ここから本文です

部下0人……「女性管理職インフレ」が止まらない

プレジデント 6月3日(火)8時45分配信

■2020年、女性課長30%達成で日本は滅ぶのか

 女性社員を役員や管理職に登用する動きが企業に広がっている。三井住友銀行やみずほ銀行で初の女性執行役員が誕生したほか、野村信託銀行では初の女性社長、大和証券グループ本社でも生え抜きの女性取締役が誕生した。

 役員だけではない。イオングループは現在10%の女性管理職比率を2016年までに30%、2020年までに50%にする計画を発表。NKSJホールディングスもグループで3.4%の比率を2015年度末に10%、2020年度末に30%にする目標を掲げている。

 こうした女性登用ラッシュの背景にあるのは昨年4月、安倍首相が経済界に対して行った以下の要請だ。

 <「2020年30%」の政府目標の達成に向けて、全上場企業において積極的に役員・管理職に女性を登用する。まずは役員に1人は女性を登用する>

 つまり、2020年までに課長職以上の女性比率を30%にしなさいというものだ。

 そしてこの数値目標は昨年6月に閣議決定した成長戦略にも盛り込まれ、いわば国家目標になった。その趣旨は少子高齢化による労働力人口が減少する中で潜在的資源である女性の力を、経済成長を支える原動力にしようというものだ。

 それはそれで結構なことであるが、果たして30%達成は可能なのか。

 2013年の民間企業の課長相当職以上の女性比率は7.5%にすぎない。20年までの7年間に2.5倍以上に引き上げなければならない。

 客観的に見ても無理筋な数値としか思えない。それでも安倍首相はやる気なのだろう。今年1月の世界経済フォーラム会議(ダボス会議)でも「2020年までに、指導的地位にいる人の3割を、女性にします」と発言。世界に大見得を切った。そして昨年から今年にかけて全省庁を挙げて目標達成に向けた政策の実施や企業への働きかけを強化している。

■今春入社の女性が6年後、"全員"課長になれる会社

 それを受けて経団連や各企業はこぞって女性比率の計画数値を公表し、登用に力を入れている。だが、無理矢理、数合わせのために目標を達成しても必ず弊害が発生する。すでに企業の現場では問題も発生している。

 ある住宅設備メーカーの人事課長は「経営トップは女性管理職を増やせと言っているが、30%を達成しようにも女性社員が全体で2割もいない。課長手前の係長も5%しかおらず、全員を課長に上げても足りない。すでに女性の課長候補者のほとんどは昇進させたために、課長手前の女性社員の空洞化も発生している」と語る。

 また、職場では不穏な空気も流れていると語るのは金融業の人事課長だ。

 「昇進審査では『女性枠』というものが存在している。本来は課長にふさわしい経験と能力があるかを審査するが、女性に関しては『女性の割には優秀だよね』といった視点で昇進させる。本来なら選ばれないのに、下駄を履かせて昇進させていることが職場にも伝わり、逆差別ではないかという声もある」

 これでは女性もいい迷惑である。本来、課長になるべき女性が昇進しても、同僚や部下から色眼鏡で見られることになり、仕事もやりにくいだろう。

 もともと女性社員が少ない建設業はもっと深刻だ。

 人事課長は「トップの意向で史上最年少の女性課長を誕生させたが、2段跳びの昇格だった。といっても部下を率いる課長ではなく、部下なしの専門職課長だ。正直言ってマネジメント能力はないが、部下なし課長に上げている女性は多い」と語る。

 このまま行けば今年入社した女性を2020年には課長にしなければ間に合わないという嘆く人事担当者もいる。

 経営トップの意向で数値目標が目的化した昇進が続くと上司と部下の信頼関係が崩れ、当然、業務に支障を来し、生産性が低下することになりかねない。

 現在、多くの企業は「名プレイヤーイコール名監督ならず」の考えのもとで、管理職にふさわしいリーダーシップや部下の育成など経験と能力を持つ「マネジメントのプロ」の育成に注力している最中だ。

 そんな矢先にたいした基準も設けず、促成で女性管理職を無理矢理増やすようなことをやっていると、企業の発展どころか成長を阻害することになってしまう。

前へ12
2ページ中1ページ目を表示

最終更新:6月3日(火)11時30分

プレジデント

 

記事提供社からのご案内(外部サイト)

PR

注目の情報


他のランキングを見る