コスタリカとの準備試合を終えて、やはり一番の気がかりは本田圭佑の動きである。他の選手が順調にコンディションを上げている中で、本田はまだ本調子からは程遠い。テレビの画面に映る本田の表情は明らかに疲労の色が濃かった。汗のかき方を見ても、暑さに苦しんでいるのが分かる。その表情を見て、僕はアジア予選のオマーン戦で暑さのために動けなくなってしまった時の本田を思い出した。僕は、基本的に暑さは日本の見方だと思っている。

日本の選手は高校生の時には夏の炎天下で連戦をこなすような大会をさんざん経験しているし、Jリーグも真夏の35度もあるような時期にも試合を行っている。代表チームに入っても、日本の選手たちは東南アジアや中東のような暑いところでの試合を経験せざるをえない。だから、そういう環境の中でどういうふうに戦ったらいいか、あるいは給水の仕方などを知っている。秋春制で、夏場がシーズンオフのヨーロッパのクラブの選手とは違うはずだ。

だが、人間の体は環境に順応していくものだ。ヨーロッパのクラブに移籍して1年、2年経てば、次第に暑さが体にこたえることになる。とくに、本田の場合はロシアで数シーズン過ごしたことで寒さに慣れてしまっているのかもしれない。これから数日のフロリダ合宿の中で、本田が蒸し暑さの中でしっかり動ける体を取り戻せるのか。その一点に、日本代表の運命がかかっているとも言える。

かつて、1982年のスペイン・ワールドカップの時も地域によって気候の差が激しかった。バレンシアやアンダルシアのような地中海側は蒸し暑く、マドリードなど中央高原は湿度が低く、カラッとした猛暑。そして大西洋岸のアストゥリアスやガリシア地方は雨も多く、肌寒いような気候だ。そして、スペイン大会でベスト4に残ったチーム(イタリア、西ドイツ、ポーランド、フランス)は、いずれもグループリーグを涼しい地域で戦ったチームばかりだったのだ。

今回、大会の舞台であるブラジルはスペインよりはるかに広大な国土を持つ。南部のクリティーバやポルト・アレグレは、もう真冬である。一方で、北部のレシフェやフォルタレザ、ナタウは赤道直下の熱帯。内陸のクイアバも、ブラジルで最も暑い地域という。今回も、気候の影響は大きいだろうし、たとえばアルゼンチンのように(1位通過すれば)決勝まで全試合を涼しい都市で試合ができるチームが有利なのは間違いない。

日本は暑い中での試合が多く、グループリーグを勝ち抜いて、もし4試合、5試合と試合を重ねて行けば、疲労が大きな問題になってくることだろう。だが一方で、もし蒸し暑い中でヨーロッパのチームと試合をすれば、日本にとっては暑さが大きなアドバンテージになるだろう。

気が早い話で恐縮だが、もし日本がグループCを2位通過すれば、ラウンド16はレシフェで戦うことになる。そのレシフェでの戦い。相手はグループDの首位通過チームとなる。それがヨーロッパのチーム(イングランドかイタリア)ならば、レシフェの蒸し暑さが日本に味方するはずだ。

昨年のコンフェデレーションズカップで日本がイタリアと対戦した時も、イタリアは(休養日が日本より一日少なかったこともあったが)蒸し暑さに苦しんでいた。ワールドカップでイタリアは、イングランド、ウルグアイと同じ厳しいグループDに入り、しかも3試合ともすべて暑い地域で戦うことになった。ラウンド16に進出してきた時には、すでに暑さで疲労がたまっている状態なのは間違いない。そうなれば、日本にも勝機はある……。これが、ベスト8進出の唯一のシナリオではないだろうか。

日本がグループリーグを1位で通過したとすれば、ラウンド16は気候的に温暖なリオ・デ・ジャネイロでの試合となる。2位通過ならレシフェである。しかも、2位通過の方が試合までの休養日が一日多いのだ。グループリーグは2位通過の方が有利ということになる。グループリーグでいきなり2連勝し、最後のコロンビア戦で「1位通過が有利か、2位通過が有利か」といった議論で盛り上がったら、さぞかし楽しいことだろう。

しかし、残念ながら、グループリーグで対戦するのはそれほど暑さを苦にしない相手ばかりだ。コートジボワールはアフリカ大陸の赤道直下の国。当然、暑さには慣れているだろう。2戦目のギリシャもヨーロッパの中では最も暑い国の一つ。そして、コロンビアも赤道直下にあり、暑さを苦にするとは思えない。

ただし、暑いところの国の選手たちは暑さをあまり苦にしないので、水など飲まずに試合をして最後に足が止まってしまうというケースも多い。中東やアフリカの相手と試合をすると、最終的には日本の選手より先に相手チームが暑さに苦しむ状況はよく目にするものだ。

いずれにしても、暑さを日本の味方にできるか否かは、これから数日のフロリダ合宿での準備にかかっているのだ。現地時間6月6日(日本時間7日)に行われる最後の準備試合であるザンビア戦。大会直前ということで、ザッケローニ監督もできる限りベストメンバーに近い選手を起用してくるだろうし、その際のコンビネーションや戦術にも興味はあるが、本田を含めて日本の選手が蒸し暑さの中でザンビアの選手より走り切ることができるのかどうかという点こそが最大の見どころであろう。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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