諫早湾干拓:わずか2カ月で正反対の結論 国、泥沼状態に

毎日新聞 2014年06月04日 21時19分(最終更新 06月04日 22時12分)

間接強制を認める決定に喜ぶ関係者=長崎市の長崎地裁前で2014年6月4日午後1時35分、山下恭二撮影
間接強制を認める決定に喜ぶ関係者=長崎市の長崎地裁前で2014年6月4日午後1時35分、山下恭二撮影

 長崎地裁が4日、国営諫早湾干拓事業(長崎県)の排水門を開ければ国に制裁金を科す間接強制を決めた。開門しなければ制裁金の支払いを命じた佐賀地裁決定からわずか2カ月弱での正反対の結論。この日、原告の営農者らは開門阻止に向け気勢を上げ、開門派の漁業者側は開門を命じた確定判決に従わない国を改めて批判。両者から突き上げられる事態に、国は沈痛の表情を浮かべ、泥沼の状態を際立たせた。

 長崎地裁の決定直後、地裁前で弁護団が「間接強制認める」の垂れ幕を掲げると、集まった営農者らはバンザイと拍手で喜んだ。記者会見した山下俊夫弁護団長は「開門した時点で重大な被害が出る。大きな制裁金が認められなかったのは不満だが、最低限の目標は達成できた」。西村広平弁護団事務局長も「この状態で国が開門という選択をするとは思えない」と語った。

 訴えが却下されれば開門への流れが一気に加速されかねなかっただけに、営農者らもほっとしている。諫干を機に漁業をやめた干拓営農者の水頭(みずがしら)貞次さん(64)は「もし開門すれば農業被害は(長崎地裁が認めた制裁金)1日49万円では済まず、ばく大になる」と開門反対を訴えた。長崎県の中村法道知事は「訴訟外の場で、話し合いによる解決は難しいと思っている」と述べ、国などが求める協議には応じない姿勢を改めて示した。

 一方、東京・霞が関の農林水産省。この日はたまたま開門派の原告・弁護団と同省との定期協議があり、開門派から国への批判が相次いだ。

 馬奈木昭雄・弁護団長は、国が開門派、反対派の双方から制裁金の支払いを求められたことに触れ「どちらかにカネを払わなければいけない。地裁が両方満足できるように決断せよと、国に最後通告を突きつけた」と指摘。「両方が満足するには(開門に向けた)対策工事をきちんとやり、農業被害が出ないようにすることだ」と開門を迫った。

 しかし、農水省の担当者は「板挟みの状態がより明確になり、ますます厳しい状況に追い込まれた」と重苦しげ。「司法の場で国の立場をできる限り主張したい」と問題解決のため一連の訴訟を最高裁まで争う姿勢を示し、漁業者から「本当に解決したいと思っているのか。開門せずに有明海を痛めつけてもいいのか」などと非難を浴びた。

【武内靖広、大場伸也、江刺正嘉】

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