藤沢 勉×岡本達郎
・藤沢 勉(UPL・ゲームデザイナー)
・岡本達郎(ナムコ・ゲームデザイナー)
(要約)
岡本: メトロクロスは、誰でも楽しめて操作の簡単なものを、というのが基本にありました。
ゲームのアイデアは、ビルの上から、会社に遅刻しそうな人間を見ていたときに思いついた
んですけどね。それと記録を追求するという意味で、ゲームをタイム制にしてみました。
メトロクロスは色んなものが転がってくるんですが、意外性のあるものを入れてみました。
本来は意志を持たないはずのものが意志的に動いているような線を狙ったんです。
ま、後から、現代社会の風刺みたいになっていると言われたことがありますね。
藤沢: ペンギンくんウォーズの企画は、昨年9月頃に「忍者くん」と一緒に出したんです。
「忍者くん」の方が先になりましたけどね。
「ペンギンくん」の場合は、この頃ゲームセンターに集まるのがマニアばっかりになって
しまって、女子大生や普通の女の子など、ゲームセンターから離れてしまった客層を
呼び戻そうということで、ああいったキャラクターを出してみたわけです。
従ってゲームデザインもやり方も、単純なものをと考えました。ただ、ゲームストーリーと
しては今までに無いものを狙ってみました。反射神経と、ひたすら持久力で勝っていくという
ものではないものを何とか出そうと。
動物が4匹出てきますけど、それぞれにロジックがあるんです。敵にロジックを持たせて、
それを理解した上でないとやっつけられない。今までのインベーダー、ゼビウススタイルから
何とか脱出しようと考えました。でも、わかんない人も結構いるみたいで…
最初はボーナスステージを入れるつもりは無かったんです。ただ、あのゲームのスタイルを
理解しないで、ひたすらボールを投げるだけではつまらない人もいるみたいなので、
サービスのつもりで入れたんです。
岡本: かわいいゲームで、出来れば女の子とやってみたいですよね(笑)
攻略法が出てくるというのは嬉しいですよね。最近のゲームは複雑になってますから、
上手い人がやり方を伝えていってくれて、楽しむ人が多くなるというのはいいことだと思うん
ですが。
ただ、今はゲーマーの格差が大きくなっているんですよね。街のプレイヤーのトップレベル
というのは凄いもので、僕らの数段上をいってましてね。これじゃちょっと難しいかな、なんて
思って作っていても、楽々こなされてしまうんです。最近は、難易度を根本的に考え直す
必要があるんじゃないかと思ってるんですよね。
とりあえず僕はメトロクロスは全面クリアできます。反射神経も持久力も最近随分落ちてきて
はいるんですが(笑) 物理的に不可能な状態でゲームは出せないですから。
床と床の間にスケートボードのローラーを合わせて進む攻略法は、正直言ってあそこまで
豪快にやられるとは思ってませんでした(笑) 横方向はわかりにくいと思って甘めに作った
んですが、あれほどあっさりクリアされるとは…驚きましたね。今ではもう常識化しちゃってる
みたいでコワイ。
藤沢: 最近、ゲームセンターに来るゲーマーというのは特殊化していますよね。反射神経といい、
持久力といいね。ペンギンくんなんかは、一般の人の楽しめるものをということで考えました。
岡本: グラフィックやキャラクター、サウンドも大事なんですが、長続きして楽しんでもらうためには
やはりゲーム自体が面白くないとダメですね。極端なことを言えば、キャラクターは■と●で
やっても楽しめるゲームでなければと思います。その上でのグラフィックやキャラクターなん
です。
藤沢: いいこと言いますね。僕もゲームは●と×で考えていきます。ゲームルールがとりあえず
先決ですね。そのゲームを商品として成り立たせる付加的なものが、キャラクターやサウンド
でしょうね。
岡本: メトロクロスの曲って、最初作曲の人から聞かされて、何となく暗いかなって思ったんです
よね(笑) でもそのうち気に入ってきて、周囲の心配する人に「いや、この渋いのがいい
んです!」なんて(笑)
最近流行りの隠れキャラクターとかって、最初のアイデアとしては良かったと思うんですよ。
付加的な要素としてね。ゼビウスのタケノコみたいに、マニアの人でも1面2面を楽しんで
遊べるためにというのはいいと思うんですけど、それだけになっちゃうのはマズいですよね。
隠れキャラを探さないとゲームが成り立たないというようなのはおかしいと思います。隠れ
キャラを探すのがメインになったんでは困りますよ。メトロクロスの場合は、隠れキャラクター
という意識で作ったものは1個も無いですよ。
藤沢: 忍者くんもペンギンくんも、隠れキャラは1個も出してないんです。隠れキャラを取ったと
してもそれっきりでしょ、覚えちゃえば。だから僕なんか、もし隠れキャラを出すんだったら
まるっきり違うところにその都度出るようにしますね。そうじゃないと発見した喜びって無いで
しょう。隠れキャラのポジションを覚えるだけだったら意味無いもの。
まあ、隠れキャラはマニアを喜ばせるという意味では必要なんでしょうね。やりたくないん
ですけど。マニアをおちょくるということもあるんですよ。忍者くんで最後に親分をやっつけた
とき、親分が木片に変わって反対側に現れてアハハとなる(笑) そういうのがあったんです。
ペンギンくんでは、ペンギンくんが倒れると敵があざ笑うというのがありますね。皆、最初は
かわいい。かわいいって言ってるんだけど、だんだん憎たらしくなってくるって(笑) 人が
やってるのを見るのは面白くってね。
岡本: どっちにしろ、キタナイ!って思わせてはマズいですね。
藤沢: ペンギンくんでも、倒れてもボールをボンボンぶつけられるのでは、やってる人間が怒って
しまうというんで、ボタンを叩くと早く起き上がれるようにしたり、レバーでも若干移動できる
ようにしたんです。割とみんな、説明書読まないんですよね。だからわからない人もいるん
です。本当はゲームとしては、あまり説明書なんかなくて直感でやっていけるのがいい
ゲームだとは思いますけどね。
岡本: たまに説明書読んでもわかんないのありますけど(笑)
僕は今後、大型のコックピットとかシミュレーションみたいなゲームを作ってみたいですね。
ハングオンなんかにかなり燃えましたし、自分では実際に体感できないような、高度にシミュ
レートしたものをやってみたいですね。
今は年1本くらいのペースで作ってますね。色々紆余曲折がありますから、1年半くらい
かかるときもありますし。
藤沢: 僕は年に2本くらい。忍者くんのときなんか、実質1ヶ月でしたよ。会社の至上命令で(笑)
その間はもう、寝る食べるはそっちのけでしたね。
僕もシミュレーションというのはゲームの究極的な形だと思いますね。ホログラフィを盤上で
戦わせるみたいな、ブラウン管にとらわれない立体的なものを作ってみたいですね。
岡本: ああ、いいですね。スターウォーズであったでしょ、ドームの中で。あんなのやってみたい
なぁ。
藤沢: マイナーな世界じゃなくて、世界的な文化となるようなものを作りたいですよね。
岡本: それと女性を惹きつけたい。
藤沢: ペンギンくんの狙いはまさにそこだったんですけど、なんとなくゲームセンターに女の子が
入ってくる雰囲気が今は無いでしょう。なんとかゲームにも市民権を与えたいですよね。
岡本: TVドラマとかで不良少年が出てくると、必ずゲームセンターに「いない!」とか言って
探しに来るんですけど、ああいうイメージは一掃したいよね。実際にゲームセンターに来てる
子は、結構頭のきれそうな子が多いんだけどねぇ(笑)
ゲームデザイナーは、色々な分野のことに頭を突っ込んでる人の方が強いと思いますよ。
専門的すぎて視野が狭いのはマズいですね。あとは忍耐力かなぁ。企画を出してもプロ
グラマーから「それは出来ない」って言われるんですけど、何とかなりませんかって口説く
のが大変。譲れないところというのは勿論ありますが、より面白いものをということで変更して
いくことは当然ですよね。最初のものからOKなんてことはまずありませんね。ナムコの場合、
まず発売時期が決まってマーケティングとか状況からこういうものを、ということで企画がスタ
ートします。
藤沢: 僕なんかは企画の段階から、商品としての流通のあたりまで考えてやってはいます。
ゲームを作るやり方として、10人くらいの合議制にしてその80%が満足できるものを作る
という進め方もあるわけですが、僕はやっぱり1人のデザイナーに任せてやった方がいいと
思っています。
岡本: 一番辛いのは、いいものと売れるものとのジレンマですよね。コストの関係もありますし。
採算を度外視してみるというような冒険もある程度してみないと、新しい流れというのは
出てこないんですけどね。澱んできちゃうんです。
藤沢: 企画の段階で、売れない要因というのはどんどん排除していくんです。ですから忍者くん
の場合も不安はあったんですよね。新しいやり方がわかるだろうか、とか。でも自分なりに、
これだという気で押しましたね。
岡本: 何が売れるかわからない状況にあるということが怖いんですね。先を見通すためにも、他の
分野の現象を見て、情報を得たりしてないとね。企画段階から1年くらいかけて作ると、時間
のズレというのが出てきますしね。
藤沢: 見切りをつけるというか、どこかで切っていくというのも必要になってきますね。100%満足
のいくことって無いですから。会社の都合でカットなんていうこともありますしね。色々不満は
残っても、次のエネルギーになるんです。
岡本: ハードの機能が日進月歩ですから、この間出来なかったことが今は楽々ということも
ありますし、企画の方が追いつかなくなっちゃいますよ。
藤沢: 「技術が想像力を超える」ってことにならないようにしないとね(笑)
(1985)