男子シングル・トップ3のコーチ変更(3)
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男子トップ3のコーチ変更の最後に、「高橋大輔選手がNikolai Morozov氏と寄りを戻す」というまさにエイプリル・フールのジョークの様なニュースが先週末に飛び込んできた。
このニュースの解禁日はドリーム・オン・アイス(DOI)の初日である6月15日と決まっていたようだが、先日の14日にロシアから情報が漏れてきて、インターネットでは大騒ぎになった。日付が変わって、露スケート連盟のMorozov氏のプロフィールのページの現在の生徒のリストのトップに――つまりFlorent Amodio選手の前に――高橋選手の名前が現れた時点で、これがジョークでないことが明確になった。
(英語か日本語に自動翻訳すると読めます。)
2008年の春Morozov氏が高橋選手には告げずにライバルの織田信成選手のコーチに就任したことをきっかけに、高橋選手から師弟関係を解消してMorozov氏の下を去った。慌てたMorozov氏は信頼関係の修復を試みたようだが、結局「覆水盆に返らず」だったようだ。
以来、Morozov氏はメディアを通して、高橋選手や彼のエージェントやコーチ陣を4年間に渡って罵り続けることになる。ただ、時には幼稚とさえ思えた悪態の裏には、彼の高橋選手に対する並々ならない執着と未練が常に顔を覗かせていた。だから、チャンスさえあれば彼はいつでも高橋選手と師弟関係を復活させる気があるのだと、思った人は少なくなかっただろう。
だが、高橋選手側にはMorozov氏と再び組む理由が全くないと思われたので、二人の師弟関係の復活はまずありえないと、皆が思っていた。2008年の10月に起こった右膝前十字靭帯断裂という大怪我を乗り越えて、2010年にはバンクーバー五輪銅メダルと世界タイトルを手にした。宮本賢二氏、Pasquale Camerlengo氏をはじめとする様々な振付師達とコラボレーションを重ね、芸術表現においては他の選手達とは完全に一線を画す存在となっていたし、右膝前十字靭帯断裂後なかなか安定しなかった4Tも、昨季はついにSPとFSの両方で成功するまでになった。Morozov氏に師事していた頃の様に重要な判断をコーチに委ねるのではなく、現在では高橋選手自身が主導権を掌握し最終的な判断を下すいわゆる「チーム高橋」を形成し、実際にそれは非常に上手く機能していたから、今更Morozov氏に頼る必要性は皆無に思われた。
一方Morozov氏といえば、2011年にはAmodio選手を欧州チャンピオンに、安藤美姫選手を再び世界チャンピオンに、2012年にはAlena Leonova選手を世界選手権銀メダリストにするなど成績上は輝かしい実績を残していたものの、振付師としてのレベルの低下はいよいよ目も当てられない状態にまで達していた。(ただし、振付の内容とは不釣合いなまでにPCSは高く出ていたが。)だから、Morozov氏の生徒はプログラムも彼の振付になるという通常のパターンを思えば、この師弟関係復活のニュースがファンの猛烈な拒絶反応に迎えられたのは無理もないことだった。Figure Skating UniverseやGolden Skate Forumなどの英語のフォーラムはほとんど阿鼻叫喚状態だった。
Figure Skating Universe: Confirmed: Daisuke Takahashi will be coached by Nikolai Morozov again
Golden Skate Forum: Daisuke Takahashi backto Nikolai Morozov
Morozombie: Look at your life, look at your choices
かくして6月15日はそのまま阿鼻叫喚の中で日が暮れて、DOIの記者会見で高橋選手とMorozov氏が正式な師弟関係復活を発表した後、詳細を聞いてようやくファンは胸を撫で下ろして一息つくことになる。
Takahashi reunites with Morozov for Sochipush
(日本語のNumberの記事は文体があまり好きになれないのでこちらの英語の記事にしました。)
重要なポイントは以下のあたりだろうか。
・世界選手権前にMorozov氏から高橋選手のエージェントにオファーの連絡があり、熟考の上高橋選手が申し出を受けることにした。4年前の師弟関係解消の経緯については、Morozov氏が謝ったらしい。
・Morozov氏にとって高橋選手は常に最高の教え子であり、彼の目標は高橋選手にソチ五輪で金メダルを獲らせること。
・現在の「チーム高橋」の体制はそのままで、そこにMorozov氏がアドバイザーとして加わる形になる。メインコーチは引き続き長光コーチ。
・振付師Lori Nichol氏との交渉はどうやら頓挫した模様 。今季の振付師はまだ決まっていないが、高橋選手としてはMorozov氏を起用する意思はない。
確かにソチ五輪に向けてロシア人コーチと組むことは、高橋選手にとって悪い戦略ではないだろう。Morozov氏振付のプログラムはなぜかその内容とは不釣り合いなまでにPCSが高く出る傾向があり、2010-2011季の安藤美姫選手のFSなどはその典型で、おかげで英語のブログなどでは「Morozovは裏で何やってるんだ?」とまで書かれている。一方で昨季高橋選手のPCSは不可解なまでに低く抑えられていたから(特にGPFのFSと世界選手権)、Morozov氏と組むことにより彼のPCSが高値で安定するかもしれない。
2010年GPF公式練習での小塚崇彦選手との衝突事件の取り扱いや、昨季高橋選手のPCSが低く抑えられた傾向だけを見ても、高橋選手がJSFの後押しを全く受けていないことは明らかだ。JSFが現在最優先で投資しているのは羽生選手であり、それは昨季のPCSの順調な上昇や、Orser氏へのコーチ変更を見ればはっきりとわかる。(JSFとしては小塚選手も推したいのだろうが、昨季があまり不調だったために先を読むのが難しい。)
それでは露スケート連盟はどうなのだろうか?ソチ五輪を前に、原則としてロシアのコーチはロシア人以外の選手を指導できないことになっているというが(Amodio選手は例外)、Morozov氏が高橋選手にソチ五輪で金メダルを獲らせるつもりでいることに、異議はないのだろうか?
実は露スケート連盟も承知しているのではないかと言う人もいる。つまり高橋選手の「ロシアのプランB」説である。昨季ロシアは男子シングルの層の薄さを露呈してしまった。Artur Gachinski選手は靴の問題を抱えていたこともあり、世界選手権ではまさかの18位に終わった。欧州選手権ではEvgeni Plushenko選手に次いで2位に入ったが、演技内容から推測すると、あと2年足らずでChan選手に太刀打ちできるレベルにまで到達するとは思い難い。Plushenko選手といえば、手術に次ぐ手術でまさに満身創痍状態であり、未だに立って滑っているのが不思議なほどだ。彼の体がソチまでもつという保証はないだろう。
ロシアにおいて高橋選手の人気・評価は高い。Tatiana Tarasova氏はかつて振付師として高橋選手を指導したこともあり、教え子としての思い入れもあるようだ。(当時の衣装も典型的Tarasovaデザインだったが…。)Plushenko選手・Gachinski選手のコーチであるAlexei Mishin氏も、高橋選手について「ロシアにルーツを持つ最高のアーティスト」と評している。
(Google自動翻訳)
- Takahashi - an artist. I say this without irony, in the highest sense of the word. Apotheosis of a Japanese figure skating, brought up on Russian roots.
ロシアとしては北米に対してバンクーバー五輪での「四回転論争」の恨みもあるだろう。「Chan選手にみすみす金メダルを持って行かれるよりは、ロシアのルーツを共有する高橋が優勝した方がずっとましだし、高橋であればロシアのスケートファンも納得するだろう」――そうロシアが考えていると思うのはいささかナイーブというものだろうか?
ちなみにPlushenko選手の今季のFSはNino Rotaの「Romeo & Juliet」で、振付師は宮本賢二氏だそうである。宮本氏の代表作は言うまでもなく高橋選手の「Eye」SPである。
Plushenko turns to Shakespeare for free skate
Camerlengo氏が担当したのは、Plushenko選手のSPらしい。最近のMishin氏の高橋選手関係者への急激な接近ぶりを、どう解釈するべきだろうか。
今回Morozov氏はJSFを通さずに高橋選手側に申し出たという。この師弟関係復活を知った時の、JSF幹部の正直なリアクションにとても興味がある。今季の男子シングルは色々な意味で面白くなりそうだ。
(おしまい。) |
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遊びに来てもらって、ありがとうございます。
よろしかったら、ヒマな時にでもまた遊びに来て下さい。
2012/8/5(日) 午前 9:16 [ 猫の二度見! ]