続々と増える慰安婦碑
原告が厳しい立場に立たされている三つ目の理由は、原告には全く追い風が吹いていないことだ。組織化された韓国系団体の勢いは、収まるどころかますます増している。全米で六つ目の慰安婦碑(像)が5月30日に南部バージニア州フェアファックス郡の郡庁舎敷地に建てられた。さらに五大湖地域のデトロイト近郊にも6月中に新たな慰安婦碑が設置されようとしている。
南部州とはいえ、フェアファックス郡は首都ワシントンに隣接する人口約112万人の首都圏の町。アジア系の人口は約18%、うち韓国系は約40%を占める。首都圏に住みついた初期の移民は、当時の朴正煕独裁政権に反発してに亡命した政治家や官僚が多かったとされる。政治色の濃い韓国系は、「韓国系アメリカ人の声」「ワシントン挺身隊問題対策協議会」「韓国民主平和統一ワシントン協議会」といった団体を結成。「韓国系有権者8万」を武器に、バージニア州議会やフェアファックス郡議会に対するロビー活動を続けてきた。
その成果が、バージニア州が使っている教科書に「日本海」と「東海」(韓国名)の併記を義務づける法律の制定である。今回の慰安婦碑設置も、これらの団体が長年にわたり「票」と「カネ」を使ったことが可能にした業だった。慰安婦碑を増やすことでグレンデールの慰安婦像撤去の動きを封じ込める戦略なのだろう。
("'Comfort Women' monument to be set up near D.C." Yonhap News Agency, Global Post, 5/27/2014)
外務省は「政治的、外交的問題にせぬ」と傍観
これに対して日本の外務省は、「慰安婦碑問題を政治的、外交的問題にしない」との立場を終始取り続けてきた。これを受けて在外公館の総領事たちも、慰安婦像を設置しようとする地方自治体に対して、慰安婦碑設置をしないように事前に陳情はしているのだが、まったく無視されている。「へたに動くと、地元メディアに『日本政府が圧力をかけた』と言われるのが関の山」とふてくされる在外公館関係者もいる。
となれば、在米邦人の「撤去提訴」についても日本外務省の在外公館の対応は冷ややかだ。
南カリフォルニア地域を管轄しているロサンゼルス総領事館も筆者の質問に対して「慰安婦像撤去に立ち上がった在米邦人の心情は理解できる」としながらも、提訴に対する直接のコメントは避けた。側面支援はおろか、支持表明すらしていない。
日系、韓国系弁護士会の共同声明についても、「出されたことは承知しているが、現在進行している訴訟に影響を与える可能性もあり、コメントは差し控えたい」(ロサンゼルス総領事館の倭島岳彦広報担当領事)と慎重な態度に終始している。
現在、在米邦人・日系社会でボランティア活動を続けているA氏は、「動かぬ総領事館」について、外務省は敗訴した時の影響を考えているのではないかと指摘する。同氏はロサンゼルス在住40年、元大手流通企業の元駐在員でその後アメリカに帰化している。
「政治的、外交的問題にしないというが、慰安婦碑問題はアメリカではまさに社会問題になっているのではないのか。総領事館は何をやっているのか、という批判も聞くが、総領事もしょせん外務省の職員の一人。政府が決めた枠の中でしか動けない。ただこの裁判は始まる前から、予測していなかった事態が次から次へと起こっている。原告もそれほど深い考えや戦略があって起こした提訴とは思えない。それゆえ、総領事館は敗訴した場合のことも考えて、あえて支援も支持もしないのではないかと思う。敗訴すれば、それこそ連邦地裁は慰安婦問題でグレンデール市当局、つまり韓国系の主張にお墨付きを与えることになってしまう。あくまでも民間人の訴えであり、日本政府は関与していないというスタンスなのだろう」