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フィギュアスケート:高橋大輔選手と採点システム

先週末に高橋大輔選手に関するブログを書いたらアクセス数がどっと増えてびっくりした。だからというわけではないが、ちょっとおまけ。
 
以下は世界選手権のエキシビション。私はCBCの解説が好きなので、それがアップされるのを待ってみたのだけど、どうもその気配は無さそうなので、地元イタリアのと思しきチャンネルの放送から。
 
エキシビション「Luv Letter」
 
解説者がイタリア語で何を言ってるんだかさっぱりわからないが、「カリスマ」だけはわかった。このエキシビションでは、高橋選手は桜の花吹雪を思わせるような、華やかかつ繊細で儚げな、ショートプログラムやフリーとはまったく異なるキャラクターを演じている。手首、指先まで神経が行き届いた演技の美しさは、女子にも引けをとらないと思う。(男子と女子ではスピンの種類やスパイラルなど基本的な技の違いはあるが。)
 
「YouTubeでもバンクーバーオリンピックの映像は出てこないなー、やっぱ著作権とかうるさいのかなー」とか思いながらウェブをふらふらしていたら、こんなものが出てきた。
 
高橋大輔選手(SP3位、90.25)
 
Evan Lysacek選手(SP2位、90.30)
 
Yevgeni Plushenko選手(SP1位、90.85)
 
(YouTubeにくらべて映像の質がずっといいらしく、ダウンロードに結構時間がかかります。映像の右下の「HD」をクリックすると別窓でHDの映像も観られますが、更にダウンロードに時間がかかります。)
 
ページの下のほうには各選手の点数の詳細がでている。演技の映像と点数の内訳を見比べながら、私は「ふぅ〜ん…」とか思ってしまった。
 
まずは、最初から最後まで「自分が勝って当然」とばかりに自信満々の様子だったプルシェンコ選手。彼は見事4回転を決めたし、確かにジャンプはすごい。が、はっきり言ってそれだけだ。ステップなんて義理でやってるんじゃないのかという印象まで受ける。体も動きも硬質で優雅というには程遠く、「なんか忙しそうにやってるな」という感じだ。フィギュアスケートを見ていて「この振り付けと音楽とどういう関係があるのだろう?」と思うことがあるが、彼の演技はその典型で、このアランフェス協奏曲はフィギュアスケートの定番ともいえる曲だが、トップ選手によるこれほど情緒もへったくれもないアランフェスも滅多にないのではないだろうか。彼は結局この後フリーの演技でライサチェックに抜かれて銀メダルに終わり、自分のジャンプが過小評価されたと採点システムを批判したが、私個人の意見としては彼の芸術点こそ過大評価されたと思う。あの乱暴な演技でProgram Componentsの39.75は正直高過ぎると思う。彼のPerformance/ExecutionはLysacek選手よりも高橋選手よりも高いが、これって一体何を見ているのだろう?Interpretationで8.25ついているが、彼の演技に果たして解釈と呼べるものがあっただろうか??
 
プルシェンコ選手とは対照的に、最初から最後までプレッシャーをしょって悲壮な感じまでしたライサチェック選手。この人はすらりと背が高くて手足も長く、とても容姿に恵まれていると思う。全身黒ずくめでしかも黒の手袋までしているので、「火の鳥」というよりは大きな黒い蜘蛛か脚の長い節足動物という感じだ。体も動きもプルシェンコ選手に比べればはるかに優雅でしなやかだが、それでも高橋選手には及ばないと思う。クラッシック音楽に合わせて優雅にすべる彼は古典的はフィギュアスケーターだと思うし、それゆえに彼の演技は採点システムで計りやすいのかもしれない。しかし、Program Componentsの殆どの項目で高橋選手より高いのはどうしても解せない。これはあくまで素人の意見だが、Program Componentsの全項目において、高橋選手の方が勝りこそすれ劣っていたことはないと思うし、Choreography/Comosition(振り付けと構成)などは高橋選手の演技の方がはるかに優れていたと思う。
 
高橋選手の演技の場合は見る側の意識がまったく別モードになってしまう。彼があまりにも見事に音楽を捕らえて表現するので、見る側もこれが競技であることをしばし忘れて、純粋なアートパフォーマンスとして楽しんでしまうのだ。これはCBCの放送で、高橋選手が全てのジャンプを成功させてしまった後に、解説者のKurt Browningが「Now, sit back and enjoy the entertainment!」と言っていたのにも裏付けられていると思う。(Browningは、高橋選手に関しては既に技術について語る必要はないとして、ただただ演技の素晴らしさを絶賛するといった様子だ。)ただし、彼のように氷上で音楽を表現することは誰にでもできることではないし、音楽に対する優れた感性とずば抜けた身体能力と膨大な量の訓練を必要とするだろう。残念ながら、彼がオリンピックの演技で見せた能力が、採点に正当に反映されたかについては、疑問を抱かざるをえない。
 
演技を細かいパーツに分解して採点する現在の採点システムは、それ以前のシステムに対する「公平でない」「えこひいきがある」との批判を受けて作られたものだが、個々のパーツを採点する際に個人的な好き嫌いや贔屓目が働いてしまえば、結局結果は昔のシステムと同じことになってしまう。オリンピックの男子シングル上位三人のSPのスコアをみて、そんなことを実感した。
 
 
追記:
 
またネットをふらふらしていたら、こんなインタビューをみつけた。
 
Patrick Ibens: "I Would Say 10% of Judges Are Completely Honest"
 
タイトルは「審判の中で完全に正直なのは10%だ」である。Patrick Ibensはベルギー人の審判で、今季で引退するらしい。彼は高橋選手を非常に高く評価しているので、それだけでも日本人には読んでて楽しいが、それを差し引いても彼のこのインタビューは審判の内部事情を暴露していて大変興味深い。現在の採点システムを果たして審判自身が正確に理解しているのかは結構怪しいとか、ライサチェックのアクセルは踏み切りでずるをしているので実は正確にはアクセルじゃないとか、などなど。
 
日本語訳もありました。
http://blogs.yahoo.co.jp/temarri/60317164.html
 
ご興味のある方はどうぞ。

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