• rss

ベストセラーズチャンネル:不格好経営―チームDeNAの挑戦 南場智子(前編)

「○○と言ったほうが、優秀な人間は動く」 DeNAを育てた南場智子氏の”殺し文句”はコレだ!

  • 関連ワード: , , ,
    • このエントリーをはてなブックマークに追加
「○○と言ったほうが、優秀な人間は動く」 DeNAを育てた南場智子氏の”殺し文句”はコレだ!
夫の看病から2013年に現場復帰を果たしたDeNAの創業者 兼 取締役の南場智子氏は、どのようにして日本を代表する女性経営者となったのか。失敗から学ぶことの重要性と、「最も重要」と語る人材採用においての”殺し文句”を明かしました。(ベストセラーズチャンネルより/この動画は2013年9月に公開されたものです)

【スピーカー】
株式会社DeNA 創業者 取締役 
パーソナリティー 須藤コウジ 氏

【この記事のヘッドライン】
・3ヶ月で書き終えた初の著書
・「失敗のフルコース」から学んだ、トップの責任
・自分だけの能力に限定すると、会社は小さくなってしまう
・人材採用の殺し文句は「助けてくれ」

【動画もぜひご覧ください!】
不格好経営―チームDeNAの挑戦 南場智子(著)

3ヶ月で書き終えた初の著書

須藤コウジ氏(以下、須藤):皆さん、こんにちは。須藤コウジです。今日お招きするゲストの方をご紹介しましょう。『不格好経営』、日本経済新聞出版社から出版されております、著者の南場智子さんにお話をお伺いします。南場さん、今日はよろしくお願いします。

南場智子氏(以下、南場):よろしくお願いします。

須藤:南場さんと言えば、DeNAのファウンダーということで、ほとんどの日本人の方がご存じかと思います。初めての著書ということで、今回『不格好経営』と本を出版されたのですけど、全部一字一句、自分で書いたと。

南場:はい。

須藤:結構大変だったんじゃないでしょうか?

南場:そうですね、大変でした。短いエッセイとかは書いたことがあるんですけど、長い文章を書いたのが初めてなので……。結構書けるんじゃないかな? と思っていたんですけど、死ぬかと思いました。

須藤:最後死ぬかと思いましたか(笑)。

南場:はい。

須藤:本の中でも、「長い文章を書くのがこんなに大変だとは知らなかった。文筆家はすごい、また尊敬する人が増えました」と書かれています。何か月ぐらいで、一冊を書き終えたんですか?

南場:1月4日から書き始めて、3月末までですね。

須藤:早いですね。3か月かかってない。

南場:現場復帰をするのが4月1日の予定でしたので、3か月しかないということで、書きなぐったという感じですね。

須藤:なるほど。ページ数でいうと250Pを超えている、相当なボリュームなんですけど、何か書き溜めてあったんですか?

南場:ブログに書いたことが一部入っていたりしますけど、この本のために書き溜めていたものはなくて、ゼロから書きました。

須藤:そうなんですか、素晴らしいです。

「失敗のフルコース」から学んだ、トップの責任

須藤:コンセプトといってもいいと思いますが、ゼロから書いたというこの本の一番最初に出てくる、「失敗のフルコース」という言葉。あえて失敗したこと、苦労したことを中心に書いていった。これは決断が要ったんじゃないですか? 恥ずかしい部分を書いていくという。

南場:そうですね。小出しにするのはそんなに恥ずかしくないんですけど、全部並べてみたら、相当恥ずかしかったです。とんでもない経営者だなって思いました。

須藤:(笑)。この本の中身をいろいろ聞いていきたいと思います。

恥ずかしい失敗の経験こそ詳細に綴っていきたい、ということで、いろんな失敗が書いてあります。あらためて振り返られると、一番勉強になった、この失敗があったからこそ今のDeNAがあったというのは、どれになるでしょうか?

南場:最初にインターネットオークションを立ち上げて、一番になると宣言して、全然うまくいかなかったんですよね。一番であるヤフーオークションを追いかけるのに、全ての事をやりきるんですけど。

学んだことは全ての戦略を高い次元で実行する、その組織的な体力は出来たんだけれども、社長が堀りどころを間違えると、どこにも行かないということがわかりました。

いかに実行力に富む組織が出来ても、リーダーの責任って大きいなって、そこが1つの大きなラーニングだったんですね。本ではそこをそんなに強調していなくて、むしろ苦労がコミカルに書かれているんですが、実際はトップの責任が大きかったと思うんですよね。

須藤:トップの責任という意味で象徴的なのが、「プログラムのソースコードが1つも書かれていなかった」という。

南場:そうなんですよね。そんなことがあるのかと。今でも社内で話すと「信じられない」ってなります。実行力という意味でも、最初ぼろぼろだったんですよね。

須藤:話を聞かれている人のために簡単にお話しますと、オークションのサイトを作るためのプログラムを、当然作らなくちゃいけないわけですね。

その時仕様書と言って、こういうもの作りますよという設計図をちゃんと作っていた。そして九州にあるプログラムを組む会社にもちゃんと送っていた。いよいよオープンする日になって初めて、プログラムが1行も書かれていない(ことに気がついた)。

「仕様書に基づいて作ってくださいよ」と担当者のほうに渡していて、「順調ですよ」という回答をいただいてたんですよね?

南場:そうですね、設計図だけ書いて……。家の建築に例えたら、設計図は完璧に出来て、並行して家は出来てますと言われていて、さあ今日から掃除でもしようと行ったら家がなかった。

須藤:(笑)。

南場:それぐらいとんでもない大失敗なんですよ。

須藤:その時、一度も(コードが)書かれている現場を見ていなかったと。行こうとしても「来なくてもいいよ」と言われた、ということで。

南場:詳細は差し障りがあるんですけど……一回現場を見に行かなきゃとは思っていたんですけど、遠隔地だったんですね。行こうとはしたんですけど、「パンツ一丁で仕事してるから、来られると逆に迷惑だ。作業が遅れる」ということを言われて。

他にすることが山ほどあったので、来ないでと言われてなんとなく「良かったな」という感じになってしまって。実際は作業は行われてなかったんで、私に行かれると不都合だったんですね。

須藤:私が一番すごいなと思ったのは、その後なんですよね。その後、窮地を挽回するために必死にいろんなことを始めて、当時いろんな人が協力をしてくれると思うんですが、そこで優秀な方が集まり始めますよね。これが事実上の創業、もしくは第2の創業と言っていいぐらい。

「天才を3人集める、そうすれば出来る」と、ご自身の言葉にもあるんですけど、その時は大失敗だったんだけども、それが今のDeNAに至る大きなキッカケだったんじゃないか、と私は思うんです。

南場:あとから振り返れば、そういう面もあったかもしれませんね。渦中にいる時はそんな風に冷静に判断することは出来ませんでしたけど。

自分だけの能力に限定すると、会社は小さくなってしまう

南場:ただなぜか、大失敗してもどんどん人が集まり続ける組織で、私もそれが一番大事な仕事だと思ってやってましたので、そこは良かったですね。唯一失敗しなかったのが、人材の質に妥協をしなかったということだったんですよね。

須藤:人材採用も本の中に書かれていますけど、質に妥協しないと。これは創業の時から?

南場:最初からですね。

須藤:創業メンバーに声をかける段階から?

南場:そうですね。私がマッキンゼーで仕事をしていて、一番すごいなと思った二人を誘ってますので。

須藤:この、質に妥協しない、いわゆる仕事が出来たり能力を持っている人を誘う。物を売る、物を作るということよりも、一番大変なことだと思うんですね。相手の気持ちを動かさなくちゃいけないですし、その人の人生を左右してしまうかもしれない。それに一番力を入れてきた。会社説明も年間何十回も。

南場:それはトップがやらなくてはいけない仕事で、ベンチャーはどこでもやっているかもしれないですね。私は会社が大きくなっても、それが一番重要だと叫び続けて、自分でもずっとやっています。どの社長も認識はしているんだけど、DeNAは高いレベルでずっと続けている会社なんです。

須藤:私はDeNAという会社の強みは、人材の質と、教育というか任せる雰囲気、好循環が組織の中で文化として根付いているんじゃないかなと、この本で理解できたんですけど、それは創業のころから注意を払っていたということですか?

南場:人の質にはこだわっていたんですけど、最初は人に任せるというのはやらないで、全部自分が、というのがあったんです。前職では自分に出来ない事っていうのがあまりなかったので。

会社を立ち上げると自分では出来ないことが多すぎて、自分だけの能力に限定していくと、会社はすごく小さくなってしまうんですよね。手も足も出ないような……例えばプログラミングもそうでしたし、サイトのデザインであるとか、自分でどうしても能力的に出来ないことがあって、勉強する暇もないわけです。ですから周りに任せなきゃって、必要に迫られて学んでいったって感じです。

人材採用の殺し文句は「助けてくれ」

須藤:先ほどの最大のピンチの時に、唯一外さなかったところ、残った部分というのが、人の部分。優秀な人が常に集まってきてもらえる形、そこだけは変わらなかったということなんですが、どうやって優秀な人が来てくれるように魅力的なチームにしていくか、というのがおそらく南場さんが一番気を使ったところだと思います。

南場:最初はやっぱりいろいろやってみたんですけど、一番が「助けてくれ」って言うことなんですよね。

須藤:こちら側が?

南場:「DeNAはこんなにすごい会社だよ」ってずっと言い続けたり、セールスポイントだけをずっと言っていても、人の心って動かないんです。

むしろ「力が必要です、助けてください」と言ったほうが、特に実力のある人間は動くんですね。

もともと大事な意思決定ですので、装飾して良くは言わないようにしていたんですよね。この会社はこんなに危なっかしいところもあるし出来ないこともあるし、と必ずリスクも言うということは心がけていたんです。でもだんだん、助けてっていうのを前面に出したほうが良いというのを学びましたね。

須藤:先のプログラムの時は、本当に助けてということを前面に出さなければいけない局面だったんですね。ショックでパソコンの電源すら、手が震えて……。

南場:そうですね。いろいろプログラムを立ち上げるのも、頭が真っ白になって、出来ないくらいパニックしてしまって、顧問弁護士が駆けつけてパソコン起動してくれたりして(笑)。

須藤:それほどショックな出来事だったわけですね。

南場:パニックでしたね。

須藤:その時は助けてくれって状況ですから、「助けてくれ」と。でもそれ以外の場面でも「助けてくれ、必要なんだ」と。

南場:そうですね。順調でおかしくなっていない時でも、目線が高く目指しているものが大きいと、助けや力が必要なんですよね。そこを前面に出していくほうが良いチームになるし、優秀な人の心も動くんですよね。

とっても素敵な船があるから乗り移ってくれって言うよりも、「良い船一緒に作ろうよ、そのためにはあなたの力が必要なんだ」って言うほうが、わくわくすると思うんです。また、わくわくする人を求めているんです。

須藤:本の中でも、実はDeNAは出戻りが多いと。一回退職して、また戻ってくる?

南場:そうです。こういう言葉使うとすごく恥ずかしいんですけど、DeNAって多くの人の青春になっているみたいで。外で別の経験もしようかなって出てみたりするんだけど、どうしても忘れられないし、ここに戻ってくるって人が多いんですよね。私はそれを普通に歓迎するっていうか、戻ってもらってまたやろうよ、ってことが多いです。

須藤:私はそこに、DeNAの一番の強みがあるんじゃないかと、本を読んで思ったんです。人が居心地がいい、もしくはやりがいがある、力がある人ほど自分の実力を発揮できるフィールドを用意してくれている。それが出来ているからこそ、どんどん急成長をし、急成長に耐えられるような組織をしっかり作っていって……。

南場:人は成長するみたいですね。ひりひりするような仕事の経験をさせられるって言いますけど、それぐらいの仕事をしていると思います。あと会社も成長していますから、どんどん責任も大きくなるし、大きな試合も出来るようになる。それも良いと思います。

【後編は近日公開!】

『不格好経営』Kindle版 amazonへ

 ログミーくんをフォローしよう!