株価が低迷している。金融緩和と財政出動は景気の回復をもたらしたが、先行きに不透明感が広がってきたためだ。ただ、ここで再び金融緩和に頼るようならインフレのリスクを抱え込みかねない。
四月以降、日経平均株価は一万四〇〇〇円台前半で低迷を続けている。昨年末に比べて一割以上、安い水準だ。
五月七日に付けた終値一万四〇三三円は、ちょっとした話題となった。昨年五月七日の終値は一万四一八〇円。安倍政権が発足して以来、初めて株価が一年前を下回ったからだ。
安倍政権の経済政策であるアベノミクスは金融緩和、財政出動、成長戦略を「三本の矢」としている。二〇一四年三月期の好決算が示す景気回復は、大胆な金融緩和と財政出動による円安、株高がもたらした。
今、株価が低迷しているのは三本目の矢である成長戦略、中でも経済構造の改革につながる「規制緩和」への期待が揺らぎ、しぼみかけているためだ。「安倍政権には支持基盤を崩すような大胆な規制緩和は実現できないのではないか」との見方が広がって、景気の持続力に疑問符が付き始めた。
株価がこのまま沈むようだと景気が腰折れして、政権の推進力でもある「安定した内閣支持率」まで直撃しかねない。このため、安倍政権の次の動きに株式市場の注目が集まっている。
株式市場には二つの顔がある。ひとつは一年以上先を見越して流れ込み、株価を形成する年金資金などの投資資金だ。中長期の安定的な成長と成果を求めるこの資金は本格的な成長戦略、規制緩和の断行を期待している。
もう一つはマネーゲームの顔だ。日々さまざまな要因で動き、時に乱高下する株価の短期的な変動を捉えて利ざやを稼ぐ。マネーゲームの資金は、実現が怪しい規制緩和よりも、即効性のある「追加の金融緩和」に期待している。
デフレ脱却のため、大胆な金融緩和に取り組む日銀の黒田東彦総裁は、「二年後をめどに2%」という物価上昇の目標を達成できなくなりそうなら「ちゅうちょなく調整する」と、追加緩和も辞さない考えを示している。
だが、六月にまとまる成長戦略にめぼしい規制緩和がないまま、追加の緩和に踏み切れば、あふれるマネーは行き場を失って本格的なインフレのリスクを抱え込むことになりかねない。大胆な規制緩和なき追加緩和は危険だ。
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