リアル志向とエッジの効いた画力に圧倒。気合の入ったアウトロー・アクション「バウンスアウト」
アウトローな話題にいつも興味津々だ。裏社会の小説なんかを書いているせいか。今回はそんな話。
たとえば……大物芸能人と暴力団の黒い交際、酔った芸能人が思わず大暴れ、こわいこわい組織暴力などなど。日本の裏側を覗いてみたい、禁忌を知りたいという覗き魔的な欲望が抑えきれないでいる。家の本棚は、「タブー」「闇社会」「裏の仕事」「恐怖」「凶暴」「危険地帯」といった言葉で埋め尽くされたコンビニコミックだらけである。あれも一度掲載したマンガを、何度も名前を変えて売るものだから、「また、載っているよ。これ……」などと、ため息をつくことしばしばなのだが、相変わらず見かければ買ってしまう。
コミック界でそのあたりの欲求を満たしてくれる残酷社会派コミックの名作『闇金ウシジマくん』も、最近では一家を丸ごと洗脳する冷酷非道な詐欺師&占い師を登場させ、どこかで耳にしたことのある凶暴な事件をモチーフにした物語を展開させていた。シリーズ中もっとも凄惨な仕上がりとなっていたと思う。
今回、取り上げるのは『バウンスアウト』(原作・西条隆男 漫画・東元俊也 講談社)だ。裏社会の本場・六本木の危険な香りを感じさせるリアル志向のアウトロー・アクションであります。
物語は冒頭、六本木のクラブのVIPルームでくつろいでいた男性を、アウトロー集団“暴走連合”のメンバーたちが、バットで滅多打ちにするところから始まる。久里浜少年院を出院したばかりのケンカ大好き少年・大和壮兵は、不良時代の兄弟分である仲間と出院祝いの最中、そのリンチ事件に遭遇することになる。侠気あふれる壮兵は、“暴走連合”に立ち向かい、事件に巻きこまれてしまい、やがて凄腕ヤクザの超野に拾われる、という物語。
あきらかに、悪名高い関東連合が関与したと見られる「六本木クラブ襲撃事件」(クラブの来店客だった当時31歳の男性が、バットを持って乱入してきた10人くらいの目出し帽姿の男たちに、袋叩きにされて殺された)を題材に、現在の六本木を中心に、暴力団や企業舎弟、半グレ集団の蠢きをディテール豊かに描いた野郎コミックだ。
暴対法や暴排条例で身動き取れないヤクザ、そのなかで暴れ回る元暴走族のアウトロー集団、そのアウトロー集団のなかに混じるヤクザの構成員。複雑な人間関係や立ち位置がおもしろい。
しっかりとした画力による迫力に満ちた格闘シーンや、カッコいい野郎どもの振る舞いにハートを掴まれたわけだが、興味深いのは簡単に暴力団沙汰など起こせない現代ヤクザの掛け合いであり、アウトロー集団たちの荒々しい人生模様であり、欲望渦巻く六本木や渋谷のデンジャラスな風景だ。
主人公の壮兵だけでなく、悪漢と思しき暴走連合の男たちの事情や関係性も、物語に厚みを与えている。この原稿を書いている五月時点では二巻しか発売されていないが、この先どのように展開していくのか。目が離せない注目作だ。あと勉強もさせてもらってます。押忍。
1975年生まれ、山形県在住。
第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2005年『果てしなき渇き』(宝島社文庫)でデビュー、累計36万部のベストセラーを記録。
他の著書に『ダブル』(幻冬舎)『デッドクルージング』(宝島社文庫)など。
女性刑事小説・八神瑛子シリーズ『アウトバーン』『アウトクラッシュ』『アウトサイダー』(幻冬舎文庫)が、累計36万部突破中。
『果てしなき渇き』を原作とした映画『渇き。
』が2014年6月27日より全国ロードショー。
ブログ「深町秋生のベテラン日記」も好評。
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深町氏は山形小説家(ライター)になろう講座出身。
詳細は文庫版『果てしなき渇き』の池上冬樹氏の解説参照。
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