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食品サンプルが手作りの手芸作品という店があったのです。すごいよ。
富山県を旅行中、さて昼飯でも食べに行こうかとなったときに、その地に住んでいる友人が、「サンプルがおもしろい店があるからそこにしよう」というので、何気なくいった店が想像の遥か斜め上を行くおもしろさだった。
ショーケースに置かれたフルーツパフェのサンプルを見て大笑いしたのは、生まれて初めての経験である。 食堂のサンプルが手作りの手芸作品に笑う友人に連れられてやってきたのは、富山県氷見市にある、食事処よしだや。
商店街の中程にある、地元の人達が御用達にしているようなお店なのだが、ここの食品サンプルがおもしろいらしい。 おもしろい食品サンプルってどんなだ。古くからやっている店でたまにある、色あせてしまって実物から離れてしまったタイプのやつだろうか。 手前には一押しらしい商品が写真で張られている。問題は奥にあるショーケースの中だ
ドキドキしながらショーケースを見てみるが、普通にきれいな食品サンプルが並んでいるだけのようだ。
想像していたものとは全然違う。おもしろ要素はどこなんだい? あれ、普通だよね。
しかし、近づいてみると、なにか違和感を感じる。
なにかがおかしい。 よく見る食品サンプルと、なんだか質感が違うような。
その正体に気づいて、思わず笑い出してしまった。
全部のサンプルが、味わい深い手芸でできているのだ。 まさかのフェルト。フェルトというフェイントである。そうきたか。 サラダカツ丼ってなんだよっていう疑問以上に湧き上がる、なんでフェルトなんだよという疑問。
じっくりと見学してみようこれはじっくり見なければと、お店の方に断わって、ショーケースのガラス扉を開けさせていただく。
ガラガラガラ。この距離だと普通の食品サンプルに見えるでしょ。
顔を近づけてアップで見ると、一つ一つの食品サンプルの芸の細かさがよくわかる。
最初はなんで食品サンプルが手芸なんだよと思ったのだが、見ているうちにだんだんと、食品サンプル手芸というジャンルが存在してもいいじゃないかと、応援したい気持ちになってきた。 さすがにフェルトや毛糸では再現しづらい料理のもあるようで、それが逆にこれの実物はどんなだろうと、想像する楽しみを与えてくれる。もう私にはこのサンプルに対して、肯定的な考えしか浮かばない。 これは食品サンプル手芸の玉手箱やー(彦麻呂風に)。
左のは落雁ではなく大きさ的にご飯なのかな。ウドンの上に乗っているのは、ナルトではなく富山名物の巻きカマボコと推測。
全体的にかわいいエビフライ定食。特にポテトサラダが絶妙。
一瞬オムレツかと思ったけれど、よく見たらロースカツだった。エビフライと衣の素材が一緒のところにリアリティを感じる。
煮タマゴかチャーシューか迷うところだけれど、たぶんチャーシュー。ナルトっぽいのは巻きカマボコだと、うどん定食で学習済みだぜ!
オリジナル商品となると、ここから実物を想像するしかない。肉団子じゃなくて魚のすり身なのか。
すべての材料までハッキリとわかるナポリタン。麺類と食品サンプル手芸の相性はバッチリだ。
タコの足の数が8本だが、ソーセージを八分割するのは至難の業。実際の料理に合わせるのではなく、うっかり本物のタコに合わせたのではと妄想が膨らむ。
見る側のイマジネーションを刺激する表現力!料理名がないと、ぜんぜんわからない!
おままごとセットのようなお弁当。ウサギのリンゴがチャームポイントだな。
あぁ、素晴らしき哉、食品サンプル手芸の世界。
店側もうっかり張り紙で、料理ではなく食品サンプルの宣伝をしてしまっている。なかなかの本末転倒っぷりだ。 手作り料理の宣伝かと思ったら、サンプルの告知!その気持ちはよくわかる!見てほしいよね!
これを作った人に話を聞いてみましたうっかりショーケースの前でだいぶ時間を使ってしまった。
もちろん食品サンプルを見ながら注文する料理を迷ったのではなく、食品サンプルそのものを楽しんでしまったのだ。 サンプルを前にして、何を食べようかという発想は、まったく沸いてこなかった。 ようやく入店しました。
この店を案内してくれた友人が、あの食品サンプルを作った人と知り合いだというので、ちょっと話を伺わせていただいた。
あれを作ったのは、この店の厨房で20年以上働いている三浦さん。キッチンからショーケースまで、守備範囲が幅広い。 「食後にコーヒーを頼むなら、ドリンクバーがお得ですよ!」
この食品サンプルが登場したのは1年前だそうで、それまで使っていたものが古くなって汚れてきてしまったので、孫のオモチャにとフェルトでドーナツなどを作っていた三浦さんが、では私がやってみましょうと作り始めたのだそうだ。
複雑な立体成型は、使っていた食品サンプルから型紙を作って再現したそうだ。すごいすごいすごい。 あの独特の温かみは、創作の原点が「孫のため」だからなのか。そして三浦さんの趣味が手芸ではなくプラモデルだったら、あそこにはプラモデルの食品サンプルが並んでいたかもしれないのだ!
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