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BEAT SCIENTISTS 〜HIP HOPのおとづくり〜 VOL.7 feat. Illicit Tsuboi(PART 2)

インタビュー:高木“JET”晋一郎
写真:cherry chill will

【PART 1はコチラ
 
 Illicit Tsuboi氏へのプロデューサー・インタビュー。第二回目の本稿は、HIP HOPのリスニングに関しての意外な事実から、2000年前後のキエるマキュウへの参加や、そこでの制作論、そしてトラック制作に欠かせない、“サンプリングネタ”についてのお話を伺った。特に、印象的であったり、大胆なネタ使いにも関わらず、その使われたネタがほとんど言及されることのない、氏の謎に包まれたサンプリングネタはどうやって掘り出されているのかは必読!
 
 
■前回に引き続いて、ヒストリーの部分のお話から伺えればと思います。
「HIP HOPに関してのヒストリーでいえば、A TRIBE CALLED QUESTの2nd『THE LOW END THEORY』(91年)から、しばらくHIP HOPをまったく聴かなくなったんですよ。CRAIG MACKまで」
 
■(全員爆笑)。また意外な人から再開したんですね(笑)。
「“FLAVA IN YA EAR“(94年)辺りでHIP HOPから離れた人も多かったけど、僕は逆で、あそこからHIP HOPを聴き直して(笑)。だから、91〜94年ぐらいまでの、いわゆるHIP HOPの黄金期って言われる時期のHIP HOPは、実はほとんどリアル・タイムで聴いてないんですよ。ORGANIZED KONFUSIONも『ORGANIZED KONFUSION』(91年)はリアル・タイムじゃなくて、『STRESS: THE EXTINCTION AGENDA』(94年)でギリギリで間に合ったり」
 
■へ〜。
「(前回話題に出た)ATCQとネタが被ったショックで、これはジャズとかそういったジャンルから、もっとネタを探そうって、フリー・ジャズとかに傾倒していって、その時期はそっち方面ばかり聴いてたんですよね。もちろん、クラブでHIP HOPを聴いたりはしてたんだけど、持ってはなかった。それでCRAIG MACKを聴いて、これはヤバイだろ、と」
 
■でも、ヤバいけど……ですね(笑)。
「僕も今から考えると不思議でしょうがない(笑)。でも、なんか時代の空気を感じたんですよね。石田さんの『ホームシック』(95年)を作ってたときの、例えば“マス対コア”のYOU(THE ROCK)ちゃんやTWIGYの熱さを、当時のBAD BOYから感じたというか。だから、CRAIG MACK以降のHIP HOPの新譜の12インチはほぼ買ってましたけどど、それ以前がリアル・タイムじゃなかった。ZIMBABWE LEGIT(ORGANIZED KONFUSIONらと共にHOLLYWOOD BASICに所属していたアフリカ人ラップ・デュオ)持ってるのに、EPMDの“HEAD BANGER feat. K-SOLO, REDMAN”は持ってなかったということから、当時の聴いてた傾向が分ってもらえればと(笑)」
 
■2000年代に入ると、MSC関連のお仕事が増えていきますね。
「あれは元々マキさん(MAKI THE MAGIC)の紹介ですね。丁度その時期に、MSC周辺とマキさんが繋がって、その流れでトラックやエンジニアの仕事が来て。だから、基本的にはまずは仕事で繋がった感じですね。それ以前はそんなに彼らのことを知らなかったんだけど、知り合って、それでしっかり聴いてみたら、『これは面白い』って思って、そこから色々手がけるようになって」
 
■マキさんのお話が出たので、そのままお伺いしますと、キエるマキュウへの加入はどういった経緯だったんですか?
「元々、マキさんはVORTEX/おたのしみ研究所の社員だったんですよね。それで、四街道ネイチャーの『V.I.C. TOMORROW』(99年)のA&Rをマキさんがやってて、その流れでこのスタジオに来たんですよ。だけど、マキさんはああいう人だから『レコーディングはさっさと終わらして、呑みに行こうよ!』っていつも言ってて」
 
■A&Rなのに(笑)。
「『ここはスタジオなんで(渋谷)CAVE感を持ち込まないで下さい!』って(笑)。メンバーが一番しっかりしてたもんな。とは言え、僕も快く呑みに行く方なんで(笑)、そこで仲良くなっていって。その後に、『マキさんがキエるマキュウってユニットをクリちゃん(CQ)と組んでラップするらしい』って話が入ってきて。クリちゃんは“人間発電所”の制作に僕が関わってたっていうこともあって、繋がりはあったんで、『これはスゴい呑む人たちが集まったな』って思いましたね。それで一番最初の作品となる“ナンジャイ”から、このスタジオでRECをして……っていう流れで成り立っていった感じですね」
 
■最初にマキさんのラップを聴いたときの印象は?
「まあ……クリちゃんはひっくり返ってましたね(笑)。とにかくスゴいラップだなって、僕も思いました」
 
■マキュウはどのように制作されていたんですか?
「基本的には、流し込みからこのスタジオでやってて。だから昔は、『漢字TALK』が入ってるようなデカいMacintosh Performaと、SP-1200や他の機材をマキさんがカートで運んできて。それでこのスタジオで曲にしていって、レコーディングが終わったら、今度はその機材を渋谷HARLEMのエントランスに預けて遊びに行くっていう(笑)。だから、基本的には制作はこのスタジオでやってましたね。で、マキさんが作ったワン・ループのセグメント十何本を、ループさせながら、みんなでどう組み立てていくかを考えて、その上で構築していくってやりかたで。だから、何十本もあるループの何を使って、どう繋いで、どう纏めるかが、このスタジオでのメイン作業でしたね。だけど、その作業を『じゃあ、あとやっといて!』って言うのがマキさんで(笑)」
 
■トラック・メイカーなのに(笑)。
「ループが何本もあるときはいいんだけど、ホントにワン・ループしかない場合は、それを(エフェクトで)飛ばしたり抜き差ししたりして、構築しなくちゃいけないときもあって。マキュウに限らずなんですけど、僕はデモ・トラックの段階で、とにかくムチャクチャ色んなことをしておくんですよね。半分ダブみたいな状態になってたり。でも、そこでの手数が面白くて採用されたりってことが多くて、それはマキュウでもそうでした」
 
■仕掛けを作っておくのは、その段階で可能性や選択肢を増やしておくという意識ですか?
「それもあるし、自分としてもそうやって組み立てるのが面白いし、その色んな仕掛けを期待されるって部分もあって。マキュウはミキサー卓でミックスするのが基本で、それで、リアル・タイムで抜き差ししたりディレイかけたりリヴァーブしたりって」
 
■そこで出来たラフ・ミックスをメンバーと改めて構築し直すというか。
「マキュウの場合はそうですね。そこでスゴイことをやり過ぎちゃって、デモを超えられない曲もあったり。『どうやったんだこれ』、みたいな(笑)」
 
■マキュウのラップのRECはどのように?
「頭から順番に録るっていうより、クリちゃんがいきなり歌い出したり、マキさんがメチャクチャなラップしたりっていう、色んな素材をとにかく録るだけ録って、それを後で選んだりして。マキュウのレコーディングの場合は、ヴォーカルを録りながら、トラックを抜き差ししたりしてるんですよね。そのときのノリで」
 
■ええ!後からエディットするのではなく、ですか?
「リアル・タイムで音やビートの抜き差しもやっちゃう。そうすると、それに呼応して、MC側も例えば歌ったりとか、新しい展開をそこで生み出したりするんですよね。そういう怪我の功名みたいな部分も、マキュウではありますね。あと、譜割りも毎回マキさんは違うんで」
 
■インプロヴィゼーションや、ライヴでの展開に近いというか。
「そうですね。というか、マキさんって『4小節前から出します』とか、そういうのが分らないんですよね(笑)。だから、最初はラップが入る合図として、音の抜きをやってたんですよね」
 
■ガイドとしてそういうキッカケを作ってたと。
「それがどんどん発展していったんですよね。それでディレイとかもどんどんリアル・タイムで入れるようになっていって。だから、マキュウのレコーディングは、声を録りながら、エフェクトかけながら、卓操作しながら……ってメチャクチャ忙しい(笑)。リリックはありながらも、それを超えた先のフリースタイル感みたいな部分は大事にしてますね」
 
■具体的な進め方を伺うと、例えば“DO THE HANDSOME”はどのように進められましたか?あの曲は元ネタがかなり大きな形で使われていますが。
「あれは、クリちゃんがあの元ネタを持って来たんですよね。それでループ自体はクリちゃんが作ってたんで、そのループの中からドラムやベースを僕が引っ張りだしたり、補っていって作った感じですね。あのときは、クリちゃんがループを持って来て『これでトラック作って』って話になったんだけど、そのときには、既にスタジオにラッパー全員いるっていう(笑)。それで、KASHI(DA HANDOSOME)君は『じゃあ、雑誌読んでるんで』とか言って、みんなが別なことやってる中で、僕があのトラック作って。だから、あのKASHI君のフックは、そのとき読んでた雑誌に載ってたキャッチを言ってるだけなんですよ、実は」
 
■「指名延長各種オプション/領収書も発行」ってフレーズですね……って、じゃあ、エロ本読んでたんですか(笑)。
「『スゴいサビ出来ちゃいました!』って言ってるんだけど、それ、今読んでた風俗誌に載ってた言葉じゃん!っていう(笑)。『HAKONIWA』(12年)の“METEOR”も、“DO THE HANDSOME”に近くて、マキさんがネタだけ持って来て、これ使ってなんとかしてって(笑)。でも、そういう作り方だったのはその2曲だけですね。初期の頃はかなり細かく作ってたし。でも、『HAKONIWA』になるとかなり色んな部分が大づかみになっていって。でも、そのラフさと作品の空気感が『HAKONIWA』では直結していたのが大きいなって」
 
■“METEOR”も、ドラムを足したりするより、元ネタのパーツ毎を増幅させて、HIP HOP的な音響にしていますね。あのキックの連打の部分も、非常にHIP HOP的な雰囲気なんだけど、実は原曲でもあのフレーズはあって。ただ、それを増幅させることで、非常にHIP HOP的な、現代的な感触になっている。
「ドラムも足さなくていいかなって。だから『ドラムから作る』っていうような概念は、僕にないんですよね。ドラムは場合によってはなくてもいいと思ってるし、足さなくても、サンプリング・ソースの中に入っていれば、それを使えばいいかなって。だから『ブレイク・ビーツ』ってところに、最近興味がないんですよね。ブレイクじゃない部分で、抜いたり足したり、併せたりしてブレイク・ビーツを作る方に興味があるなって。普通の人が採る場所じゃない部分からブレイク・ビーツを作りたい。『曲にする』っていうのは当然だけど、足すのか抜くのか、そのままでいくのか、それともエンジニアリングの部分でどうにかするのか、そういった色んな部分を併せて成立する部分があって。それに、CDで聴いたら抜けないような場所でも、レコードで聴くと、その盤の状態だったり--もの凄く悪い状態も含めて--で、新しいブレイクが抜けたりするんですよね」
 
■鳴る音が盤によって完全に同じじゃないアナログならではのことですね。
「マキさんもよく言ってたけど、7インチからサンプリングすると、出音が全然違ったりするんですよね。だから、制作するときは、そういう“音響感”みたいな部分を大事にしてるかもしれないですね」
 
■音像というか。
「グルーヴが悪かったら、グルーヴを良くすればいいんだけど、音響感はそのレコードの持つ特性なんで」
 
■そのままサンプリングについて伺わせて下さい。改めて伺いますが、ツボイさんのトラックはサンプリングがベースになっていますね。
「そうですね」
 
■まず、その前提となるネタの選び方を教えて下さい。
「常にレコードは買ってるんですが、その中で『おっ』と思うようなレコードは、選り分けておいて、寝かしてありますね。それで、しばらく経ってもまだ頭にフレーズなりが残ってたら、それを使うって感じで」
 
■フレーズのストックはありますか?例えばドラムのフレーズ集的な。
「一応ありますね。自分だけのオリジナルのブレイク・ビーツ集みたいなのは。だけど、それを作ったのはまだDATに録音してるような頃で。それを最近、ハードディスクにアーカイヴ化したりはしてるんですが」
 
■ネタへのこだわりはありますか?
「DATで録ってたときからなんですけど、USとイギリスのレコードは使わないっていうルールは、自分に課してますね。それで、世界中の、変わった国のレコードからブレイク・ビーツを探してますね」
 
■それは他の人とネタが被らないためですか?
「いや、音質ですね」
 
■音質、ですか。非常に興味深いです。
「やっぱり、音質が同じになっちゃうんですよね。USのスタジオだとUSの音になるし、イギリスでもそう。それはスタジオ環境とかエンジニアリングとか、いろんな要素があると思うんだけど、その国の音っていうのがあるんですよね」
 
■そういった部分でも均質化しないように、と。……スゴい話ですね。
「RHYMESTERの『ダーティーサイエンス』でプロデュースした曲のネタも、ほとんどが南米モノなんですよね。そうやって、USとイギリスものを避けるだけで、それだけで違いが出るんですよ。だから、使用機材云々以前の、サンプル・ソースからまず音が違うんです。音の入り口からして違う」
 
■は〜。なるほど。
「特に、ソ連や東側諸国など、旧共産圏のレコードは、その国で使えるスタジオって、国営のスタジオひとつか二つしかないから、音質が国で揃ってるんですよね。だから、プロデュースの話をもらって『これはハンガリーの音質がイメージだな』って浮かんだら、ハンガリーのレコード棚からレコードを抜き出して」
 
■概念としてスゴすぎます!「こういうタイプのブレイク」じゃなくて、「この国の音質」というのがチョイスの基準になるんですか。
「そこまで来ちゃってます(笑)」
 
■ただ、USとイギリスのレコードを使わないとなると、「カッコ良いけどUSとイギリスだから使えない」というブレイクもかなり生まれますよね。
「いや、USとイギリスのレコードは、その『ブレイクとしてカッコ良いけど』っていう範疇から離れるんですよね(笑)」
 
■うわ〜(笑)。「ULTIMATE BREAKS & BEATS」とかは使ったことがないんですか?
「どうだろう?昔はあったかもしれないし、必要だったらエッセンスとして使うかもしれないけど、今はまったく。だって、USやイギリスのモノよりカッコ良いブレイクが、他の国にもいっぱいあるから。それに、やっぱり旧共産圏だったり、辺境の国のサウンドは、パターンが変だったり、歪だったりするんですよね」
 
■情報が足りなかったり、遮断されていたり、ガラパゴス化しているからこその独自性というか。
「そういった独特な部分に引っかかるのが、自分にとってのトラック・メイクの一歩目だったりするんで。だから、(先進国などの構造や情報的に)整ったものは、選択肢としてほぼないというか」
 
■北朝鮮のプログレ・バンドのレコードを買われたとTwitterで書かれていましたが、そういうモノの中に、琴線に触れるモノがあると。
「そうですね。そういう中にカッコ良いモノがあるし、それが自分の興味を持ってる部分なので、わざわざUSやイギリスのレコードを探す必要が、今のところはないんですよね」
 
■「幻の名盤解放同盟」にも近いような感覚ですね。
「そうやってまだ誰も発見してない、ネットにも上がってないような物の中に面白い物がいっぱいあるし、そこが興味深いんですよね」
 
■そういったレコードはどのように手に入れるんですか?
「20代中盤〜30代中盤までの10年が、そういった『掘る』って部分では一番濃かったんですけど、その頃に、怪しいレコード屋に行って、情報収集して、そこからディーラーさんに繋がって……っていう流れですね。それで、今みたいにネットが発達してなかったんで、ディーラーとFAXでやり取りしてっていうのをずっと続けてて。そこからまた別のディーラーさんに繋がって……っていうのを繰り返して」
 
■それはMUROさんやD.Lさんが繋がってるようなディーラーとは……。
「まったく違うでしょうね、多分。とにかく世界中の、スゴい音を知ってるディーラーさんっていうのはいるんですよ。でも、『絶対他の人には俺のことを紹介するな』とか言われて。だからTwitterで書いてるようなレコードは、かなりマトモな流れで買った物で、他に絶対書けないような流れでレコード買ったり。最近スゴい変わったレコードを手に入れたんだけど、どんなレコードで、どうやって手に入れたかは絶対言えない(笑)」
 
■は〜……サスペンスみたいな話ですね(笑)。一番辺境のレコードはどこのレコードですか?
「やっぱり北朝鮮とかかな。でも、これだけグローバル化すると、辺境だと思ってた国の情報も入ってくるようになって。だから、一番忘れがちな辺境は、日本」
 
■なるほど。
「日本はまだまだいっぱいありますよ。探すのはスゴく大変だったりするけど。それに、一時はそういうディーラーさんやコレクターさんは、サンプリングに対しては警戒してたんだけど」
 
■ただ変わってるから使う、利用するという風に受け取られる可能性もあるし、サンプリングによって付加価値やプレミアが付くと、確かにそういった人たちにとっては困ったことになりますね。
「でも、そうじゃなくて、元の音源にもちゃんとリスペクトがあって、その上でそれが冒涜にならない形で使ってるっていうのが分ってもらえるようになったんで、マニアの人だけじゃなくて、元のアーティストとも繋がれるようになったり。そうじゃないと、日本モノを使うのは危ないかもしれないですね、もしかしたら。でも、その意味では、クレジットが読めないとか、何語か判断するのさえ難しいような辺境のレコードの方が、クリアランス的には安全というのはありますね。だから、世界の辺境のレコードを調べ出したのは、そういう動機ももちろんあって。なので、サンプリングなのに許可取ってない曲もあるんですけど、それはネタが絶対誰も分からないし、ネタ元の人に絶対届かないから(笑)」
 
■アメリカだったらwhosampled.comだったり、日本でもネタを解析するようなネット・コミュニティがありますけど、そういったサイトを見ても、ツボイさんのネタはRHYMESTER“The Choice Is Yours”ぐらいで、ほとんど出てこないんですよね。
「だから、レコード会社も安心(笑)。“The Choice Is Yours”も許諾が取れたんで、行けるんじゃんって。メジャーに関しては、ちゃんとライセンスを取ってくれるし、ちゃんと許可取るってことが出来るなら、サンプリングほど面白いことはないのになって思うんですけどね。手続きが煩雑っていうのはあると思うんだけど。でも、使える国がどんどんなくなってるっていうのもあるんですよね。JAY-Zの“RUN THIS TOWN”も、ギリシャのサイケ・バンド:THE 4 LEVELS OF EXISTENCE“SOMEDAY IN ATHENS“って曲がサンプルネタで、僕も使おうと思ってたら、被っちゃったネタなんだけど、KANYE WESTとNO.IDは、あの曲のクリアランスを取ったと思うんですよね。そして、そうやって大メジャーが動くと、そういう権利関係の概念があんまりなかった国でも、これはビジネスになるって気付かれちゃって、もうその国の曲は使えなくなっちゃったり。だから、結構使えない国が増えちゃってるし、例えばロシアの曲も、取れる場合は取るようにしてて。南米がまだ大丈夫かなって。僕が得意としてるボリビアとかウルグアイとか」
 
■そこがお得意だったんですね……って分からないですよ。USやイギリスの曲ならまだしも(笑)。
「現地に行って掘りたいんだけど、飛行機が苦手だし、ディーラーからも『とにかく大変』という話ばっかり聞いてて。でも、現地に行けない分『地球の歩き方』は山ほど持ってて、『こういう国だからこういうサウンドになるんだ』って納得したり(笑)。南アフリカのレコードもスゴく興味があるんだけど、ヨハネスブルグの治安の話とか訊くと、まったく行く気が起きなくて。『こんなに殺人発生率高いのか、キツいな』って(笑)。あと、僕はソウルやR&Bをほとんど通過してきてないんですよ」
 
■確かに、今までのお話には出てきませんね。
「実際、僕が使ったサンプリングのネタって、ソウルはあんまりないと思うんですよね。嫌いじゃないんだけど、通過はしなかったっていうか。ただ、そういう人ってHIP HOP界隈には少ないと思うんですよ。家のレコードのライブラリーでも、そんなに多くないですね……といっても、4万枚以上ある中で少ない方だから、普通からすれば多いと思うけど(笑)」
 
■ファンクは如何ですか?
「PARLIAMENTとかFUNKADELICの初期ですね。だから、サイケとかブラック・ロックと近付いてる頃のはって感じで。JAMES BROWNもプログレっぽい頃は好きなんだけど、74〜5年の、音が歪まなくなってからはあんまり好きじゃないかも。そういう、みんなが好きな時代より前が好きなんです(笑)」
 
■JBだと「SHO' IS FUNKY DOWN HERE」など、サイケ色が強い頃はいいけど……という感じですか。
「音質的にもそうなんですよね。だから、74〜5年を過ぎたファンクは僕から言わせるとチャラい。KOOL & THE GANGも“FUNKY STUFF”はチャラいなーって(笑)」
 
■タハハ。“OPEN SESAME“どころじゃないんですね。
「マキさんも、R&Bやソウルをネタにするけど、ちょっと音が歪んでたりするネタが多くて、そういう感覚が近いんです。DJだとガラージや4つ打ちをかけるんだけど、サンプルでは持ってこなかったんですよね。サンプルはもっとグッと年代が上がって古くなっていくというか」
Amebreak伊藤「僕、GO FORCEMEN“COMBO”のブレイクが大好きなんですけど、あのネタはどこの国のなんですか?」
「あれは、メキシコのアイドル・グループのレコードですね。アイドル・グループの疑似ライヴ盤なんだけど、片チャンネルがあのドラムで、逆のチャンネルに歪んだベースが入ってて」
 
■だからあの音像になるんですね。
「そう。どこを取っても“COMBO”のブレイクになるんですよね。“COMBO”と別の場所を使ってるのが、PRIMAL君の“戒壊”ですね。まだまだあのレコードは使える場所はいっぱいあるんですけどね。というのも、バンドでそれなりに上手く演奏できてるのがベースとドラムだけで、そのふたつのパートの部分がやたらと長くて(笑)」
 
■リズム隊のパートが長いなんて、完全にブレイク向けですね(笑)。有名なんですか?
「有名な方だと思うけど……と言っても、僕らの中では、5〜6人知ってたら有名なんで(笑)」
 
■では、次回はそのサンプリングをどのように楽曲にしていくのか、プロデュース/トラック・メイクについてお話を伺えればと思います。
 

PART 2につづく

 

RELEASE INFO
Illicit Tsuboiも制作に関わったECDの新作「FJCD-015」がリリース!

 ECDのレーベル:FINAL JUNKEYでの、今作のリリース・ナンバリングがそのままタイトルとなったニュー・アルバム「FJCD-015」。「伝説でもレジェンドでもねんだ現役なんだ(“When I Retire”)」と、今作でも最前線であることを提示し、Illicit Tsuboiとのタッグで生み出されたビート(ツボイ氏のTwitterによると、「今回も勿論ノーマスタリングでダイレクトMIX仕様。そしておそらく誰もやってない(やらないw)であろう初の試みでもある音によるワイプエンドロール付。リリックインサート有。内容もジャケも最高の1枚デス」とのこと)に言葉を刻み付ける様は、本当にスリリングな一枚だ。

 
 

Illicit Tsuboiプロフィール
1970年生まれ。KCDとのタッグを組んだDJユニット:GOLD CUTでの活動を皮切りに、A.K.I. PRODUCTIONSとしてアルバム「JAPANESE PHYCHO」のリリースなどを展開。以降、キエるマキュウへの参加や、Libra Recordsの諸作、RHYMESTER「ダーティーサイエンス」でのプロデュース・ワークなど、トラック・メイカーとして数々の作品をプロデュース。
国内屈指のロック/HIP HOP系サウンド・エンジニア、サウンド・クリエイターとしても活躍し、ECDとの共作とも言えるアルバム制作や、SIMI LAB、CAMPANELLAなど、ニュー・カマーとの作品制作にも積極的に関与。また、二階堂和美やMANGA SHOCK など、ポップ/ロック系まで、アンダーグラウンド/オーヴァーグラウンドを問わず、幅広いアーティストを手がける。
DJとしてもかせきさいだぁのバックDJを90年代には手がけ、00年代以降も、ECDやキエるマキュウのDJとして活動。「ステージにて観客をアジったり、ターンテーブルを破壊したり火をつけたり、度の過ぎたヴァイナル愛によってレア盤を割ってしまったりと、異様なまでの存在感を見せつけるライヴDJとしても有名」と、オフィシャルのパーソナル・データには書かれているが、その説明に間違いはない。国内屈指のレコード・コレクターでもある。

 
 

Pickup Disc

TITLE : FJCD-015
ARTIST : ECD
LABEL : FINAL JUNKEY
PRICE : 2,700円
RELEASE DATE : 6月4日