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結婚はオワコン? 「トイストーリー」の家庭に父親がいない理由

cakes 6月3日(火)17時33分配信

映画、「トイストーリー」には父親がいっさい登場しません。いったいなぜなんでしょう? 現実に増える片親や未婚のままの家庭。誰しもが「自分のキモチ」でいっぱいの時代に、僕らはどうしたら良きパートナー、良き親になりうるんでしょうか?

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●「トイストーリー」にはなぜ父親が登場しないのか?

 そんな分析記事が、ハンプトンポストの英語版に掲載され、ちょっとした話題になっています。確かに、「トイストーリー」には父親が登場しません。「トイストーリー1」では引っ越し、「2」ではアンディのサマーキャンプ、そして3では彼の大学進学といった家族の重要なイベントがバックストーリーになっているのにも関わらず、どのエピソードでも、お父さんの姿がどこにも見当たらないのです。

 「1」のお話に登場する下の子モーリーは、生まれて間もない赤ん坊です。ですから母親はまだこの子を生んだばかりなのでしょう。しかし、クリスマスのプレゼントを運ぶお母さんの指には、結婚指輪が見当たりません。

そして、壁にかけられた写真にも、お父さんが写っているものが一枚もないのです。

 この状況に対する説明として、次の3つが考えられます。ひとつはお父さんとの死別。2つめは両親の離婚。そして3つめは、そもそも母親がシングルマザーだったとするものです。

●現実を映し出す映画の世界

 愛し合う男女が結ばれて、幸せな家庭を築く。そんな分かりやすいロマンスのカタチは急速にオワコンになりつつあるようです。観客動員数750万人と世界的に大ヒットしたピクサーの最新作「アナと雪の女王」には、男女の愛が成就するシーンがないのです。それどころか、男女のシーンはどれもこれもまるで夢がありません。映画が始まった途端に両親が死んでしまうし、アナが一目惚れする王子様は最低野郎です。エンディングもまた、男女が家庭を築いていくという未来を暗示しないまま終わります。オトコになんか頼らず、姉妹が支え合って生きる。この大ヒット映画は、そんなたくましいオンナたちの物語なのです。

 そして現実は、アニメの世界を追随しつつあるようです。いや、現実があるからアニメもこういうストーリーになるのか……。子供の行事で学校に行くと、別れた両方の親が来ている……。僕が今住むアメリカでは、そんな風景が珍しいものではありません。そして兄弟、姉妹たちで近くに住み、お互いを支え合う。これもまた、現実によく目にするカタチなのです。  シングルマザーは年を追って増え続け、日本と同様、晩婚化は着々と進んでいます。その一方、同棲や事実婚という新しいカタチの家族も増えてきました。

 こうした社会の変化に伴って、アメリカ人の家族観は、ここ数十年で大きく変化しました。両親が手を取り合って家庭を築き、日曜日には子供を連れて教会。かつて「Family」という言葉がもたらしたそんなイメージは、急速に形骸化しつつあります。Pew Research Fundation が実施したアンケートによると、86パーセントが、「片親と子供だけ」の組み合わせを、そして 80パーセントが同棲カップルと子供の組み合わせを「家族と見なす」と回答。また、実に63%が、「同性愛者のカップルと子供」の組み合わせを「家族である」と答えているのです。
 こうして結婚という制度が形骸化し、「家族」の形態が多様化していく。それが未来の姿なのでしょう。結婚はオワコンか?(Is Marriage Becoming Obsolete? )という質問に対しては、実に39パーセントもの人が「YES」と回答したのです。

パートナーに求められる役割
 では、そんなふうに多様化する家族の中で求められる「親」、あるいは「配偶者」/「同居人」の役割とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

 ひとつヒントになるのが、前述のアンケートに含まれていたこんな質問です。

 「『良き配偶者』をなす重要な特質とはなにか?」

 そこに寄せられた回答は、次のようなものだったのです。

1. よき親であること
2. 思いやりがあり、情け深いこと
3. 何よりも家族を優先すること
4. 良きセックスのパートナー
5. 収入がよいこと
6. 教育程度が高いこと
7. 家事に長けていること

 僕がこのアンケート結果を見て一番意外に感じたのは、「家事に長けている」が最下位だったことです。家事を手伝う夫。それは今や、夫に欠かせない最低限の義務のような言われ方です。日本でさえそうなのに、なぜアメリカでこれが最下位なのか? もしかすると、家事を分担することは、もはや当たり前だから最下位なのかもしれません。あるいは食洗機も乾燥機も、冷凍食品も普及しきっているアメリカでは、家事労働がさほどのウエイトを占めないのかもしれません。

 また「収入がよいこと」が5位なのも意外でした。そこで改めて思ったこと。それは現在が物質的には豊かな「キモチの時代」であるという事実です。物質的に満たされていなかった時代には、食うや食わずに精一杯で、収入が何よりも、重要だったのかもしれません。でも今は、「自分のキモチ」こそが何よりも大事なのです。だから上位にくるのは、1)よき親であること、2) 思いやりがあり、情け深いこと、3)何よりも家族を優先すること、4)よきセックスのパートナーと、どれも「キモチ」に関わる項目ばかりです。

●「良き親」とは?
  一方、最上位にきた「よき親であること」は、果てしなく難しいものです。学校の事情を把握する。先生と顔見知りになる。子供が付き合っている友達を知る。宿題を見てやる。そして子供たちにとって良きロールモデルになる。別にここに書いた条件が絶対というわけではありません。しかし、子供に関わるということは、実際にやってみると、たくさんの時間と忍耐を要するものです。良き親になるということは、「何よりも家族を優先する」という原則を貫いていかないと、なかなかできないできないものです。

 2位の「思いやりがあり、情け深いこと」も、自分の全人格が問われるような項目です。「自分のキモチ至上主義」の時代なのに、「自分のキモチ」を2番にしてパートナーや子供の「キモチ」を最優先にする。そんなことが果たして可能なのか? アメリカでも離婚が増え、晩婚化が進んだそもそもの原因は、「自分のキモチ」こそが何よりも大切になったからだと思うのです。

 しかし、もしかするとこのパラドックスは、お互いがお互いを思いやることで、解決しうるのかもしれません。双方向でお互いに思いやる。そうすることで、結果的に「自分のキモチ」も救われていくのです。家族の形態がどんなものであるにせよ、「お互いを思いやる」という、ごく当たり前の在り方にこそ、暖かい家庭を築く鍵があるのかもしれません。

●ウッディはどこから来たのか?
 話をトイストーリーに戻しましょう。

 作中でアンディにプレゼントされる「バズ」は、おそらく母親が買い与えたものです。では、ウッディのほうは、いったい誰が買い与えたのでしょうか?

 トイストーリーのディレクター、リー・アンクリッチ氏の両親は、彼が10歳の時に離婚したそうです。そしてこの質問を受けた氏は、こんなふうに答えたのです。

「もしかするとアンディがウッディを特別に大事にするのは、彼がウッディをお父さんから貰ったからかもしれない。」

 ウッディとバズの反目と、その先に芽生える相互に対する尊重と思いやりは、もしかすると、お父さんとお母さんに元に戻ってほしいという、アンディの願いを表したものかもしれません。あるいは、「親」に必要とされる、お互いを尊重し、思いやることの重要さを描いたものなのではないでしょうか?

松井博

最終更新:6月3日(火)17時33分

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