1-1.スターターバッテリーとディープサイクルバッテリー
スターターバッテリーは、クランキングバッテリーとも呼ばれ、エンジン始動時に、瞬間的に大きな電流を供給することを目的につくられています。走行中はオルタネーター(発電機)から充電され、ほぼ満充電に近い状態で維持されます。スターターバッテリーは、過度の放電状態(容量の75%以下に電圧が低下した状態)になると、極端に蓄電能力が低下し、再充電をしても回復できなくなります。
一方、ディープサイクルバッテリーは、少量の電流を長時間供給する能力に優れ、繰り返し放充電が可能なバッテリーです。エレクトリックモーターや魚群探知機、ビルジポンプ、電動ウインチなどの電源として使用する時は、必ずディープサイクルバッテリーを選びましょう。
バッテリーは
開放型と
密閉型に分けることができます。
バッテリーは、化学反応によって電気の放充電をしています。充電する際に、水が分解されて水素ガスが発生するため、ガスを逃がすための通気孔が必要になります。さらに分解された水がガスとして逃げた分だけ液が減りますので、精製水を補充するための注入口が必要になります。このようなタイプのバッテリーを開放型と呼びます。
一方、密閉型は、ガス抜きや精製水の補充が必要ないしくみを採用し、密閉構造を実現しています。密閉型バッテリーには、完全密閉タイプとバルブで圧力を逃がす弁機構を有するタイプがあります。いずれも、精製水の補充の手間がないため、メンテナンスフリー(MF)バッテリーとも呼ばれます。MFバッテリーは、ガスの発生を抑えるため電極にカルシウム鉛合金を使用しており、同時に自己放電が少ないという特長を持っています。
<密閉型の長所>
- 精製水を補充する手間がない。
- メンテナンスが困難な場所への設置に適している。
- ガスの発生が少ないので、爆発などの危険性が低い。
<密閉型の欠点>
- 開放型に比べて値段がやや高い。
- 電解液の比重点検ができない。
- 急速充電ができない。
では、純正品が開放型バッテリーの船舶やPWCにMFバッテリーを使っても大丈夫でしょうか?
答えは、
原則NO(ノー)です。船舶の始動に使われるバッテリーは、運転中にオルタネーター(発電機)から充電されます。エンジンによって充電制御方法などの設計条件が異なりますので、基本的に純正と同じタイプのバッテリーを使用します。MFバッテリーを開放型に変えることも同様にお勧めできません。
バッテリーは化学反応で電気を放充電しており、電気の取り出し方によって取り出せる電気の総量が変わってきます。(一般的に、大きな電気を短時間で取り出すより、小さな電気を長時間かけて取り出す方が、より多くの電気を取り出すことができます。)しかし、条件によって容量の数値が変わっては、性能を比較する上で困ります。そこで次のような統一した基準が必要になります。
(1)5時間率容量
- 容量の1/5の電流を放電し(25度)、放電終始電圧10.5Vになるまでの時間と電流の積(アンペア・アワー[Ah])。主にJIS規格(日本)で採用されています。
(2)10時間率容量
- 容量の1/10の電流を放電し(25度)、放電終始電圧10.5Vになるまでの時間と電流の積(アンペア・アワー[Ah])。オートバイ用バッテリーなどに使用されることがあります。
(3)20時間率容量
- 容量の1/20の電流を放電し(25度)、放電終始電圧10.5Vになるまでの時間と電流の積(アンペア・アワー[Ah])。主にDIN/EN規格(欧州)で採用されています。
(4)リザーブキャパシティ(RC)
- 25Aの電流を放電し(27度)、放電終始電圧10.5Vになるまでの時間(分)。主にSAE規格(米国)で採用されています。
例えば5時間率容量が100Ahのバッテリーでは、20A(容量÷時間率)の電流を流すと5時間で放電終止電圧になります。つまり、20Aの電流を5時間使うことができます。(条件によって変わりますので、目安とお考えください。)
では、同じ100Ahの容量でも、5時間率容量100Ah(20A×5h)と20時間率容量100Ah(5A×20h)のバッテリーでは、どちらの能力が高いと言えるでしょうか?答えは、5時間容量100Ahのバッテリーの方が高性能と言えます。容量は同じ100Ahですが、小さな電気を取りだす方が効率がよいので、5時間率容量100Ahのバッテリーならば5Aの電気を20時間以上供給することが可能です。バッテリーの容量を確認する場合は、アンペア・アワー(Ah)の数値だけでなく時間率も確認しましょう。
バッテリーの容量から、単純に電化製品の使用電流を割って使用可能時間を計算してはいけません。バッテリーは、現実的には満充電することは難しく、さらに完全放電させてしまうと蓄電能力を極端に低下させてしまう恐れがありますので、すべて使い切ることを避けなくてはなりません。したがって、バッテリー容量の60〜70%程度の容量で計算するのが無難です。
サルフェーションとは、バッテリーの化学反応によって生成される硫酸鉛です。この硫酸鉛の結晶が極板に付着し硬質化することで、バッテリー性能を低下させる現象をサルフェーション現象と呼びます。硫酸鉛の結晶は、電気を通さないため、極板に付着すると放充電のための化学反応を阻害し、バッテリーの充電能力や放電能力に大きな影響を与えます。
バッテリーの充電には、普通充電と急速充電があります。
普通充電では、容量の10分の1以下の電流で、ゆっくり時間をかけて充電をおこないます。普通充電では、満充電に12時間以上かかることもあります。
一方、エンジンが始動できるくらいの電気を短時間で充電する方法が急速充電です。急速充電は、容量の1分の1の電流で充電します。急速充電を30分以上行うとバッテリーに重大な悪影響を与えますので気をつけましょう。いずれにしても、急速充電はバッテリーを短命化するので緊急手段とお考えください。また、ガス抜きのないMFバッテリーでは、膨張、爆発の危険がありますので、絶対に急速充電してはいけません。
準定電圧充電は、充電中の電池電圧の変動に伴い電流が変動する充電方式です。充電初期はバッテリー電圧が低いため充電電流が大きく、終期に電圧が上昇すると充電電流が小さくなる特性を持っています。一般に販売されているバッテリーチャージャーの多くはこの方法をとっています。
定電流・定電圧充電は、充電出力の最大電流と最大電圧を制限して充電する方法です。充電初期は定電流で充電され、その後定電圧で充電します。比較的短時間で効率が良い方法です。マリンジェットなどの充電系統に採用されています。
- エンジン始動用バッテリーの場合は、必ず船舶から降ろして充電作業をしましょう。搭載したまま行うとショートなどで船舶の電気系統に重大なダメージを与える可能性があります。
- 船舶からバッテリーを降ろす時は、必ずマイナス端子から外しましょう。ショートの危険性を回避するためです。装備する時は逆にプラスから接続しましょう。
- バッテリーの充電時には、水素ガスが発生します。充電作業は、換気の良い場所で十分注意して行いましょう。開放型の場合は、液口栓は外して充電し、終了後は30分程度待ってから栓を締めます。
- 充電器のクリップの接続時は、必ず電源をOFFにして行ってください。火花が飛ぶかもしれませんので危険です。そして、接続はプラス端子から先に行いましょう。取り外しは逆にマイナス端子から行いましょう。
- 充電中はバッテリーが熱を持つ場合があります。55度を超えるようなら充電電流を下げるか、一時中断して熱を冷ましましょう。
液入りのバッテリーは基本的に充電済みになっていますので、そのまま使用できます。液別のバッテリーも液を注入すると化学反応が始まるため1時間ほどで使用できます。ただし、充電量にバラつきがありますので、念のために充電した方が好ましいと言えます。バッテリーを満充電に保つことは長持ちの秘訣です。