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1.1号機の非常用復水器(イソコン=IC)について長々と書いてるが、事故発生当時の例えば2011年の3~4月の東電会見等で、非常用復水器(IC) について(作動の可否はともかく)話題になっていたか? そもそも11年3月11~12日で大騒ぎだったのは、1号タービン建屋での放射線の上昇と、格納容器の圧力上昇によるベントの話でしょ?

個人的には、はじめに『Journalism』6・7月号の奥山記者の文章(「福島原発事故 発表と報道を検証する」)を読んだ時に、一番の感想は、なんでこんなに長々と1号機の非常用復水器(イソコン=IC)について書いてるの? 当時の報道にとって検証すべきなのはそこじゃないんじゃないの? と思われました。

実際、私が熱心に見ていた事故直後からの11年の3~4月での東電や保安院の会見の範囲では、積極的に非常用復水器(IC)について記者の人達が追求したり、政府や東電が発表しているのを見たり聞いたりした記憶がありませんでした。

会見内容をツィートしていた たかよし氏@ystriceraツィートを検索してみても、非常用復水器(IC)が会見ではじめに登場するのは11年5月16日です。(←※11年5月15日の誤りです、スミマセン(修正12/10/6))
(これは東電が11年5月12日に1号機はメルトダウンし、それによって圧力容器下部が損傷していると発表した更に後の話です。)


<参考>
・1号機は「メルトダウン」…底部の穴から漏水 11年5月13日 読売新聞
 東京電力福島第一原子力発電所1号機で原子炉内の核燃料の大半が溶融し、高熱で圧力容器底部が損傷した問題で、東電は12日、直径数センチ程度の穴に相当する損傷部から水が漏れていると発表した。
             ↓
・非常冷却 津波前に停止 1号機 11年5月17日 東京新聞
 福島第一原発事故で東京電力は16日、非常時に原子炉を冷やす1号機の非常用復水器が、本震直後から約三時間にわたり止まっていたとの調査結果を公表し た。東電はマニュアルに従って止めた可能性を強調しているが、津波ではなく、地震の衝撃による不具合だった可能性がある。1号機は後に炉内の温度が上が り、炉心溶融を起こしている。



つまり、東電が1号機のメルトダウンや圧力容器の損傷を認める前には1号機の非常用復水器(IC)の動作の可否については振り返って触れられておらず、公表されたデーターから非常用復水器(IC)の動作の可否を読み解くことなく、発表に促されるままであって、報道機関は2ヶ月間もなんら非常用復水器(IC)に関心を示してこなかった姿がここに読み取れる気がしています。

(※1号機の水素爆発後、5月12日の1号機メルトダウンを東電が認める前に、大手の報道機関が非常用復水器(IC)の動作の可否について追及している記事等がありましたら、ご指摘下さい、訂正します)


ところで、当時、非常用復水器(IC)が動作していると考えたから、1号機について「全体としては、現実の深刻さを十分に反映しない甘い認識の紙面づくりとなった」(6月号p.74)のか? その分析は正当か?

それは間違っていると思われてなりません。



時系列的には、まず、「1号機…の非常用炉心冷却装置について、注水流量の確認ができない」為に11年3月11日の16:36(午後4時36分)に原災法第15 条第1項の通報が行われます。

その後一旦1号機については解除されますが、17:07(午後5時7分)に再び適用されます。

<参考>
・原子力災害対策特別措置法第15 条第1項の規定に基づく特定事象の発生について 
東京電力 11年3月11日

(抜粋)

1号機および2号機の非常用炉心冷却装置について、注水流量の確認ができないので、念のため午後4時36 分に、原子力災害対策特別措置法第15 条第1項の規定に基づく特定事象が発生したと判断しました。同項に基づき経済産業大臣、福島県知事、大熊町長および双葉町長ならびに関係行政機関へ通報しました。
その後、1号機については水位監視が回復したことから、原子力災害対策特別措置法第15 条第1項を解除しましたが、再度、1号機について午後5時7分に、原子力災害対策特別措置法第15 条第1項の規定に基づく特定事象を適用しました。

・平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震について 
政府 緊急災害対策本部 11年3月11日20:30
(p.2)
(抜粋)
原子力発電所事故の状況


16:36 1、2号機に関し、非常用炉心冷却装置注水不能(原災法15条報告事象)
     ※注水状況が分からないため、念のために同法15条に該当すると判断

ところが、(奥山記者も指摘(6月号p.65)しているように)、東電は、再度の第15 条第1項の規定に基づく特定事象適用17:07の2時間後である)11年3月11日の19:00(午後7時)に、そして以降21:00(午後9時/発表は午後9時55分)、12日の0:00(午前0時/発表は午前0時30分)に、1号機は「非常用復水器で原子炉蒸気を冷やしております。」との発表を行います。

<参考>
・福島第一原子力発電所のプラント状況について 東京電力 11年3月11日 午後7時現在
(抜粋)
1号機においては、非常用復水器で原子炉内の蒸気を冷やしており…

・福島第一原子力発電所プラント状況等のお知らせ 東京電力 11年3月11日 午後9時現在
(抜粋)
1号機(停止中)
 ・原子炉は停止し、非常用復水器で原子炉蒸気を冷やしております。

・福島第一原子力発電所プラント状況等のお知らせ 東京電力 11年3月12日 午前0時現在
(抜粋)
1号機(停止中)
 ・原子炉は停止し、非常用復水器で原子炉蒸気を冷やしております。

しかしこのような発表によって1号機が健全だと思った記者は、少なくとも未明以降はいなかったと思われます。

なぜなら、政府が12日の02:30(午前2時30分)に、「12日00:00 1号機に関し、非常用腹水器で原子炉蒸気を冷やしております」と公表したのと同時に、
「11日23:00 1号機に関し、タービン建屋内で放射線が上昇」
「12日00:30 1号機に関し、ドライウェル(格納容器)圧力が600Kpa(設計上の最高使用圧力:427Kpa)を超えている可能性
があるため、調査中」

と公表し、もしかしたら格納容器が圧力過多で破損してしまう可能性がある(設計圧力を173Kpaも超過している!)という、とんでもない情報が飛び込んできたからです。

<参考>
・平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震について 
政府 緊急災害対策本部 11年3月12日02:30
(p.3)
(抜粋)
原子力発電所事故の状況

11日
23:00 1号機に関し、タービン建屋内で放射線が上昇


12日
00:00 1号機に関し、非常用腹水器で原子炉蒸気を冷やしております

00:30 1号機に関し、ドライウェル(格納容器)圧力が600Kpa(設計上の最高使用圧力:427Kpa)を超えている可能性があるため、調査中

事実、奥山記者自身も文章(6月号p.72)で、
「日経新聞の12日朝刊の遅版の記事は「東電福島事務所によると『1号機の建屋内で放射線レベルが上がっている』」と報じている」
「東電本店で12日未明に開かれた記者会見で、圧力が600キロパスカルに上がった事実が発表され、毎日新聞と読売新聞の12日付朝刊の1面の記事はそろって「原子炉圧力上昇」を見出しにした」
と書いています。

朝刊の記事に間に合っているという事は、政府の12日の02:30(午前2時30分)発表以前に、1号機のタービン建屋の放射線上昇も、格納容器圧力上昇と共に、情報として記者らに知られていたという事になります。

つまり、「非常用復水器で原子炉蒸気を冷やして」いて安全だという認識は、たかだか11日19時~12日0時前後の5時間前後しかもっていないという事です。

その後1号機に関する当時の報道は、格納容器圧力上昇と、建屋の線量上昇という緊迫感に包まれていったと記憶しています。


そして奥山記者も触れていますが(6月号p.66)、東電は11年3月12日の午前4時15分に、
「3月12日午前4時現在…、非常用復水器で原子炉蒸気を冷やしておりましたが、現在は停止しています。…」
と発表します。

<参考>
・福島第一原子力発電所プラント状況等のお知らせ 東京電力 11年3月12日 午前4時現在
(抜粋)
1号機(停止中)
・原子炉は停止し、非常用復水器で原子炉蒸気を冷やしておりましたが、現在は停止して
います。



その後はベントを早くしろ、という話で大騒ぎになりました。

<参考>
原発の空気放出 見通し立たず NHK 11年3月12日 午前6時18分

東京電力は、福島県にある福島第一原子力発電所1号機について、原子炉が入っている格納容器内の圧力が高まっているため、容器内の空気を外部に放出する計画ですが、周辺地域で停電が続いているため、放出に向けて装置を動かすのに電気が確保できず、放出する見通しは立っていません。

原子力安全・保安院によりますと、圧力は午前5時すぎまでに最大で通常の2倍の8気圧ほどに高まっています。

また原発の運転員がいる「中央制御室」と呼ばれる部屋では、格納容器の圧力が高まっている影響で、放射線の値が通常のおよそ100倍まで上がっているということです。

私達も鮮明に、1号機の格納容器の圧力を下げる為のベントがちっとも上手くいかないので、菅総理が12日の早朝に、官邸からヘリで福島第一に状況確認の為に飛び立ち、大騒ぎになっていた事を記憶していると思います。


「IC(非常用復水器)の機能不全を疑い、その疑いを記事に盛り込んだり、その原因について東電に問いただしたりするべきだったのかもしれない」(7月号p.77)
とか書かれてますが、非常用復水器の動作の可否なんて、当時問題視してました、皆さん??


当時大騒ぎしていた関心の対象は、格納容器圧力の上昇であり、格納容器の破損の回避であり、遅々として進まなかったベントであり、なぜ格納容器圧力が設計圧力の2倍にまで上昇しているかの原因であったはずです。


私には、長々と1号機の非常用復水器(IC)について奥山記者が書いているのか、当時の報道検証の文章としては、さっぱり理解が出来ません。


NHKも、NHKスペシャル「シリーズ原発危機 第1回 事故はなぜ深刻化したのか」を、11年6月5日に放送しますが、1号機の非常用復水器(IC)には、一切触れる事はありませんでした
東電が「1号機の非常用復水器が、本震直後から約3時間にわたり止まっていたとの調査結果を公表」した11年5月16日以降の放送であったにもかかわらず)


ところで、その第1回放送(途中に数回原発事故に関する放送はあった)から半年も後の11年の暮れである12月18日に「シリーズ原発危機 メルトダウン  ~福島第一原発 あのとき何が~」が放送され、NHKスペシャルはそれまで触れてこなかった1号機の非常用復水器(IC)に、突然触れはじめます。

そして、次の言葉を同時に流しています。
「シリーズ原発危機 メルトダウン  ~福島第一原発 あのとき何が~」 
NHKスペシャル 11年12月18日

二ノ方壽 東工大教授(原子炉物理)
(1号機の非常用復水器(IC)を作業員が止めてなければ)(原子)炉容器が破損することはあり得ない 格納容器も壊れることはない、と思います。 ほとんど放射性物質の放出はなかった、と考えていいと思います。 IC(非常用復水器)が働いていれば、という条件ですけどね
(発言の書き起こし、下の字幕とは少し違います)
NHKスペシャルIC 1NHKスペシャルIC 2























私は、この突然、昨年末に出てきた、1号機の非常用復水器(IC)に注目をさせる番組に、IC停止の問題にのみ事故拡大の要因があるかのように思わせる意図を感じ、事故を矮小化させようという思いを少なからずそこに感じました

今回の奥山記者の文章は、長々と1号機の非常用復水器(IC)について書くことでこのNHKスペシャルや二ノ方教授の「(ICが動いていれば)炉容器が破損することはあり得ない、格納容器も壊れることはない」「ほとんど放射性物質の放出はなかった」との主張延長上にあって、暗に事故を矮小化する思いが込められている気が個人的にはしました。

(私は1号機の非常用復水器(IC)が止められていなければこのような事故は起こらなかったとは思っていません。 なぜなら非常用炉心冷却装置が作動した2号機、3号機も、同様に破損したので)


100歩譲って事故の拡大を防ぐ方策は無かったのかを探る為に、二ノ方教授の言葉の是非を検証する必要はあるかと思います。
しかし、これだけの事故を起こしたのは、政府や電力会社が、全電源喪失事故の想定を(避難も含めて)全くしてこなかったのが大きな要因であり、非常用復水器(IC)の停止問題にのみ大きく焦点を当てるのは全く間違っていると思っています。


そんなことよりもそれ以上に、1号機の非常用復水器(IC)の作動の可否は、当時の報道問題の大きな要因とはなりえないはずです。


1号機のベントは、11年3月12日14:30に格納容器の圧力低下が確認され成功(←東京電力・東北地方太平洋沖地震発生当時の福島第一原子力発電所プラントデータ集 7.各種操作実績取り纏めしますが、その後1号機は12日15:36に水素爆発を起こします。


当時の報道は、1号機において
建屋の線量上昇
  ↓
格納容器(D/W)の圧力が設計圧力(0.427Mpa)の約2倍約8気圧(0.840Mpa)に上昇
  ↓
ベント作業の困難
  ↓
ベント直後の水素爆発
と切迫していたはずです。

そしてなされるべき当時の報道に対する検証は、それらの個々の重大な現象に対してその後東電が11年の5月11日に1号機のメルトダウン→圧力容器の破損を認める以前にその要因を真摯に探っていたのかが、問われると思います。

そのただ発表の報道に流されてきたと私達に思わせている姿勢を、徹底的に検証する事が、報道検証として望まれているのではないでしょうか?

奥山記者の、非常用復水器(IC)に長々と焦点を当てたこの文章は、個人的にはちっとも当時の1号機の報道に対する検証の文章になっておらず、ただ非常用復水器(IC)が作動していれば問題はなかったのだ!という、事故を矮小化させる主張を、強化する文章にしかなっていないと、思われてなりません。


このような奥山記者の文章は、当時の会見を真摯に追い、報告書に当たって、じわじわと事実に迫ろうとした人々を騙す事は出来ないのでは? と個人的には考えています。

(まだまだ、ぼちぼち、続きます‥)