若いころ、人生の成否を決めるものは、才能と運ではないかと思っていた。
何をもって「人生の成否」というのか、ということは今は問わない。
ここでは、多くの人を幸せにすればするほど、社会への影響力が大きければ大きいほど、成功した人生だと定義する。
さて、最近とくに思うのだが、それを決めるのは、結局は「動機の強さ」ではないかと。
動機というものの強さは、外からは計ることはできない。
だけど、ある種の人たちは、並外れた動機の強さを持っていて、それがいつも湧き出して枯れることがない。地下に油田を抱えているようなもので、ポンプから石油が常に湧き出し燃え続けている。
人間の動機については、「マズローの欲求段階説」をはじめさまざまな心理学の理論があるのだと思う。
どんな種類の動機からそれが発しているかということについては、ある程度推理することができる。
昔、『荒野の7人』という西部劇を見て、子供ごころに、「人間の動機というのは、お金だったり、友への信頼だったり、正義だったり、人それぞれなんだな」と思ったものだ。
マズローにせよ、『荒野の7人』にせよ、それはあまりに単純化し過ぎているとは思うが、おそらくそいう様々なものが濃淡をもって人それぞれの心に宿っているのだろう。
それにしても、それぞれの人間がもっている「動機の強さのレベル」を計る方法はないのではないだろうか。
たとえば、である。
ソフトバンクの孫さんと僕はどちらも企業経営者であるが、その社会に対する影響力は全宇宙と豆粒ぐらいの差がある。
もちろん、能力の差も大きい。さっさと自動翻訳機をつくって資金をつくってしまうほどの人だから、僕の数百倍、数千倍、「アタマ」がいいに違いない。だけど、それはTwitterのフォロアー数の差ほどはないような気もする(200万人 vs 3千人)。
孫さんだけでなく、たくさんアタマの良いひとを見て驚愕してきたので、そのあたりはある程度実感としてわかるし、想像できる。
だが、やはり、孫さんと僕の決定的な差、Twitterのフォロアー数ほども差があるのは、「動機の強さ」ではないかと思うのだ。
才能がとんでもなく突出していなくても、たいていのことは10年の訓練を経れば、人間はその道の達人になることができるという。
だが、ほとんどの人は途中で動機の泉が枯れて諦めてしまう。
強い動機をもっている人だけが、その10年を歩きぬき、それだけでなく、どれほどの困難が予想されようと、躊躇せずに次から次へと挑戦を続けていく。失敗をもろともしない。8敗してもひとつの大勝を得て、また、勝負の世界へと飛び込んでいく。
孫さん生い立ちがそれを作ったのだという話がある。
恵まれない子供時代や、九死に一生を得たことから人生が変わった話というのは、ほかの有名実業家などからよく聞く話だ。
一般的には「動機の強さ」を形作るものは、生い立ちや経験であると説明されることが多いように思う。
しかし、子供の頃に試練を受けたものが、すべて強い動機を持っているかというと、それも違うような気がする。そういう体験をしても、ある程度の欲求が満たされると、人間というものはそこで動機を枯らしてしまいがちなものではないのか、と思うのだ。
実は、先日、昔薫陶を受けた上司が飲みに誘ってくださったので行ってきたのだが、若いビジネスマンに何かアドバイスがありますか、と聞いたら、こんな話をしてくださった。
若いビジネスマンに足りないのは「生きる直感力」だ。
生きるか死ぬかというような状況、たとえば、山の中で迷って食べるものが無くなり、最後にみつけたキノコが毒キノコなのか食べれるものなのか迷うような体験。そういう体験が決定的に欠けているので、その場で磨かれるはずの、いざというときの直感力がない。
でも、いまの現代社会で、そんな体験できますか?
そのものが無理でも、1ミリでもいいからそれに近づくような体験を、自分で探して求めていったらいいやないか。
たとえば、バックパックを背負った後進国への貧乏旅行でもいいし、断食みたいなことでもよいそうである。
この話に、僕は凄く納得した。
しばらく前に読んだサイバードの堀主知ロバートさんを紹介した記事に、なぜ彼が結局は大事故に至ってしまったウェイクボードやレースを辞めなかったのかという話があり、それと根本でつながっているように思えた。
さて、孫さんや堀さんのような何百万人にひとりのスーパースターの話をするのはやめよう。
たぶん、凡百の僕らは、彼らのような動機の油田を抱えて生まれては来なかった。
だから、いくらなりたくても、彼らのようにはなれない。
だけど、普段の生活の中で、いくらかは「動機の強さ」をたかめる方法はあるような気がする。
僕の元上司が言うように、みずから望んで極限に近い状況に自分を置いてみるということもひとつの方法なのかもしれない。
あるいは、なるべくそれに近い人を身近に探して、その人と深く付き合うことで、良い影響をもらう、エネルギーをもらうということもできるかもしれない。
すべては、動機の強さが決める。
そう思う。
photo by Paxson Woelber