九州電力が夏の厳しい電力需給を乗り越えるべく対応に奔走している。本来ならとうに「引退」していたはずの苅田発電所新2号機(福岡県苅田町、出力37万5千キロワット)を重要な電源としてフル活用。東京電力からの融通を加えて、何とかピーク電力に対する供給余力を示す予備率3%を保とうと必死だ。綱渡りの電力需給は今夏も続く。
周防灘を臨む港湾に立地する苅田発電所。ここでは2基の火力発電の保守点検が佳境を迎えつつある。特に入念な検査を進めているのが、稼働からすでに42年が経過した新2号機だ。
高さ70センチメートル、幅50センチメートル。大人がはいつくばってようやくくぐれる程度のボイラーの入り口を通る。そこでは11日の試運転開始に向け、点検に使った足場の取り外しが進んでいた。
燃焼時にはセ氏1200度にもなるボイラーが高温に耐えられるかのチェックを4月下旬から約1200カ所にわたり実施。蒸気をタービンに送り込む管など19カ所を緊急で補修した。
ボイラーの点検と並行して、建屋ではタービンの車軸や軸受けが正常に作動するかの検査が続く。今夏も原子力が稼働しない想定で「老朽火力であろうとも投入せざるを得ない」(神後直樹所長)のが実態だ。
1キロワット時当たりのコストが原子力の18倍かかる石油火力はもともと、電力需要が急増したときの調整弁として使われてきた。だが東日本大震災後、原発が稼働しない状況で利用方法は大きく変わった。稼働率は震災前の10%から40~50%へと跳ね上がり、過酷な負荷がのしかかる。
Jパワーは事故を起こした石炭火力発電の松浦火力発電所2号機(長崎県松浦市、出力100万キロワット)を出力40万キロワットに絞って稼働させると5月末に発表した。九電が受け取れるのは15万キロワットほどで、安定供給ギリギリとされる3%からの改善幅は1%弱にすぎない。
政府からは24万キロワット以上の予備力の上積みを求められている。Jパワーの松浦発電は4つあるタービンのうち破損した1つに蒸気を通さないという当初想定していなかった特殊な方法で発電を再開しようとしている。「(供給力を)確実に見込めるかは分からない」(九電)という。
周波数帯の違う東京電力からの20万キロワットの融通を折り込んだ上での綱渡りの「予備率3%」を予想する九電。ボイラーなどを2年に1度点検する「法定点検」を夏場のフル稼働の時期にかからないように繰り延べながら需要拡大に備えている。
夏場は気温が1度上がるだけで電力需要が40万~50万キロワット上昇するといわれる。電力需給に不安を抱える九州に間もなく本格的な夏が訪れる。(豊田健一郎)
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