東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

イラクで人質 今井紀明さん 不登校の高校生らを支援

自身が共同代表を務めるNPO法人主催の展示会で、通信制高校の生徒や知人と談笑する今井紀明さん(右)=大阪市で

写真

 二〇〇四年のイラク日本人人質事件で一時拘束された今井紀明さん(28)が、大阪市で不登校などを経た若者らの支援活動を行っている。「自己責任」を問う猛烈なバッシングに押しつぶされそうになりながら、ずっともがいてきた自分に重ね合わせてエールを送る。

 「以前は何もする気がなく、死んだようだったけど、人と接することが面白くなってきた」。約六年間いじめに遭ったことのある通信制高校の男子生徒(16)が笑顔を見せた。

 今年五月上旬、大阪市内のイベント施設で開かれた写真や書道の展示会。今井さんが共同代表を務める同市のNPO法人「D×P(ディーピー)」の支援を受ける男子生徒ら三人が出品した。

 今井さんらは不登校やいじめ被害の経験者が多い通信制高校などに、商社マンら多彩な講師役を派遣。離島の旅館などでの職場体験も実施し、仕事のやりがいや卒業後の目標を考えるきっかけを提供する。ニートになるのを防ぐのが狙いだ。

 今井さんは〇四年四月、イラク戦争で米軍が使用した劣化ウラン弾による被害の実態を伝えたいとの思いで渡航し、中部ファルージャで武装グループに拘束された。グループは今井さんらの命と引き換えに、復興支援のため駐留していた自衛隊の撤退を要求した。

 一時は死を覚悟したが八日後に解放。帰国すると、激しい批判が待ち受けていた。「非国民め、死んでしまえ」「無駄に使った税金を返せ」。自宅には百通以上の手紙や嫌がらせの電話が押し寄せ、兄は勤務先を辞めざるを得なくなった。

 外出するとじろじろと顔を見られ、知らない相手から罵声を浴びせられたり、いきなり殴られたりした。人とまともに会話ができなくなり、医者からは対人恐怖症と告げられた。

 暗い部屋に閉じこもる日々。「このままじゃ何も解決しない。批判する相手のことを理解しないと」と考え、しまい込んでいた手紙を少しずつ読み進めた。差出人の住所があれば返事を書いた。

 手紙の内容をブログで公開すると、非難のコメントが約六千件も殺到。相手に自分の連絡先を伝え、かかってきた電話に耳を傾けた。最初は怒鳴り声だった男性は約一時間後「おまえも大変だったな」と励まし、自分も仕事のことでつらさを感じていたと打ち明けた。

 対話を重ね、心の傷が癒えたと思えるまで、四〜五年を費やした。この約二年間で世話をした生徒ら約百五十人が抱えるしんどさに、そんな過去が重なる。「彼らを救える仕組みをつくりたい。周囲から自分を否定されてきた経験は同じだから」

 <イラク日本人人質事件> 2004年4月7日、イラク入りした今井紀明さんとボランティア高遠菜穂子さん、フォトジャーナリスト郡山総一郎さんを武装グループが中部ファルージャ近郊で拉致。武装グループの「3日以内に自衛隊がイラクから撤退しなければ殺害する」との要求を日本政府は拒否。3人は同15日に解放されたが、政府の退避勧告に反してイラク入りしたとして、政治家や官僚が批判。国内で「自己責任論」が巻き起こった。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo