« 『週刊東洋経済』6月7日号 | トップページ | 紺屋博昭「労働行政のあっせん制度と裁判所の労働審判との地域的連携について」 »

2014年6月 3日 (火)

日本航空事件と整理解雇の年齢基準

本日、日本航空事件(客室乗務員)の高裁判決があり、控訴棄却となったようです。

この事案については、会社更生中にも整理解雇法理がそのまま適用されるのかがもっぱら関心事となり、外国にもっていったら真っ先に関心の集まるはずの労働組合差別は(少なくとも世間的には)あまり関心事でないあたりに、日本の特殊性が出てますな、というのが昨年の『世界』に書いた論文でしたが、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/sekaikaiko.html「「労使双方が納得する」解雇規制とは何か──解雇規制緩和論の正しい論じ方」

・・・この解雇に関する日欧の常識の乖離が露呈したのが、日本航空(JAL)の整理解雇問題であった。JALの労組は国内向けには整理解雇法理違反だと主張していたが、国際労働機構(ILO)や国際運輸労連(ITF)にはそんなものが通用しないことがわかっているので、解雇基準が労組に対して差別的だという国際的に通用する主張をしていた。ところが、それを報じた日本の新聞は、記事の中では「2労組は、整理解雇の際に『組合所属による差別待遇』『労組との真摯(しんし)な協議の欠如』『管財人の企業再生支援機構による不当労働行為』があったと指摘。これらは日本が批准する結社の自由と団結権保護や、団体交渉権の原則適用などに関する条約に違反すると主張している。」とちゃんと書いていながら、見出しは「日航2労組『整理解雇は条約違反』ILOに申し立て」であった*1。残念ながら、「整理解雇は条約違反」ではないし、そんなナンセンスな申し立てもされていないのである。

実はその関心のあるはずの整理解雇法理に関しても、日本国内の関心は諸外国に持ち出したら一番関心を持たれそうなことにはてんで興味がないというのが、先週「WEB労政時報」に書いた話です。

https://www.rosei.jp/readers/hr/article.php?entry_no=221(整理解雇における年齢基準の容認)

 去る5月10日付けで刊行した『日本の雇用と中高年』(ちくま新書)は、ここ十年ほど労働論壇を風靡してきた「中高年が既得権にしがみついていい目を見ているから若者はその割を食ってひどい目に遭っているのだ」というような煽情的な議論がいかに間違っているかを、雇用システムの根本から解きほぐしながら解説した書物です。
 その中には、日本の労働法制に対して多くの人々が何となく抱いている先入観がいかに誤っているかを説明した部分もかなりありますが、その中でも特に労働法関係者に読んでいただきたいのは、「第1章 中高年問題の文脈」「四 中高年受難時代の雇用維持政策」の最後の項「年齢基準の容認」です。

その年齢基準の容認の最近の典型的な実例が、まさにこの日本航空事件判決なんですね。

このことについては、最近東海大学の渡邊絹子さんが「整理解雇における年齢基準の合理性判断」(『東海法学』第48号)で書かれていて、私もなるほどと思ったところです。

本日の判決がどういう判決文になっているかはまだわかりませんが、概ね地裁の理屈を繰り返していると思われます。

・・・ こういう判決の動向を見る限り、年齢に基づく雇用システムとしての日本の労働社会はまだまだ強固に続いているようです。そして、整理解雇法理がしっかりしているから正社員の雇用は安定しているなどという思い込みは、その根っこの部分で実は中高年労働者の雇用をそれほど守ってくれるものではないのだという冷厳なる事実をきちんと語らないままに、依然として多くの人々を捉えて放さないようです。

日本の整理解雇法理は、解雇を回避せよとうるさく言うけれど、もう回避できないとなれば、歯止めがなくなって、外国にもっていったらとても許されないようなことでもできちゃうという側面もあるわけです。

|
|

« 『週刊東洋経済』6月7日号 | トップページ | 紺屋博昭「労働行政のあっせん制度と裁判所の労働審判との地域的連携について」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/3288/56394341

この記事へのトラックバック一覧です: 日本航空事件と整理解雇の年齢基準:

« 『週刊東洋経済』6月7日号 | トップページ | 紺屋博昭「労働行政のあっせん制度と裁判所の労働審判との地域的連携について」 »