振付師が思いっきりはずしたプログラム(3)
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Case 3: Evan Lysacek
Music: El Tango de Roxanne performed by Ewan McGregor, Jose Feliciano and Jacek Koman from MoulinRouge! soundtrack
Choreography: ???
Evan Lysacek選手(まだ正式に引退を表明していないので一応選手にしておく)がEl Tango de RoxanneでEXプログラムを滑っていると知ったのは以下のサイトでのことだった。
SKATING DEATHMATCH: TANGO DE ROXANNE EDITION, PART 1!
Men and Men’s Exhibitions
Onto_skatingのSkating Deathmatchとは、同じ曲を使用したプログラムを集めて投票するという企画である。2001年のBaz Luhrmann監督によるミュージカル映画「Moulin Rouge!」の発表以来、このEl Tango deRoxanneは競技、EX合わせて多くのスケーターが使用してきた。おかげでこのDeathmatchも一回では収まらなかった。
SKATING DEATHMATCH: TANGO DE ROXANNE EDITION, PART 2!
Ladies, Pairs and Ice Dance
SKATING DEATHMATCH: TANGO DE ROXANNE EDITION, PART 3!
Part 1とPart 2の決選投票(ただし競技プログラムのみ)
映画「Moulin Rouge!」について。ストーリーの元になっているのはギリシャ神話のオルフェウスの話とオペラ「La Traviata(椿姫)」だそうだ。
この曲のオリジナルは1978年にPoliceが発表したRoxanneである。
Roxanneという名の街娼に想いを寄せる男の執着と彼女の客に対する嫉妬の情を歌ったこの曲は、発表当時結構物議を醸したらしい。映画では、Nicole Kidman扮するコルティザン(高級娼婦)Satineに思いを寄せるEwan McGregor扮する詩人のChristianの視点に置き換えられている。
前述のBe Italianといい、このRoxanneといい、一見お堅いように思えるフィギュアスケートの世界は、実は娼婦ネタがお好きなようだ。
話をLysacek選手のプログラムに戻す。この曲を選んだのが誰で、振付けたのが誰なのか、私は知らない。ただontd_skatingのコメントにもあるように、何で今更El Tango de Roxanneなのだろう?この曲はこの10年足らずの間にあまりに使いまくられていて、正直皆飽き始めている。
もっともLysacek選手にオリジナリティや意外性を求めること自体が無理な話なのかもしれない。彼の競技用プログラムはフィギュアスケートでは定番となっている曲ばかりで(The Firebird、Scheherazade、Rhapsody in Blue、Bolero、etc.)、Lori Nichol氏による振り付けは構成がどれも同じと、巷では酷評されている。
更に音楽のカット(編集)が酷い。1:08あたりでいきなり歌詞がぶった切られたところで思いっきりガクッと来るが、その後最後まで盛り上がりきることもなく終わってしまう。なぜこんなにも盛り上がらないのかと思ったら、プログラムの時間自体が約3分半と結構短い。競技用プログラムと異なりEXでは時間の長さも振り付けにももっと自由がある筈だから、もっとましなカットが可能ではなかったか?
音楽のカットが変なEl Tango de Roxanneと来ると、頭に浮かぶプログラムがもう一つある。
Yuna Kim @ 2007 Worlds
Choreography: Tom Dickson
(埋め込みができないように設定されているので、リンク先でどうぞ。フジテレビの映像に英Eurosportの音声という面白い動画だ。)
取り上げておいて張り付けないのもなんなので、ドイツ語版を張り付けることにした。解説が何を言ってるのかさっぱりわからないが。
英Eurosportsの解説者達が絶賛しているように、ここでのキム選手の演技自体は確かに素晴らしいと思う。昨季の世界選手権のおかげで日本のフィギュアスケートファンの間ではダークなイメージが完全に定着してしまった彼女だが、この頃は彼女の演技が好きだったという人は多いようだ。ただ、ontd_skatingでも複数の人がコメントしているように、とにかく音楽のカットがあまりにも奇妙だ。まず点数を稼ぐためのプログラムを構成し、それに合わせて音楽を細切れにしてつなぎ合わせたという感じだ。キム選手もこんな音楽によくここまで感情移入ができたものだとある意味感心する。
Lysacek選手の場合はレベルや加点を気にする必要はなかったはずなので、もっと気の利いたカットにできたと思うのだがなぜこんな風にしたものか。それに振り付けも別段出来がいいとも思えない。やたらにシャツの胸元を掴んで引っ張るが、一体何のつもりなのだろう(笑)。曲の内容に反して動きがカクカクとなんとも色気のない演技だと感じるのは、感情移入できないどころか正直思わず笑ってしまうのは、私だけだろうか。
日本では4回転のことばかりが論点になっているようだが、Lysacek選手がオリンピックチャンピオンに相応しくないと考える人が多い理由はそればかりではない。彼は芸術面において決して傑出した選手ではないにも関わらずPCSが不自然に高かったことも、彼が正当なオリンピックチャンピオンとして尊敬されないもう一つの大きな理由である。
彼が全米チャンピオンになった2008年あたりから彼のPCSは演技とは不釣り合いに上昇し始め、米スケート連盟と彼のコーチFrank Carroll氏は彼を「a great combination of athleticism and artistry」としてメディアに売り込み始めた。フィギュアスケートはあくまでマイナーなスポーツでしかないアメリカにおいて、一般国民はLysacek選手がアメリカ人だというだけで十分それを信じたろう。実際のところ、彼は3Aさえも不安定なことで知られていたし、オリジナリティも皆無で表現力も並み程度で、パフォーマーとしてはむしろ退屈な部類に入るのだが。
今回のEl Tango de Roxanneは、彼の十人並みの芸術センスを再認識させるのに一役買った。しかし、案外本人はそれに気づいていないのかもしれない。このプログラムをStars on Iceの日本公演で演じたのは驚いた。日本のファン、特に高橋選手のファンは、フィギュアスケート界の大御所Dick Button氏にも絶賛された彼の2006/2007のEXをよく覚えているからだ。
Daisuke Takahashi @ 2007 Worlds
Choreography: Nikolai Morozov
演技が終わった後興奮して高橋選手を誉めちぎっている声がButton氏である。
Dick Button氏について
この演技に対抗できるとLysacek選手がマジに考えたとしたら、彼は本当の芸術オンチだろう。 |
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