーベン」と持ち上げられた佐村河内守氏の作曲者偽装騒動もひどかったが、吉田氏もそれに勝るとも劣らない大成功を収めたのだ。
肝心なことは、初めに「朝鮮人強制連行」という実体のない言葉がつくられ、その言葉が喚起するイメージに合わせて「事実」の「創作」が行われたことだ。
強制連行の対象を一般の労働者から慰安婦に広げたところが吉田氏の独創的なアイデアであり、これをほとんどの日本人が信じ込まされたのである。
■藤岡信勝(ふじおか・のぶかつ) 1943年、北海道生まれ。北海道大学大学院修了後、北海道教育大学助教授、東京大学教授、拓殖大学教授を歴任。現在、拓殖大学客員教授。95年、歴史教育の改革を目指して自由主義史観研究会を結成。97年、「新しい歴史教科書をつくる会」の創立に参加し、現在同会理事。著書・共著に『「自虐史観」の病理』(文春文庫)、『教科書が教えない歴史』(産経新聞ニュースサービス)など多数。